チェリビダッケから学んだことが“聖地”でのブルックナー録音に結実

 「チェリビダッケが病気になってパリ16区のアパートメントを離れることができなかったことで、16歳から彼が亡くなるまでの3年間、週に2~3回レッスンを受けることができたのは幸運でした。初めは弦楽四重奏の演奏を見てもらっていました。あるとき、チェリビダッケが『お前は指揮をしたほうがいいよ』と。そのとき生まれて初めて指揮をしました」

 2014年にブルックナーの聖地ザンクト・フローリアンでのライヴ録音でブルックナーの交響曲第3番、第8番のCDを相次いでリリースし、ファンの間で話題を呼んだフランスの指揮者、レミ・バロー(1977年~)は2015年11月にウィーン・フィル・メンバーとの室内楽演奏でヴァイオリニストとして初来日し、インタヴューする機会を得ました。フランス、パリ出身。5歳よりヴァイオリンを始め、ジェラール・プーレに師事。パリ音楽院を一等賞で卒業。同時に最晩年の巨匠チェリビダッケに指揮の個人レッスンを受ける幸運に恵まれました。

 「私はチェリビダッケ以外の人から感化されたくありません。楽譜からのみすべてを解釈します」

 現在はウィーンを拠点として指揮者、ヴァイオリニストとして活動しています。なぜウィーンを拠点に、という問いには「ヨーロッパ音楽にはドイツ=オーストリア系、ラテン系、スラヴ系の流れがあります。その3つを理想的に学べるのはどこだろう、と考えた時、ウィーンで学ぶのが一番だと判断しました」との答えが返ってきました。

 ブルックナーのCDはウィーンの老舗レコード店、グラモーラが制作。ブルックナーの作品の、他の作曲家にない特長について伺うと「ブルックナーは音楽史上初めて時間と空間の概念を壊した作曲家だと思います。なぜなら、彼の音楽は時間的な長さをまったく感じさせないからです」とのこと。

REMY BALLOT,ALTOMONTE ORCHESTRA OF ST FLORIAN ブルックナー: 交響曲第9番(1896) ~聖フローリアン大聖堂ライヴ2015~ (付録CD:2台のピアノのための編曲版) Gramola(2016)

 最新作でもあるブルックナーの交響曲第9番については「あらゆる物への否定だと思っています。過去の自分への否定でもあるし、音楽の否定でもあります。その後書くはずだった第4楽章のコーダでは、違う世界へ行きたかったのではないでしょうか。例えば第8番は光に満ちたポジティブな交響曲だと思います。しかし第9には希望も光もありません。ブルックナーはどんな曲を書いている時にも、自分の音符には神が宿っていると思っていた人ですが、この曲はちょっと違うと思います。指揮する時にもそういうこと表現したいと思っています」

 演奏の素晴らしい説得力とパッケージ・ソフトとしての見事な仕上がりをぜひご体感ください!

レミ・バローとユンゲ・フィルハーモニー・ザルツブルクによるブルックナー〈交響曲第4番〉