INTERVIEW

シューゲ・エレクトロニカの麗しき歌姫、fraqseaがテクノ・ビート加えた躍動感溢れる新作『Star Cocktail』の背景を語る

  • Share on Tumblr
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 2016.02.19
シューゲ・エレクトロニカの麗しき歌姫、fraqseaがテクノ・ビート加えた躍動感溢れる新作『Star Cocktail』の背景を語る

浮遊感溢れるシューゲイザー・サウンドを作り出すデュオ、Shellingの片割れとして知られ、ソロ・ユニットのfraqseaでも、アンニュイなウィスパー・ヴォイスを活かしたエレクトロニカ・サウンドで人気を博してきたaya。彼女のfraqsea名義では2作目となるニュー・アルバム『Star Cocktail』が完成した。

一聴して耳を惹くのは、硬質なマシーン・ビートとトランシーなシンセ・フレーズによるテクノ・サウンド。そして、それらの中心でダンスしながら、躍動的なメロディーを紡いでいくfraqseaの歌声だ。これまでの彼女の魅力だった透明な美しさはそのままに、今作では銀河まで飛び立っていきそうなスペーシーな疾走感が加わっている。2013年の初作『Majoram』から約3年、『Star Cocktail』でのアップデートにはどんな背景があったのか。現在の音楽嗜好や、意外にもバック・トゥ・ルーツであったという制作方法まで、HEADZ植松幸太が迫った。 ※Mikiki編集部

fraqsea Star Cocktail PROGRESSIVE FOrM(2016)

――新作のリリース、おめでとうございます。インタヴューにあたってPROGRESSIVE FOrMnikさんから音源をメールでいただいたのですが、今作の予備知識なしにShellingや前作のイメージのまま聴いたので驚きました。最初はデータを間違えたのかとも……(笑)。

「スタートは1年前、2015年の1月くらいでしたね、私はクラブ・ミュージックがもともと好きなんですけど、そのときもハウスをひたすら聴いていて、聴いているうちにこういうのも作ってみたいなと思ったんです。Shellingやfraqseaに関係なく、ただ自分のための勉強や練習という意味で、クラブ・ミュージック寄りの音作りを始めて、何曲か作っていた。それをnikさんに送ってみたんです。それがこのアルバムの中心になったんですよ。もとからポップアルバムみたいなものは作りたかったし、そこも今回重なったのかもしれない」

――なるほど。ちなみにそのとき聴かれていたハウスはどんなものを?

マンゴーとかちょっと懐かしい感じの(笑)。うたもののハウスも好きで、カスケードサマンサ・ジェイムズあたりも聴いていました」

カスケードの2003年作『It's You, It's Me』収録曲“It's You, It's Me”

 

――クラブ寄りのサウンドを制作するうえで、作り方にはどんな変化があったのでしょうか?

「まず、歌い方が違うというか。Shellingやいままでのfraqseaだったら、空間系の音を意識して、歌い方も変化させて、声も加工していたんですけど、今回はメロディーをまず決めて、自分の一番出しやすいキーに合わせて作っていきました。あとは最初にリズムから作りだすとか」

――確かに前作やShellingの音源よりも輪郭がくっきりしていますよね。

「ほぼ加工せずに、輪郭を強調させました。あと日本語の歌詞を前面に出したんです」

 

――以前のShellingのインタビューでは、〈実は歌詞にはこだわりもあるし、書きたいんです〉というのを読みました。

「もともと私が音楽を作りはじめたのは、ギターの弾き語りみたいな形からなんです。16才くらいのときで、河原で歌ったりしてました(笑)。いまでもそうしているんですけど、歌詞を思いついたとき、メモ帳に書き溜めているんです。歌詞には心情ももちろん入っていますが、言葉遊びのように、自分の思う響きの良い言葉を並べたりするのも好きですね」

――Shellingでも作詞・作曲をされてますよね。Shellingとfraqseaの差異や線引きはどのあたりにあるのでしょうか?

「Shellingの場合だと、聴いていて映像の浮かぶような音楽というのをテーマにしていて、空間における幻想性みたいなものを重視しているというか、テーマをまず決めてから音作りをしていくんですね。まず私が作ったものをメンバーのshotaさんに渡して、それからスタジオで音作りをしていく。お互いにギターを使った音作りが多いんです。fraqseaの場合は、まったくテーマやイメージを決めずに、まずは自由にやるというのが大きな違いですね」

――ソロの場合は特にギターからというわけではない?

「でも弾き語りの曲もあるんですよ。本当にさまざまというか、決めないでやっています」

――今作に収録された楽曲のなかで、いままでと曲調の違う打ち込みの曲などは、機材や制作環境も変えられているんでしょうか?

