(c)ITC
 

あの感動のオープニング・テーマを大オーケストラで聴ける喜び

 人類救済のための悪との戦いをテーマにした特撮ものあるいはヒーロー戦隊ものの原点/聖典である「サンダーバード」が本国イギリスで初放映されたのは1965年。そして日本での放映開始は翌66年。当時小学2年生だった私は、同時期に始まった「ウルトラQ」~「ウルトラマン」と共に毎週欠かさずTVの前に陣取り、翌日は学校で「でも俺は2号が一番好き」とか「レディ・ペネロープかわいい」とか級友と熱く語り合ったものだ。同世代のほとんどの日本人男子がそうだったのではなかろうか。それほどこの特撮人形劇(と書くとなんだかチープな感じがするが)は完成度が高く、作品コンセプトも人物設定もストーリーも、そして音楽も画期的な面白さだった。局を変えながら何度も繰り返し再放送されてきたのも、質の高さとオリジナリティの強固さゆえだろう。誕生50周年の昨年からはリブート版の「サンダーバード AREGO」も放映され始め、今また何度めかのブームの中で若いファンを増やしつつあるようだ。

広上淳一,東京ガーデン・オーケストラ サンダーバード音楽集 ~オリジナル・スコアによる Columbia(2016)

 そんなタイミングで今回登場したのが『サンダーバード音楽集』なる日本オリジナルのアルバムだ。50周年を記念して昨年4月に三鷹市芸術文化センターでおこなわれたオーケストラによる「サンダーバード」楽曲演奏がきっかけになって制作されたものだという。あの有名すぎる感動の《オープニング・テーマ》に始まり、《SOS原子旅客機》《ニューヨークの恐怖》《ジェット“モグラ号”の活躍》《死の谷》といった組曲が続き、歌詞を付けた日本版主題歌まで計24曲。大オーケストラが躍動する壮大な音絵巻である。私と同じ昭和33年生まれだという指揮者の広上淳一氏が歓喜に身を震わせながら指揮台からオケを鼓舞する様が見えるようだ。

(c)ITC
 

 このCDの重要なセールス・ポイントは、「オリジナル・スコアによる」という副題が示すとおり、放映開始当時のサントラと同じオリジナル譜面を使って新録音された作品ということだ。実は「サンダーバード」オリジナル・サントラのマスター・テープは本国イギリスで長いこと行方不明の状態が続いていた。そのため、映像の音から採譜されたスコアを元にオリジナル版の再現が何度も試みられてきたのだが、やはり微妙な違いはいかんともしがたいものだったという。そして、10年がかりの捜索の末にイギリスの地方TV局の倉庫でマスター・テープが発見されたのは2003年のことで、その際、オリジナル・スコアも一緒に見つかった。かくして今回の日本企画盤は、イギリスから借りたこの原スコアを使ってオケで録音された初の録音物になったわけである。作曲者のバリー・グレイも、あの世できっと喜んでいるはずだ。

(c)ITC
 
(c)ITC
 

 バリー・グレイ(1908年~1984年)は、幼少時から専門教育を受けたクラシック畑出身のイギリス人作曲家であり、戦前から音楽出版社や放送局を舞台に軽音楽畑で頭角を現した。戦後もTVやラジオなどの作曲家、あるいは国民的ポップス歌手ヴェラ・リンの編曲家としても活躍したが、なんといっても彼の名を一躍世界的にしたのはジェリー・アンダーソン(特撮/SFものを得意とする映像プロデューサー)作品での音楽だ。グレイとアンダーソンは57年のTV人形劇「トゥイズルの冒険」で初めて組み、以後「魔法のけん銃」「スーパーカー」「海底大戦争 スティングレイ」などを経て65年の「サンダーバード」、更に「キャプテン・スカーレット」「決死圏SOS宇宙船」「謎の円盤UFO」といったSFドラマを二人三脚で発表していった。アンダーソン作品はグレイの音楽あったればこそ、と言い切ってもいいほど、彼らの映像と音楽は分かちがたく一体化している。そこでのサウンドは、たとえば「ジャングル大帝」の冨田勲の如く、子供向けとはとても思えない重厚壮大なものであり、極めてドラマティックである。また、電子楽器を積極的に取り入れるなど、新しい手法にも敏感だった。今回の日本企画盤によって、このイギリス人作曲家の異能ぶりに改めて光が当てられるのではなかろうか。