故郷への想いが導いたロキアの奏でるべき音楽

 音楽的異種配合が日夜行われ世界的にみても新たな音楽への探究が盛んなフランス・シーンの中デビュー時からすでに頭ひとつ飛び抜け、以降その鋭い感性と挑戦を恐れないスタイルで唯一無二の評価を得ているロキア・トラオレ。幼い頃に兄や父の影響で慣れ親しんだ西洋ロックやブルース、ジャズ、そして故郷の音楽を消化し融合させることで独自のマリ音楽を発展させてきた彼女だが、とくにアリ・ファルカ・トゥーレへのオマージュ作でもあり、静謐で独特な質感をもった前々作『Tchamantche』、ポーラー・ベアを率いる英国随一の異端ドラマー、セバスチャン・ロッチウェルを起用し“マリならではのロックンロール”を目指した前作『Beautiful Africa』は彼女こそが最も孤高と呼ぶに相応しい、そう思わせる大傑作だった。

ROKIA TRAORÉ 『Né So Nonesuch(2016)

 本作はそんなロキアの最新作でありタイトルは『Né So』、英訳で〈Home〉。つまり彼女にとってはマリを意味する通算6作目だ。先行公開されたタイトル曲ではMVの最後に「世界中で5950万人が紛争により住む場所を追われ、その数はいまだ増え続けている」という痛烈なメッセージが現れる。これまでも政情や社会不安について歌ってはいたが、ここまでストレートなアプローチはなかったように思う。マリ内戦の激化などが彼女に大きな影響を及ぼしているのは確実だろう。ビリー・ホリデイで知られる“奇妙な果実”のカヴァーもそこに繋がるのではないだろうか。

 サウンドは前作の方向性を押し進めたアフロ・ブルージーなロキア流ロックンロールのようでもあるが、アコースティック主体となっており西アフリカ全土から召集された精鋭がバックを固めたことで、よりアフリカらしい濃密なものとなっている。そして現時点でどの曲に参加しているかは不明だが説明不要のレジェンド、ジョン・ポール・ジョーンズやデヴェンドラ・バンハートも名を連ねる。それも含め幅広いリスナーに聴いてもらいたい1枚となっている。