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 それらをひと括りにしてよいのかは知らないが、泉まくらDAOKOが脚光を浴びて以降、水曜日のカンパネラからゆるめるモ!からラブリーサマーちゃんに至るまで、既存のメインストリーム(とされる表現)に飽き足らないタイプのグッド・ミュージック・リスナーたちにとっての、オルタナティヴなポップスとしての存在感を高めている一群がある。ポスト・インターネット的な価値観とか、二次元文化が一般化して以降の新しいナード~サブカル感覚とか、アイドルも原宿も引っ括めた利口な女の子カルチャーとか、そういったものは当の支持者たちが思っているほどにオルターネイトなわけでもなく、すでにある種のメインストリームを形成していると言ってもいいのだろう。で、本人たちの意識がどこにあるかはともかく、この綿めぐみについてもそういった〈メインストリーム〉の界隈において、登場時から注目を集めてきたフェノメナルな存在ということになる。

綿めぐみ ブラインドマン TOWER RECORDS(2016)

 お目見えの曲となったのは、Tokyo Recordingsのバックアップのもと2014年の夏にYouTubeで公開された“災難だわ”。このTokyo RecordingsとはN.O.R.K.OBKR酒本信太を中心に、平成生まれのクリエイターたちで立ち上げられたという新進のレーベルだ。その時点から早耳なメディアでは話題になっていたものだが、紋切り型に評される〈皮肉や風刺の効いた歌詞〉という点はともかく、あざとさも気にしない吹っ切れたセンスは、そっち系が好きな人を虜にする文系キュートな魅力を発散しつつ、アルバム『災難だわ』も経てゆっくりと存在を広めていった。その後、ORLANDに客演した“Gold Digger”という素晴らしい成果はあったものの、全国流通の作品として彼女の歌声が聴けるのは、今回リリースされたEP『ブラインドマン』が最初のものとなる。

 7曲入りながらも実質4曲となる今作は、イントロやインタールード的なトラックも含めたストーリー性のある作品だ。『災難だわ』には斜に構えたナンバーと主役自身の生身を投影したような“ごはん”や“マザー”という逸曲が混在していたが、今回はコンセプトに沿って作り込まれた一遍の物語を、浮遊感に溢れた童話的なサウンドに乗せて披露するかのような出来映え。つんのめった語り口が気になる表題曲、歌唱の気持ち良さがキャッチーに立体化された“ラン!ラン!ラン!”、アトモスフェリックで壮大な“インビジブルマン”と、すべて酒本(プロデュース/作曲)とOBKR(作詞)による楽曲はどれも高水準で、一定の界隈に留まらないフィールドにも届く内容ではないだろうか。今後の展開にも期待したい。

 


綿めぐみ
香港生まれのシンガー。2014年7月にフリー・ダウンロードで公開された“災難だわ”で脚光を浴び、ライヴ会場など限定でリリースされたファースト・アルバム『災難だわ』が一部で高い評価を得る。その後フェス出演やORLANDの楽曲参加など多岐に渡る活動を経て、このたび初の全国流通作品となるEP『ブラインドマン』(TOWER RECORDS)をリリース。