Page 3 / 3 1ページ目から読む

数枚では辿れないディラ・ワークス

 ディラの名仕事と言っても、膨大だし、選りすぐってしまえば定番も決まっているので……と思いつつ、ここは割り切って誰もが必携の名盤のみをピックしておこう。

 まずはジェイ・ディー時代。忙しいQ・ティップから回されたというファーサイドの95年作『Labcabincalifornia』(Delicious Vinyl)はメロディアスなクラシック“Runnin”などを含むジェイ最初のヒット仕事。他にもブランニュー・ヘヴィーズの素晴らしいリミックスなどデリシャス・ヴァイナルに残した仕事は便利な編集盤『Jay Deelicious: The Delicious Vinyl Years 95-98』でも一望できる。

ファーサイドの95年作『Labcabincalifornia』収録曲“Runnin”
 

 そこからQ・ティップ&アリ・シャヒードと結成したユニットがジ・ウマーで、そのサークルでの大仕事となったATCQの96年作『Beats, Rhymes And Life』(Jive)での手捌きは、デトロイト・テクノ寄りの浮遊感とゲットー・テックな硬質さを兼備したビートの〈違和感〉もあって、当時のストリクトリーなATCQ信者を困惑させつつジェイの革新性を世に知らしめた。この前後にはデ・ラ・ソウルの“Stakes Is High”やバスタ・ライムズキース・マーリーらを手掛け、ATCQのラスト作となった98年の『The Love Movement』(Jive)でもその路線はいっそう推進。翌年には一転してヴァイタルなQ様のソロ作『Amplified』(Arista)を共同制作するも、ルーツクェストラヴジェイムズ・ポイザーディアンジェロと共に組織したソウルクェリアンズでの動きが活発化していくのと入れ替わるようにウマーの括りは自然消滅していった。

ATCQの96年作『Beats, Rhymes And Life』収録曲“1nce Again”
 

 そのソウルクェリアンズでは伝統性とヒップホップ感覚を内包するフィリー勢のメロウさにも学びつつ各人にとって最高水準の大傑作を連発。“The Light”のヒットまで生まれたコモンの『Like Water For Chocolate』(MCA)はその極みで、このクリエイティヴな集団は他にも(ディラの具体的なクレジットはないものの)ディアンジェロの『Voodoo』、エリカ・バドゥの『Mama's Gun』、ビラルの初作などを次々に生み出していった。そのピークはコモンがプログレッシヴなサイケデリアに染まってみせた2002年の『Electric Circus』(MCA)で、ここでのディラは主にポイザーピノ・パラディーノと組んで振り切れたエクレクティック・サウンドに挑戦している。

コモンの2000年作『Like Water For Chocolate』収録曲“The Light”
 

 それ以降の大作となれば、本文でも触れているフランク&ダンク幻の初作『48 Hours』(Delicious Vinyl)を推薦しておきたい。結局オフィシャルのリリースは2013年となったが、ドレーの手捌きを微笑ましく研究したようなグッド・ループや予想以上にウェッサイなファンクもぶちかまされ、長年のディラ好きにも改めて驚いてほしい一作。

 で、没後のビート活用作も膨大ななか、フランクとイラJの組んだヤンシー・ボーイズによる2013年作『Sunset Blvd.』(Delicious Vinyl)は90年代マナーのタイトなノリが絶妙で、これはかっこいい。

 

★【特集:DILLANTHOLOGY】Pt.2はこちら