聴き手を清々しく開放する伸びやかな歌声を道連れに、未知数の可能性を模索する旅へのスタートラインに立った期待のニューカマー!

 多部未華子の主演映画「あやしい彼女」の主題歌“帰り道”で華々しくデビューするanderlustは、シンガー・ソングライターの越野アンナとベーシストの西塚真吾が組んだ新ユニットだ。明るさと切なさの絶妙な混ざり合いから郷愁までも伝わってくるメロディー展開、90年代的な感覚をいまに甦らせつつモダンに落とし込んだポップ&ロック・サウンド、そして何より澄みきった空に向かって迷いなく放たれる伸びやかで芯のある歌声。それらがひとつになったふたりの音楽は、聴き手に鮮烈な印象を与えるに違いない。

anderlust 帰り道 ソニー(2016)

 まずはプロフィール的なところから。ヴォーカルの越野アンナは、6歳までLA(一時期はNYにも)で暮らしていた現在19歳。

 「小さい頃から音楽ばかり聴いてました。ブラージャミロクワイパラモアなんかがずっと大好きで。もちろんビートルズも。当時は、邦楽はほとんど聴いてないんですよね。メロディーがキレイで深みのある音楽が好きです」(越野)。

 2014年に雑誌「NYLON JAPAN」とソニー・ミュージックが主催するオーディション〈JAM〉のミュージック・パフォーマンス部門で賞を獲得。シンガー・ソングライターとして活動を開始し、いかに自身の表現方法を確立すべきか、しばらく模索していたという。その歌声は先述したように伸びやかで開放的。聴く者を清々しい気分にさせるものだが……。

 「以前は私の歌声って特徴がないと思ってました。ハスキーでもないし、野太くもない。私が一番好きな声はトリー・ケリーなんですよ。あと、ジェシー・J。そういう憧れの声の人に比べると、私の声はクリアすぎる。正直、シンガーに向いてないと思っていたんです」(越野)。

 ただ、育ちからくるアメリカン・ガール的な大らかさがパフォーマンスにおいて有利であることは自覚していたようだ。

 「オーディションで賞をいただけたのも、たぶん自分のヘンに堂々としているところが認められたからなんでしょうね。オープンで、怖いもの知らずなんですよ、私(笑)」(越野)。

 そんな越野がソロでライヴをしていた時にサポートを務めたのが、横浜出身の25歳、西塚真吾。子供の頃はピアノを習っていたが、中学でベースに転向した。

 「ベース・ヒーローは高校の時に夢中で聴いてたレッド・ホット・チリ・ペッパーズフリー亀田誠治さん。タイプは全然違いますけど(笑)。初めはバンドをやりたかったのですが、次第にYUIさんとか大塚愛さんといったシンガー・ソングライターもののJ-Popを好きになりました。キャラや声にも惹かれましたけど、それ以上にそういうソロの人を支えるミュージシャンの楽器の音や構成の仕方に興味がいくようになって。だからバンドではなく、サポート・ミュージシャンを志すようになったんです」(西塚)。

 サポート・ミュージシャンとしてすでにさまざまなソロ歌手の仕事をしていた西塚は、越野の後ろで初めて弾いた時、「とにかく声に惹かれた」という。一方、越野は「ベースなのにメロディアスなところがあって、すごく引き立つ。おもしろいなと」感じ、ふたりは2015年からユニットとして活動することに。プロデューサーに小林武史が迎えられ、楽曲制作も越野と小林が共同で行った。そうして完成したファースト・シングル“帰り道”収録の3曲は、いずれもJ-Pop的な感触と90年代のブリット・ポップまたはスウェディッシュ・ポップ的な感覚が絶妙に合わさったもの。表題曲に漂う懐かしさは、歌詞のみならず曲調と音による部分も大きいようだ。

 「この曲は聴く人みんながそれぞれ持っている〈帰るべき大切な場所〉だったり〈存在〉だったりを物語的に書いてみました。曲のなかに古風なテイストをあえて混ぜているので、懐かしい気持ちになってもらえたら嬉しいです」(越野)。

 彼女の書く曲は、メロディーの展開のさせ方にかなり意表を突いた激しい動きがあるのも大きな特徴だろう。

 「ちょっと不思議というか、普通にパッと出てくる感じとは違いますよね。そこが彼女の書くメロディーのおもしろいところで」(西塚)。

 「私のなかのルーツが無意識のうちに出てるんでしょうね。ちょっとした毒やヒネリがあったほうがおもしろいと思ってて。ブラーの曲とかもそんな感じじゃないですか?」(越野)。

 とりわけアップテンポな“A.I.”のヒネリあるメロディーと歌の乗せ方は独特だ。

 「もともとこれは英語詞で書いていたのでメロディーも洋楽っぽかったんです。英語で書くのと日本語で書くのとでは声の重心をどこに置くかも変わってくる。それをあとで日本語に直したので自然にこうなったという」(越野)。

 結果オーライ。意図的ではなく、自由な発想でトライ&エラーを積み重ねながら、ひとつずつ答えを発見していくのがanderlustのあり方と言えるだろう。

 「ちょっと変わった表現方法をいつもしていたいですね。〈旅に出たい〉という願望を意味する〈wanderlust〉という言葉があるんですけど、私たちはそこから〈w〉を取ってanderlustにしました。旅の行き先もまだ模索状態の自分たちだから、そうしたんです。だから、これから第3のメンバーが入るかもしれないし。とにかくいまはガムシャラに何かを探している。答えはずっと先にあると思ってます」(越野)。