RAP BY POPULAR DEMAND
【特集】日本語ラップとその多様性
いろんな方向からの熱気がゆっくりと混じり合い、結果的に大きな全体像を形成している2016年の日本語ラップ。その広がりを聴いて楽しもう!!

  日本語ラップがまたまた盛り上がっています!と大袈裟に騒ぐ必要もなく、それでも確実にブームがムーヴメントを推進する季節が訪れているのは間違いないでしょう。ただ、往時のブームと少し様相が違うのは、その盛り上がりの山が一つではなく、人それぞれの視点や角度によって見える風景や見え方が多様であること。その目に映るのがヴェテランも新進も入り乱れたリリース状況の活発さなのか、TV番組や動画サイトも通じてのフリースタイル文化の急速な広まりなのか、クラブ・ミュージックやジャズ、シティー・ポップなど多様な畑との隣接ぶりなのか、ニコラップやアイドルも含めた裾野の広がりなのか……つまり、各所での多様な盛り上がりがゆっくり大きな流れに束ねられるようにして、現在の熱気とムードは形成されているということなのでしょう。

 その多様さのぶんだけ多様性が認められているわけで、そこから登場してくるラッパーの在り方もラップのスタイルも実に多彩になっています。まさかいまだに〈チェキラッチョ〉的な認識の人はこのページを読んでいないと思われますが、そうでなくてもある種のステレオタイプなラッパー像、ヒップホップ観みたいなものは、逆にあれこれ音楽に詳しげな評論家やメディアの人たちの間でこそ顕在化していたりするのも事実。景色の見え方がまるで大昔と変わっていない人は、そういうところの認識のズレからOSのヴァージョンがバレたりするので更新をお勧めします。

 そんな状況下だけに〈ヒップホップを聴かない人も聴けるヒップホップ〉みたいな文言も見受けられますが、実際にはそういう間口の広さを狙うのではなく、自然に〈各々の表現をコアに突き詰めた〉作品のほうが〈日本語ラップを聴かない層〉にも伝わるものを生み出せるのは歴史が証明する通り。90年代のブーム期の産物は言わずもがな、THA BLUE HERBNMUMSC般若SEEDANORIKIYOSALUAKLOSIMI LABKOHH……と、振り返ってみればそれは明白です。それらしげな〈幅広さ〉がバズを生み出しても、それは誰かの趣味の良さのアピールに利用されて、やがては通り過ぎていってしまうもの。ポピュラーな支持を長く保持するRHYMESTERKREVA、あるいはAK-69のような人たちも、決して〈ヒップホップらしくなさ〉を愛されてきたわけではないのですから。

 そんな気分を前提に、今回は〈日本語ラップを聴かない人も聴ける日本語ラップ〉を紹介します。イメージで遊ぶより、まずは聴いてみるのが一番です。 *出嶌孝次

★電波少女/SALU/YOSAをフィーチャーしたPt.2はこちら

 

日本語ラップを聴かない人も聴ける日本語ラップ、24作品をまとめて紹介!

IO Soul Long Pヴァイン(2016)

昨年に亡くなった元ズットズレテルズドカットことYUSHIを精神的支柱とするクルー、KANDYTOWNのラッパーによる初作。Mummy-DOMSBらの寄せたビートが濃厚な夜の闇を演出し、主役のレイドバックしたラップをメロウに響かせる一級品だ。“Play Like 80's”のアーバン感は、ここ数年で黒いグルーヴの洗礼を受けた人にこそお薦め。 *北野

 

GOMESS 情景 -前篇- LOW HIGH WHO?(2016)

病みから光へ向かうイルマティックな94年生まれの才能は、蟲ふるう夜に朝倉さやとの共演、mikichu*とのlittleAct結成など、ポテンシャルを発揮して表現の場と言葉の可能性を拡大している。引き続きサクライケンタが助力したこの3作目は、Paranel山本真央らコラボレーターの視点で各々の生き様を綴った意欲作。後篇も楽しみだ。 *出嶌

 