「それは同じですね。例えば“Always With U”や“Cardinal Point”は最初にシンセサイザーの音から決めていきました。ちょっとアンビエント要素のある音から作り始めて、それに四つ打ちを融合させたらどうなるんだろう?という試みで出来た曲なので、完全にはクラブ・ミュージックでもないと思うんですが、そういう試みをやってみました。“Icecream Holic”や“Love Tonight”なんかはポップというのを意識して作った曲ですね」

 ――2015リリースされた、Shintaro Aokiさんとのプロジェクト、UNITE SATISFYの『7 UTTER』は純テクノな作品でしたが、あの制作をしたことが今作にも影響を与えていますか?

「あのプロジェクトは、お互いにテクノが好きだったというのがあって〈やってみたいね〉となったんです。それまでにもピアノ曲――Aokiさんがピアノをやられて、私が声を乗せてというのはやったことがあったんですけど、それとはもうまったく違ったテクノをやってみようと。テクノでは、私は石野卓球さんやルーク・スレーターをよく聴いていました。あとジャーマン・テクノも好きですね」

UNITE SATISFYの2015年作『7 UTTER』のダイジェスト音源

 

――ayaさんは2015年のベスト・アルバムにもスキューバの『Claustrophobia』などを選ばれていましたね。

スキューバモアレとか、うわものがなくて、ただディープなキックが鳴っているとかそういうのが好きですね。それをひたすら聴いています。御茶ノ水のジャニスに、辺境系アーティストみたいな括りでそういうアーティストがたくさん置いてあるんです」

――いろいろな音楽を聴かれているんですね。ちなみに、こちらも昨年のベストに選出されていた、猫 シ Corp.というアーティストはどんなサウンドなんですか。

「どこの国だったかな(編集部注:オランダ)。ヴェイパーウェイヴなんですけど。そういうのも好きで聴いてるんですよ。根本的にミニマルなものが好きなのかもしれない。猫 シ Corp.も結構ずっとワンフレーズをミニマルに鳴らしているし、ヴェイパーウェイヴってそういう感じがありますよね」

猫 シ Corp. & Stereo Componentの2014年作『Ocean Beach』収録曲“〰Ⓦⓐⓥⓔⓢ〰”

 

――なるほど。ヴェイパーの影響は今作には反映されていますか?

「それは出てないですね(笑)。“Icecream Holic”や“Love Tonight”は、エレポップというか、そのあたりは意識しますけど。でも“My Own Way”のシンセサイザーはヴェイパーっぽさもあるのかも。ちょっと懐かしさもあって。私、1曲好きだなという曲があると、ずっとそればっかりを聴いちゃうんですよね」」

――では、今作を作っていたときにひたすら聴いていた1曲は?

「うーん、なんだったかなぁ。アルファ9の“Bliss”をずっと聴いてましたね。ハウス・ミュージックで、ちょっと声が入ってるみたいな曲です」

アルファ9の2009年の楽曲“Bliss”

 

――いまは本当にテクノやハウスのモードなんですね。逆にShellingみたいなものがやりたくなったりは?

「去年の12月に台湾でShellingのライヴをしたときに、ちょっとそれは思いました。もちろんShellingを好きでいてくれる人もいるので、スタジオに入ってそういう音を出すと、やっぱりこういう音もいいなぁって。チルウェイヴも好きなので、チルウェイヴのポップさといままでのシューゲイザーの要素を融合して……あっ、でもこれは言っても良いのかわからないですけど(笑)、そういうのもやってみたいなぁと思っています。もうちょっと声を前面に出すのも――それはいままでShellingを好きだった人がどう思うかはわからないですけど、やってみたいです」

――ayaさんは歌い手としてもいろいろな作品にゲスト参加されていますよね。印象深かった参加曲はありますか?

「いままでは、ちょっとゆったり目の音響系とかそういう方の楽曲への参加が多かったんですけど、一番最近MaltineからのEP『Cruel』でフィーチャーしてもらったLLLLさんは結構ポップで、そういう人とコラボレーションをしたのは初めてだったのでおもしろかったですね」

fraqseaをフィーチャーしたLLLLの2015年のEP『Cruel』収録曲“ねえ、いない”

 

――そのときの体験は自分の作品にフィードバックされていますか?

「はい。声の音程や歌い方の幅が広がったというか」

――peachonfuseさんとのコラボ・プロジェクトも昨年公開されていましたね。

「あれはpeachonfuseさんから一緒にやらないかという話をいただきました。いまではプライベートでも仲良くしてもらっています。〈ガールズ・コラボレーションって良いよね〉となりました。いまリミックスを募集していて、フランスのフルジェンスがオフィシャルのリミックスをしてくれたんです」

peachonfuse×fraqseaの2015年の楽曲“Come inside”のフルジェンスによるリミックス

 

――Shellingを聴けばわかるように、ayaさんのルーツの1つにはシューゲイザーがあると思うんですが、そのあたりのお話しも伺えますか?

