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O.P.N.=ダニエル・ロバティンの原点がここに

 2011年の『Returnal』以降、作品を重ねるごとに波紋は大きくなり、映像/アート等々、様々なシーンへと活動の領域を拡張してきたワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)ことダニエル・ロパティン。ヴィジュアル・アーティストのネイト・ボイスとは相変わらずコラボを続け、『ブリングリング』のスコアに続き、エリアル・クレイマン監督、ヴァンサン・カッセル主演のサスペンス映画『Partisan』でも音楽を担当(曲の一部を聴く限り、ミステリアスなシンセの音色や宗教的な神聖さなどを持っていたりとOPNの要素がかなり盛り込まれていそう……)、ナイン・インチ・ネイルズサウンドガーデンとツアーの一部を共にしたり、アニメーション作家の森本晃司とのコラボを試みたりと、数年前には想像もできなかった事態へと発展。アントニー&ザ・ジョンソンズアントニー・へガティによる新ユニット=アノーニが今年は5月にリリースする予定のアルバムにもプロデューサーとしてハドソン・モホークと共に関わっており、まだまだ目の離せない日々が続きそうだ。

 さてそんなロパティンがOPNとして2007年にアルバム『Betrayed In The Octagon』でデビューを飾ってから9年弱の間に、カセットやヴァイナル、CDR、デジタル、もちろんCDも含めリリースされたアルバムは10作を超え、コンピレーションに位置付ける作品も加えると20タイトル弱のフルレングス及びそれに準じるものが存在している。ファン層拡大に伴いそういった過去作へのニーズも高まる中、6月の 〈TAICOCLUB〉への出演を記念し、ロパティン主宰のソフトウェアからリリースされた3作品が一挙国内盤化された。

ONEOHTRIX POINT NEVER Replica Software(2011)

 あらゆる音楽メディアで年間ベストのひとつとして取り上げられたOPNの出世作であり、彼のキャリアにおいてもエポックメイキングとなった『Replica』(2011年)は、ドローンヴェイパーウェイヴ、ニューエイジ、アンビエントミュジーク・コンクレート等々、無数のタグ付けされたことからも明らかなように、多様なシーンにアクセス可能な仕掛けが盛り込まれている。サンプリングの題材に80~90年代初頭のコマーシャルが使用されている他、奇妙な声ネタや神秘的なシンセのメロディが混沌としながらも調和することで不思議なグルーヴとポップさをも生み出した怪作である。

ONEOHTRIX POINT NEVER Drawn and Quartered Software/BEAT(2016)

 初期アルバム3作『Betrayed In The Octagon』(2007年)、『Zones Without People』、『Russian Mind』(2009年)をまとめ、2009年にカルロス・ジフォーニ主宰のノー・ファン・プロダクションズから2枚組のCDでリリースされた『Rifts』。これを2012年ソフトウェアからCD枚3組/LPは5枚組のボックスで再発させるのだが、その際に収録されたのが、残りの2作品『Drawn and Quartered』と『The Fall Into Time』である(CDには本編3枚のCDに分散するかたちで収録された)。この2作は、2008年から2009年にかけてカセットやCDRでリリースされた希少音源を中心に収録され、アナログ・シンセサイザーをメインに据えた活動初期の音がパッケージされている。『Drawn and Quartered』は、空間を埋め尽くすように細かなシンセのリフレインで分厚いレイヤーを出現させ、コズミックかつサイケデリックなトリップ音楽を鳴らしている。それはまるでタンジェリン・ドリームクラウス・シュルツェポポル・ヴーマニュエル・ゲッチングなど、かつてのクラウト・ロック勢を彷彿とさせる陶酔的な電子音楽だ。『The Fall Into Time』もアナログ機材で音を紡いでいる点は同様だが、動きの性急な『Drawn and Quartered』に対して、ニューエイジやアンビエントへと傾倒し、宗教的色合いを感じさせる荘厳なサウンドスケープで構成されている。

ONEOHTRIX POINT NEVER The Fall Into Time Software/BEAT(2016)

 『Replica』こそ現在のスタイルの雛形となる、ポップでキッチュな感覚の萌芽があるが、『Drawn ~』と『The Fall ~』には、ハードコアな姿勢でシンセサイザーと対峙するストイックなロパティンを確認できる点で興味深い。