1936年ベルリンに留学し、リストの高弟ラモンドに学んだ豊増昇(1912~75年)は日本ピアノ界の草分けの1人。1956年、日本人ピアニストとして初めてベルリン・フィルの定期演奏会に出演。ピアノ教育者としても優れ、園田高弘小澤征爾館野泉らを輩出した。録音をあまり残さないまま亡くなり、その名は忘れられがちとなっていたが、今回キングへのセッション録音がようやく初CD化された。ドイツの演奏伝統を踏まえながら、卓越したテクニックと粒のそろったタッチを駆使して鋭い感性のひらめきを見せる彼のピアノ演奏は、まさに“天才肌”そのもの。他に録音が残っていれば、残らず聴いてみたい。