情感豊かなメロディーとブルーな薫りに包まれて――才気に溢れる新進のシンガー・ソングライターが佐賀より届ける程良い熱の便り

 2015年にリリースされた5曲入りの初作『apocenter』は、〈ちょっといい雰囲気〉の音楽として楽しめる気取りのなさを湛えながらも、それだけでやり過ごすにはもったいない才能の煌めきを感じさせる作品でした。そのサウンドは、メロウなソウル・ミュージックやAORをフェイヴァリットとしたイマドキのセンス良いアーティストたちとほど近い線上にありながら、ほんのりエアリーなヴォーカルと〈掴み〉の強いメロディーは、ひと目で彼とわかるチャームを瞬かせていて……。

中島孝 RAFT Bermuda(2016)

 その前作での名義=Nakakoh改め、中島孝(なかしまこう)、24歳。佐賀県出身で、現在も地元をベースに活動するシンガー・ソングライターが、ファーストEPと銘打ってこのたび届けてくれた『RAFT』という作品。クレジットを眺めてみると、アレンジャーには自身の名のほか、instant cytron長瀬五郎INO hidefumiとのコラボでも話題となったポップ・デュオのカンバス、アイドル・グループのLinQを手掛けてきたSHiNTAといった九州勢に加え、昨年6月のジャパン・ツアーで共演/意気投合したインドネシアの都会派バンド、イックバルが名を連ねる。

 それらの面々によってトリートメントされた『RAFT』は、前作よりもアコースティック楽器特有の温度感やバンド・サウンドのダイナミズムが活かされたトラックメイキングで、彼のソングライティング・センスをさらに引き立てている印象。16分を刻むギターとリヴァーブの効いたパーカッションが交わる背景でメロディアスなストリングスが泳ぐオープニング“SILENT STORY”、ロマンティックなナイトヴューが目に浮かぶようなミディアム・ファンク“drop”、エレクトロ・テイストの『apocenter』収録ヴァージョンからアコースティック・ギターが前面に押し出されるアレンジへと衣替えした“YUKIDOKE”(現時点での彼の代表曲と言ってもよい)、ハートフルな手触りなアシッド・フォーク調の“nagisa”、ブルーイッシュなスロウ・ナンバー“HELLO”、神々しさすら感じさせる麗しい弦楽バラード“shonen”――収められた楽曲は6曲。デリケートに編まれていくトラック、自問自答を繰り返すなかで生み出されるようなナイーヴでブルーな歌詞……でありながら聴き手をうつむかせない、むしろ鼓動を高める情感豊かな歌声とメロディー。音のそこかしこから心地良い微熱が迸る一枚です。