全てをキャンセルしてでも聴くべきプロジェクト!

 今年の4月にある「ポリーニ・プロデュースによる室内楽」。錚々たるアーティストが10分間の前後のセクエンツァ演奏をするために来日する、というポリーニしかできない公演だろう。もちろん僕は作曲家なので、これらの作品をとてもよく知っている。大学生時代によく図書館から楽譜を借りてきてはその当時に出たアンテルコンタンポランのベリオのセクエンツァ・ボックスセットを聴きながら勉強したものだ。

 今年の初めに亡くなったブーレーズ。僕は自分の作品を指揮してもらったり、そうでない時でも結構会う機会が多かったので、大変悲しく思う。このタイミングで、ブーレーズの一番エレガントな作品である《弦楽四重奏のための書》が演奏されるのは意味深だ。研ぎ澄まされた、僕にとってはウィスキーのグレンフィデッチのような、「なんだ癖がないウィスキーじゃないか」と思って飲めばその滑らかさに太刀打ちできないという感覚があるような作品。これを演奏するジャック四重奏団は実は僕と同じ年にブーレーズ・アカデミーと言われるルツェルン・アカデミーに生徒として参加していた。そこから大ブレークして、今やアメリカだけではなく、現代音楽には欠かせない、重要な弦楽四重奏にまでになった。

 ヴィオラのクリストフ・デジャルダン、クラリネットのアラン・ダミアン、ファゴットのパスカル・ガロワは僕もよく知っている、みんなアンサンブル・アンテルコンタンポランにいる/いた人たち。アラン・ダミアンはちょうど僕のオペラ「ソラリス」でもクラリネットを吹いてもらったし、クリストフ・デジャルダンはものすごい超技巧かつ情熱的な演奏をする人で僕も何回も弾いてもらっている。パスカル・ガロワはパリに行くといつも泊めてもらうくらい仲の良い友人。パスカルはあんまりファゴットのセクエンツァを書く興味がなさそうだったベリオを説得して説得して書いてもらい、何回もベリオの家に行き実験をしたりしたそうだ。ちょっとしたウォーミングアップで吹いた音に「ん? 今の何? どうやってその音出したんだ!?」と聞くベリオ。かなりのコラボレーションがあって出来上がった曲で、僕個人的にはセクエンツァの中でも最高の作品なのではないか、と思う。それにこのセクエンツァのおかげで、ファゴットはカッコイイ楽器、になった。

 そうした歴史を変えた作品群と、その作曲家と親密にコラボレーションした演奏家達の音楽がこの2つのコンサートで一気に聴ける。全てをキャンセルしてでも行くべき、聴き逃すことのできないコンサートになると思う。

ジャック四重奏団によるパフォーマンス映像

 


LIVE INFORMATION

ポリーニ・プロジェクト(東京・春・音楽祭―東京のオペラの森―)
ベリオ、ブーレーズ、ベートーヴェン
~ポリーニ・プロデュースによる室内楽


○4/14(木)19:00開演 
会場:東京文化会館 小ホール(東京)
出演:ジャック四重奏団 クリストフ・デジャルダン(va)工藤重典(fl)篠﨑和子(hp)
曲目:ベリオ:セクエンツァ[I.(フルートのための)/II.(ハープのための)/VI.(ヴィオラのための)]
ブーレーズ:《弦楽四重奏のための書》より[Ia/Ib/II/IIIa/IIIb/IIIc]
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 op.74 《ハープ》

○4/15(金)19:00開演
会場:東京文化会館 小ホール(東京)
出演:ジャック四重奏団 古部賢一(ob)アラン・ダミアン(cl)パスカル・ガロワ(fg)
曲目:ベリオ:セクエンツァ[VII.(オーボエのための)/IX.(クラリネットのための)XII.(ファゴットのための)]
ブーレーズ:《弦楽四重奏のための書》より[V/VI]
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第16番 ヘ長調 op.135

※本公演へのマウリツィオ・ポリーニの出演はございません。
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3030.html/