僕はめっちゃ叩くイメージだと思うけど、
自分の曲だとドラムのことはそこまで考えていない(石若)

――また『CLEANUP』の話に戻りましょうか。“A View From Dan Dan”はすごくフォーキーな曲だけど、ああいう演奏は普段からしているの?

井上「しないですね。レコーディングでギターをジャンジャカしたのは初めてだったので、3日前くらいから練習しましたよ。ジャンジャカ弾くのも奥が深くて、シンガー・ソングライターのそういう演奏が好きなんです。専業ギタリストの演奏よりも、身体とギターが一体化しているように聴こえるんですよね」

――あー、確かに。

井上「ちなみに、駿くんの曲は譜割や拍のタイミングが独特で、跨いでいかなきゃいけないから、ただ普通に弾いてるわけじゃないんですよ。右手はすごいシンプルだけど、左手は規則的ではないコード進行をしなくちゃいけないというのが難しかったですね」

――そうか、難しい曲なんですね。

石若「譜面を見たら相当難しいんですけど、そう聴こえないようになっていますね」

井上「そう、シンプルに聴こえる。実はこの曲が一番緊張しました。フォーキーなところから、ソロでいきなり歪んだサウンドに変えるのを一発録りでやってるんですよ。普通のレコーディングだったら、そこは分けて録ると思うんですけど、それを一発でやるから自分で繋がないといけない。ソロになったら(エフェクトを)切り替えて、終わったら演奏のヴォリュームも戻して、ということへのプレッシャーがありましたね」

石若「しかも、この曲は半音下げチューニングでお願いしたんです。(普通の)ジャズだとあり得ないですよね。キーがE♭で、最低音がEなんですけど、ジャーンてやってた時にE♭も一緒に鳴っていてほしいから、わざとそこを下げて。そのへんはロックっぽい」

――〈一発で録る〉というのはこだわり?

石若「今回はそれしかないなと思って。そんなに作り込む感じの曲でもないし、一発でやることでその時の匂いやムードといったものが出るかなと。あとは全部分けて録った時の、綺麗すぎる感じが好きじゃないんですよ。それよりは泥がちょっと付いているくらいの質感のほうが好きですね。ということで、今回はベーシストだけブースに入って、あとはみんな同じ部屋で録りました。わりと思いきり叩いたけど、ちょうどいい成分が重なってましたね」

――ジャズのアルバムを録るには、そのほうがいい場合も多いよね。

石若「もし次にビート・ミュージック系のアルバムを作ることになったら、ドラムは絶対に別の部屋にして、一発録りではあり得ないことに挑戦したいですね。今回はジャズのアルバムを作ろうということだったから、そのために自分がベストだと思うシチュエーションでやらせてもらった感じです」

石若駿 trio feat. Juaによる、2016年の〈J Dilla Session〉の映像。アーロン・チューライ(ピアノ)は『CLEANUP』にも参加

 

――そういう空気感も含めて、ストレートアヘッドなジャズ・アルバムになったよね。

石若「たまたまなんですよ。学生時代から書き貯めていた曲が多くて、それをアルバムにして形に残そうと思っていたので、何かコンセプトがあったというよりは、自分のオリジナル曲をたくさん集めた作品集、みたいな感じですね。バラバラにあるものを収めようとしたから、自分でもどんなアルバムになるのか想像つかなかったし、それで出来上がってみたら、結果的にストレートアヘッドなジャズに聴こえるという感想が多かった」

井上「それなのに、すごく成熟したアルバムだよね。レコーディングはわりとフワッと進行していて、その場のノリで作った印象だったんですけど、完成してみたらすごく良くて。自分がこれまで参加したアルバムのなかで一番好きかもしれない」

――そうそう、成熟しているんだよね。あとはドラマーがリーダーだからドラム自体が目立つわけではないというのも、いまやあたりまえのことだけど、それにしても控えめだね。

石若「そうですね、ソロも1曲のワンコーラスくらいしかないし。石若駿といえばめっちゃ叩くイメージだと思うんですけど、今回はあまり叩いてないですね。宮川純バンドだったら、彼らがやりたいことがわかるから、〈こういう風に叩いてほしい〉というリクエストに応えて叩きまくったりもするんですけど、自分の曲だとピアノで作っているのもあって、実はドラムのことはそこまで考えていないんです」

――ドラムからというか、リズムから作った曲はない?

石若「ないですね。どれもメロディーとハーモニーから作ってました。今度はリズムから作るのもいいかなと思いますけどね。クリスチャン・スコットの『Stretch Music』みたいに。アレは絶対にリズムから指定して作っていると思うんですよ。そういうふうに、ドラムから作るのもおもしろいかなと」

――ブライアン・ブレイドアントニオ・サンチェスも、作曲家のモードになったら、ドラマーとしての自分をそこまで考慮していない感じがするもんね。作曲家として取り組むとそうなるもの?