TKda黒ぶち LIFE IS ONE TIME, TODAY IS A GOOD DAY. Timeless Edition(2015)

「フリースタイルダンジョン」での弾丸ラップ(とACEとの名勝負)でファンになった人も多いはず。この初作に刻まれているのは、自主レーベルを立ち上げて地元・春日部のシーン活性に尽力するメガネの青年が、平凡な日常を良きものにしようともがく思索の日々。ピアノのみを背にした冒頭曲から、内省的だが力強い言葉に引き込まれる。 *北野

 

SKY-HI カタルシス avex trax(2016)

早くから真部脩一tofubeatsと絡むなど、柔軟な姿勢と発想で新味のアーバン・ポップに取り組んできた成果は、この2作目にもあきらか。和製マーク・ロンソンと呼びたいファンク曲を先導役に、華も影も備えたラップ絵巻が繰り広げられる。なかでも、変わりゆく街の姿を哀感たっぷりに描いた“Young,Gifted and Yellow”が薫り高くて最高。 *北野

 

ACE STRAIGHT 戦極CAICA(2015)

〈渋谷サイファー〉を推進して昨今のMCバトル・ブームを牽引し、現行シーンでの存在感は文字通りエース級。この初作ではテクニカルな部分に偏らないユーモアや内省でパーソナルを掘り下げ、R-指定&輪入道TOCSHUNアジカンGotchまでコラボ相手もユニーク。ラップ作品にステレオタイプなイメージを抱く人にこそ聴いてほしい。 *出嶌

 

ERA LIFE IS MOVIE HOW LOW(2015)

tofubeats“夢の中まで”の昔に住んでいた街を思い出すような甘く切ないトーンは、彼のラップによるところが大きかったはず。その客演を経ての本作でも、身の回りの何気ない風景や日常のなかでぼんやりと浮かんでは消える感情など、自身の生活を淡々と描いていて、その〈映画〉が不思議な感傷を呼び起こす。何だか佐内正史の写真みたい。 *北野

 

Dragon One 掌ノ蕾。 forte(2016)

フリースタイル巧者としての顔ではなく、対象を選ばずに聴かせることを意識することで表現者として強く進化したセカンド・アルバム。選び抜かれた言葉のサウンドトラックとしてBigoのシンプルな音使いが寄り添い、余白やインストも含めたトータルの完成度も素晴らしい。現状とその先の希望を綴る抑制の効いたエモさにグッとくる。 *出嶌

※試聴はこちら

 

DOTAMA ニューアルバム 術ノ穴(2015)

フリースタイルの巧さと口の悪さは天下一品、先日にはthe telephonesのリズム隊らと共にFINAL FRASHという新バンドを結成したばかりの彼。世の中への苛立ちを代弁する辛辣な言葉は、それでも世界を肯定しようとする希望に転じ、聴く者の背中を強く押す。本作のラストを飾る“こんなぶっ壊れた国で”は、そんな彼の熱き心が滾った名曲。 *北野

 

あっこゴリラ TOKYO BANANA KAMIKAZE(2016)

HAPPY BIRTHDAYのドラマーから紙芝居ラッパーに予想外な転身を遂げた彼女の初作は、向井秀徳への愛を叫んだり、何故か一休さんをこき下ろしたりとやりたい放題。自作のトラックを含め、その無軌道ぶりを味としつつ、兄への偏愛ぶりをコミカルに昇華した曲では泣けるオチをつける上手さも。ジャケはゴリラだけど本人は可愛い女子です! *北野

 

RYKEY AMON KATONA Pヴァイン(2015)

最近は鎖GROUPの話題曲でもお馴染み、昨年リリースした2枚のアルバムがいずれも良品だった八王子のリリシスト。この2作目は多彩なビート職人たちとドープな世界に潜り込み、EATとの“Road To Rich”をはじめ、ぶっきらぼうな語り口に粗削りな断面を隠さない格好良さを纏う。“国際宇宙ステーション”にはSALUとKNZZが参加。 *出嶌