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BJザ・シカゴ・キッド
日時/会場
6月11日(土) Billboard Live OSAKA(詳細はこちら)
6月13日(月) Billboard Live TOKYO(詳細はこちら) 

84年生まれ、そのステージ・ネームが示す通りにシカゴ出身であるBJザ・シカゴ・キッドは、2016年現在もっとも注目を集めるソウル・シンガーと言っても過言ではない。長い下積みを経て、2012年にファースト・アルバム『Pineapple Now-Laters』を発表。その後、名門モータウンとの契約を勝ち取り、今年ついに待ち望まれたメジャー・デビュー作『In My Mind』をリリースした。ドクター・ドレーの復活作『Compton: A Soundtrack』(2015年)を筆頭に、若手/大御所を問わず話題作に多数フィーチャーされてきた彼の最新作には、ケンドリック・ラマーチャンス・ザ・ラッパーなど現行のトップ・ラッパー陣が集結。今日的なリズムからオーセンティックなソウルまで自在に歌いこなすユニークな才能がいよいよ初来日を果たす。

★BJザ・シカゴ・キッド『In My Mind』のコラム記事はこちら

BJ THE CHICAGO KID In My Mind Motown(2016)

橋本「個人的にはアンダーソン・パックと並んで、今年いちばん語ることが多いのはBJザ・シカゴ・キッド。彼はここ数年でいいなと思った作品に、軒並み参加しているんだよね。ドレーの〈Compton〉もそうだし、チャンス・ザ・ラッパーとも密接に関わっていて、去年リリースされたアルバムのなかでは(チャンス・ザ・ラッパーも一員である)ダニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスぺリメントの『Surf』(2015年)がいちばん好きなんだけど、そこにも参加していたしね」

BJが参加した、ダニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスぺリメントの2015年作『Surf』収録曲“Slip Slide”

 

柳樂「チャンス・ザ・ラッパーといえば、新しいミックステープ『Coloring Book』にもBJザ・シカゴ・キッドは参加していましたよね」

橋本「うん、チャンスの新作はホント最高だったよね。BJは昨年もスラム・ヴィレッジ『Yes!』やジョーイ・バッドアス『B4.Da.$$』など、ヒップホップ系の話題作でも引っ張りだこだったし、一方でジル・スコットの『Woman』でもいい働きを見せていたりと、フィーチャーのされ方も多彩だよね。彼は今回のアルバムの前に『The M.A.F.E. Project』(2014年)というトークボックスを多用したミクステを発表していて、どの収録曲もいいんだけど、なかでもアリーヤ“One In A Million”のカヴァーとかメチャクチャ素晴らしい」

BJが参加した、ジョーイ・バッドアスの2015年作『B4.Da.$$』収録曲“Like Me”

柳樂「こういうアーティストは最近いなかったですよね。正統派の〈R&Bシンガー感〉もすごくあるし、ビラルドゥウェレに通じるネオ・ソウルのマナーも兼ね備えていたり、とにかく何でもできるって感じ。オールド・スクールな雰囲気も心得つつ、ノスタルジーには傾きすぎない。そういうバランス感覚も魅力だと思います」

橋本「だから各方面から求められるんだよね。彼が客演してきた作品を辿っていけば、近年の重要作を集めたガイドが出来上がりそうなくらい」

柳樂「ジャズで言うと、一時期のグレッチェン・パーラトに近い立ち位置というか。どんな曲でも歌いこなせるし、起用されたトラックの文脈を理解する能力にも長けている」

橋本「それこそ、BJの作品にも参加しているケンドリック・ラマーとチャンス・ザ・ラッパーは、現代のヒップホップにおける最重要人物だからね。そういう人たちが自身のアルバムに集まっていることが、シーンで愛されている何よりの証拠じゃないかな。2016年に入ってから、アンダーソン・パックの『Malibu』でコラボしていたのも象徴的だし。あのアルバムはホントに名曲揃いだけど、僕はマッドリブがプロデュースした3曲目の“The Waters”がいちばん好きで、まさしくBJが参加しているナンバーだけど、95年にディアンジェロの“Brown Sugar”を初めて聴いたときの感覚を思い出したな。もしあの当時、アンダーソン・パックが“The Waters”でデビューしていたら、ディアンジェロと同じくらい騒がれていたかもしれないと思ったくらい」

アンダーソン・パックの2016年作『Malibu』収録曲“The Waters”

 

柳樂「アンダーソン・パックのアルバムは確かに最高でしたよね」

橋本「大好き! ほとんど全曲好き(笑)。ちなみに、2016年に発表された曲でお気に入りを2つ選ぶとすれば、さっきの“The Waters”と、BJのアルバム『In My Mind』の最後に収録された“Turnin' Me Up”だね。両方ともBJ絡み」

柳樂「“Turnin' Me Up”は、松尾潔さんもご自身のラジオ番組(『松尾潔のメロウな夜』)でプレイしていましたね。〈ディアンジェロへのリスペクトを感じる〉と紹介しつつ」

橋本「実際にBJは、ディアンジェロにトリビュートを捧げたカヴァーも発表しているし、もっと言えばマーヴィン・ゲイだよね。ソウル・ミュージックの歴史を考えたときに、70年代にマーヴィン、90年代にディアンジェロがいて、〈じゃあ2010年代は?〉と訊かれたら、僕はさっきの2曲を差し出したい。それくらい好きだし、歴史的な意味も大きい曲だと思う」

"Always In My Hair"、"Send It On"、"Untitled (How Does It Feel)”をカヴァーした、BJによるディアンジェロ・トリビュート動画

 

柳樂「『In My Mind』はアルバム全体ではどうでした?」

橋本「これまでの客演歴を踏まえて、もう少し現代的な作りになると予想していたんだけど……」

柳樂「オープニングの“Intro (Inside My Mind)”は、いかにもそういう感じのトラックですよね」

橋本「でも中盤以降は、クラシック・ソウルというかヴィンテージ感が強調されて、歌を聴かせる方向になっていくじゃない。そこもおもしろかった。ケンドリック・ラマーをああいう曲(“The New Cupid”)でフィーチャーするのも珍しいよね。〈え、スロウかよ〉みたいな(笑)。だから、BJは昔ながらのソウル好きにも受け入れられると思うな。アンダーソン・パックの作品はヒップホップ寄りだけど、彼だったらそういう人たちもいけるというか」

柳樂「歌唱力は抜群だし、ヴォーカルの扱い方も斬新なんですよね。メロディーを思いきり歌いこなすことも、自分の声をリズムとして機能させることもできる。そこは新世代らしいと思うし、これはライヴ映えしそうですね。ホントに歌が上手い」

橋本「BJはシンガーだから、(ライヴの充実度は)バック・バンド次第なところもあるけど、歌声の持っている力が圧倒的に素晴らしいからね」

柳樂「『In My Mind』のクォリティーを考えたら、ライヴも期待しないわけにはいかないですよ。どんな人でも安心して浸れる、イイ感じのムードを満喫できそう」

橋本「それをBillboard Liveで観られるのもすごいよね。ここを逃すと、マックスウェルみたいにずっと観れないなんてことも(笑)」

柳樂「このあと本国で一気にブレイクする可能性もあるので、いまのうちにステージ近くで観ておいたほうがいいと思います」