石若「そう思いますね」

クリスチャン・スコットの2015年作『Stretch Music』収録曲“Sunrise In Beijing”

 

ブライアン・ブレイド・フェローシップの2014年作『Landmarks』収録曲“He Died Fighting”

 

――ドラマーは〈あえて控えめにする〉くらいの感じがあるよね。アート・ブレイキーマックス・ローチのような、自分で曲を書いてないリーダーは叩きまくっていたけど。

石若「作曲家としてやるかどうか、そこじゃないですかね」

――ギタリストは逆だよね。(リーダーの)ギターが中心になるイメージだし、いかにもギターで作りましたって感じの曲になるし。

井上「ギタリストは出ますよね。そこが弱点でもあるかなとは思います。ちなみに、『CLEANUP』のミックスの感じを聴くと、ドラムの音色が良く録れているから、そういう意味ではドラムのリーダーっぽい気もしますね」

石若「最終的には、ドラムの音をかなり出しましたね」

――最初は、もっと小さくしたいと言ってたらしいじゃないですか?

石若「みんながもっとドラム(の音量を)上げてと言うんです。〈これだとドラムしか聴こえないよ〉と思ってたんですけど、完成してみたら大きくして正解でしたね。

井上「そうだよ、ドラムがデカめのミックスは迫力も生まれるし」

――石若駿のファースト・アルバムだし、きっとドラムがすごいことになっているんだろうと思う人もいただろうけど。

石若「ドラマーとしての自分を求めている人も多いというのはわかってましたけど、今回は作曲家としての石若駿を出してみました。だって、いつもライヴで叩いているからいいじゃないですか(笑)。ドラムを聴きたかったらライヴで観てほしいですね。東京ザヴィヌルバッハの時とか相当叩いてますよ。いつも大変なんです、ライヴが終わった後に腕が腫れてますもん(笑)」

石若が参加した、東京ザヴィヌルバッハ人力SPECIALのライヴ映像

 

――ハハハ(笑)。レコーディングでしか出せない自分というのもあるからね。ちなみに、北園みなみが昨年末にリリースしたEP『Never Let Me Go』に石若くんや若手ジャズメンが参加したのも話題になったよね(※北園のインタヴュー記事はこちら)。レコーディングはどんな感じだったの?

石若「譜面がガッツリ用意されていて、難しかったですね。魚返明未くんや楠井五月さんもいるし(即興的で)ラフな感じかなと思って行ってみたら、譜面があるじゃんって。しかも、タムの位置まで全部書いてあって、ドラマーが普通はやらないことも指定してあったんですよ。〈ここからここまでの1小節の間でスティックからマレットに持ち替えて、タムを叩きながら、左足は3連符で刻んでください〉みたいなのとか」

――へー、おもしろい!

石若「たぶん、北園さんは僕らのサウンドが欲しかったんでしょうね。もともとSoundCloudで(北園の)曲を聴いててカッコイイと思っていたし、レコーディングもすごく楽しかったです。ただ、北園さんはライヴをしない主義らしいのが残念ですね。個人的にはライヴしてほしいな」

北園みなみの2015年作『Never Let Me Go』のダイジェスト音源

 

――こうやって、いろんなフィールドでジャズ・ミュージシャンが起用されていくようになるとおもしろいよね。ジャズに興味を持ってくれるリスナーも増えるだろうし。

井上「確かに。ジャズのリスナーといえば50~60代くらいの人が多い印象があって、それは自分たちの上の世代が獲得してきたファンだと思うんですよ。それから自分がその年齢になった時に、誰の前で演奏するんだろうという不安はありますからね」

――でも、石若くんが関わっている〈JAZZ SUMMIT TOKYO〉は、2人と近い世代のファンを時間をかけて作っていこうというプロジェクトだし、いまはそういうアクションをやりはじめたところでもあるよね。最近は仲間が増えて、やりやすくなった感じはあるんじゃない?

井上「そうですね。ここ2年くらいで同世代の仲間が一気に増えたという実感もあって。だから、みんなで何かができる気はしています。先輩のジャズ・ミュージシャンたちを見ていて、その世代ごとのカラーみたいなものを感じるんですよね。大坂昌彦さんの世代、小沼ようすけさんの世代といったふうに。僕たち20代前半はまだハッキリしていないけど、これから20代後半に差し掛かっていくなかで、そういうカラーが出てくるとおもしろいかなと」

〈JAZZ SUMMIT TOKYO 2015〉のプロモーション映像

 

――黒田卓也小川慶太中村恭士といった30代はアメリカに留学して、そのままアメリカに残って活躍している人が脚光を浴びているイメージがあるけど、石若くんや銘くんの世代は、海外で活躍している人もいるものの、日本をメインに活動している若手がどんどん注目されはじめている印象があって。そこに僕はワクワクしているんだよね。

石若「大坂さんも同じようなことを言ってました。〈最近は、日本で活動しているミュージシャンががんばってていいよね〉みたいに。ここからおもしろいシーンを作っていけたらいいかなと思ってます」