「実は、もともと聴いていたのはオルタナメロコアなんですよ。それから音楽雑誌を読みはじめて、アーティストが使っている機材やギターのエフェクターに注目するようになり、楽器屋さんでいろいろ触っていくうちに、コンパクト・エフェクターが好きになっていった。エフェクターって可愛いですよね。なんか愛着が湧くんです」

――ちなみに一番好きなエフェクターは?

「やっぱりBOSSのDD-3ですね! デジタル・ディレイのエフェクターです」

Shellingの2014年作『Aquarium Sympathy』収録曲“Lake To Love”

 

――Shellingはどんなふうにスタートしたんですか?

「Shellingは、当時ネットのバンド・メンバー募集サイトを通じて、最初はドラマーの人とギター・ロックやオルタナのバンドのコピーをやろうと始めたんです。そのあとに現メンバーのshotaさんが入って、3人になった。自分としてはオリジナルがやってみたかったというのと、仕事の時間帯が合わないとかいろいろあって、ドラムの人が抜け、結局2人で結成しました」

――ギターが2人になったことによって、必然的にシューゲイザー・サウンドに近づいていったのかもしれないですね。

「でも最初は全然シューゲイザーじゃなかったです。エレポップみたいなものをずっとやってたんですよ。打ち込みでシンセザイザーやシーケンサーも使って」

――では、そのときの経験が今回の作品でも活きている?

「それはすごくあると思います。タイトルの『Star Cocktail』も、その頃からあった言葉なんです」

――Shellingの結成直後というのはayaさんにとって音楽家としての初期ですよね。そこにいま立ち戻ってきているというのはおもしろいですね。

「歌詞もその頃のものが入っていますし、言葉だけでなくメロディーもそうなんですよ。まさかそのときに使っていたフレーズや言葉や音が、2016年にアルバムになるとは思わなかったです。“Always With U”に〈舞い上がる好奇心を 再生させる〉という歌詞があるんですけど、当時もこの言葉を歌っていたんですよ。ちょうど1年前に曲を作っていたときに、ちょっと部屋の整理もしていたんです。そこで昔書いていた歌詞を見返してみて、あっこれはいまでも使いたいなと思った」

 ――ある意味ファースト・アルバムよりもファースト的というか。初期衝動が月日を経てここに入っている。

「このアルバムには前進していこうというテーマもあるんですよ、歌詞で〈再生〉や〈前進〉と歌っていて、そういう思いもありつつ、過去に作った曲の歌詞にも〈再生〉や〈前進〉と書いていたのがおもしろいなと思いました」

――逆に新しめの曲はどのあたりでしょうか?

「“Star Cocktail”や“Take Me Away”は、収録曲がある程度決まってから、もう少し作ってみようと思って作った曲です。“Star Cocktail”は、完全に夏をイメージした曲で、歌い方もかなり変えています。結構強めに歌ってみて、それで歌い方の幅も広がるという発見もありました」

――ではそのあたりが最新型fraqseaということですね。

「そうですね」

――なお、アディショナル・プロダクションで、疋田哲也+NILがクレジットされていますが、彼らが今作に加えたものとは?

「8、9割作ったあとに、ちょっとリズムに重みを加えてもらったり効果音を付けていただいたりしました。大変ありがたかったですね。NILさんはすごく女子力のある方で(笑)、お2人ともほんわかしているんですが、音に関しては物凄くこだわっていただいて、理想以上になりました。マスタリングはKASHIWA Daisukeさんにやっていただいたのですが、お仕事も速く、素晴らしく仕上げていただいて、魔法みたいでしたよ」

――今後の予定は?

「4月7日(木)に都内にてリリース・パーティーを計画しています」

――最後にリスナーへ向けてメッセージをお願いします。

「私の音楽はアンビエントとかそういうイメージだと思うんですけど、今回はこういうちょっと軽快なことを試みてみました。どういう反応をいただけるかはわからないですけど、でも楽しんでもらいたい、と思っています」

――不安ですか?

「不安というか、もうやったよ!みたいな(笑)。あとは自由に聴いて考えてもらいたいですね。曲自体はヴァリエーションがあって、それを〈star〉というか、散りばめられている感じにしているので、そこを楽しんでもらえればいいなと思います」

――星は散りばめたので、あとは各々が星座をみつけてくださいと。

「はい。カクテルも飲んで(笑)……楽しんでください。通勤中だったり、家で気分転換したいときだったり、いろんなときに聴いていただけたら嬉しいです」

関連アーティスト