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偉大な母ニーナの血を受け継ぐリサ・シモンが初来日目前、着実に重ねてきたキャリアと黒い魂震わせる歌唱の魅力に迫る

偉大な母ニーナの血を受け継ぐリサ・シモンが初来日目前、着実に重ねてきたキャリアと黒い魂震わせる歌唱の魅力に迫る

時代を超えて影響を与え続ける女性シンガーであり、近年ふたたび脚光を浴びているニーナ・シモン。そんな偉大な人物を母に持つ、シンガー・ソングライターのリサ・シモンが、6月8日(水)~10日(金)に東京・COTTON CLUBで、6月11日(土)・12日(日)にブルーノート東京にて初来日公演を行う。今回は先日リリースされたばかりのニュー・アルバム『My World』を引っ提げての公演となり、ブロードウェイ女優としても活躍した彼女が凄腕のプレイヤー陣を引き連れてどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか、期待が高まっている。ここでは、日本ではあまり知られていないであろうリサ・シモンが辿ってきたキャリアを振り返りつつ、新作『My World』の紹介やシンガーとしての魅力について掘り下げてみたい。 *Mikiki編集部

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没後13年を数えるいま、ニーナ・シモンにはこれまでになく大きな注目が集まっている。2015年2月のアカデミー賞授賞式で、映画「セルマ」の主題歌となったコモンとの“Glory”で〈最優秀主題歌賞〉に輝いたジョン・レジェンドが、そのスピーチでニーナを称えたのを皮切りに、昨年はNetflixでドキュメンタリー「ニーナ・シモン 魂の歌」が公開されて反響を呼んだ。そしてロバート・グラスパーとミス・ローリン・ヒルが指揮を執った豪華トリビュート・アルバム『Nina Revisited: A Tribute To Nina Simone』のリリースも話題となり、今年4月には演技派女優のゾーイ・サルダナがニーナ役を務める伝記映画「Nina」が全米公開されたばかりだ。その背景には、ニーナ・シモンが公民権運動に深く関わった60年代と、アフリカ系市民がいまも虐げられているアメリカの現状を重ね、彼女の誇り高く人々を鼓舞するメッセージがふたたび必要とされているというのがあるだろう。

「ニーナ・シモン ~魂の歌」トレイラー映像
 

そんなニーナのトリビュート盤に参加し、アルバムのイントロでは〈Said, I had a mother who could sing〉(そう、私の母さんは歌えたのよ)と繰り返していた女性シンガーこそ、彼女の実娘であり、このたび初の来日公演を果たすリサ・シモンである。62年9月12日生まれ、本名はリサ・セレステ・ストラウド。ニーナ・シモンと、元警官で彼女のマネージャーとなった夫アンドリュー・ストラウドとの間に生まれた一人娘だ。その夫のDVとアメリカへの失望がきっかけとなり、70年にニーナは娘リサを連れてバルバドス、アフリカ、ヨーロッパを転々とする。だが精神的に不安定となった母のはけ口が自身に向かってきたことで、耐えかねたリサは別離を選ぶことになる……という親子の愛憎劇は前述のドキュメンタリー「ニーナ・シモン 魂の歌」に詳しいので、機会があれば観ることをおすすめしたい。

『Nina Revisited...A Tribute To Nina Simone』収録曲、リサ・シモン“I Want A Little Sugar In My Bowl”
 

アメリカへ帰国したリサは米空軍で働いたのちに女優/シンガーの道を志し、フランスの女優シモーヌ・シニョレにちなんだ母の芸名を引き継いで〈シモン〉を名乗った。才能も受け継いだのかすぐに頭角を現し、女優としては「レント」や「ライオン・キング」といったブロードウェイ・ミュージカルで活躍するに至り、シンガーとしてはアシッド・ジャズ系バンドのリキッド・ソウルによる99年作『Here's the Deal』へ客演してグラミー賞にもノミネートされている。ニーナが2003年に死去したのちは遺産管財人となり、母の音楽的な遺産にも向き合う機会が生まれた。2008年には母が十八番として歌った楽曲をカヴァーした『Simone On Simone』というアルバムを発表。また、2010年の映画「For Colored Girls」のサントラで、ニーナの“Four Women”をレディシローラ・イジボアと共に母との疑似共演という形でリメイクしている。またレイラ・ハサウェイシリーナ・ジョンソンなどソウル・レジェンドの娘たちで結成されたグループ、ドーターズ・オブ・ソウルでの活動もR&Bフリークにはお馴染みだ。

2008年作『Simone On Simone』収録曲“Work Song”の今年3月のライヴ映像。来日公演での披露も期待したい
 

2013年には母が余生を過ごしたフランスへ移住し、芸名を〈リサ・シモン〉に改める。そこで制作されたのが、2014年作『All Is Well』だ。古典“Autumn Leaves”のカヴァーも含むこのアルバムは、ニーナ・シモンの作品がそうであるように便宜上は〈ジャズ・ヴォーカル〉にカテゴライズされるだろう。事実、音楽スタイルこそジャズに近いが、ブルース、R&B、ソウル、ゴスペルなどさまざまな黒い魂を込めて歌うリサは、多様なジャンルを一跨ぎした母の面影をオーヴァーラップさせるのだ。

リサ・シモンの2014年作『All Is Well』の一部収録曲
 
“All Is Well”のパフォーマンス映像
 

そして今回の来日公演で携えるのが、リリースされたばかりのニュー・アルバム『My World』。前作と同じミュージシャンたちを従えて制作された続編と言える内容で、この2年間に渡ってライヴを重ねたことで成熟したコンビネーションが反映されているという。冒頭を飾る爽やかなナンバー“Let It Go”や軽やかでポップな“Unconditionnaly”をはじめ、アコースティックなサウンドの心地良さに身体が揺れる。プライヴェートなトピックを綴った楽曲も本作の聴きどころで、爪弾かれるギターをバックに切々と歌いかけるような“If You Knew”は、ニーナ・シモンが63年に書いたラヴソングのカヴァーであり、娘から母へと捧げるバラードだ。そしてラストに配された“This Place”では、自身が住む南フランスはカリー=ル=ルエのことを歌っている。同じくフランスを終の棲家とした母とみずからを重ねて歌う、穏やかで、厳かで、一筋の陽光が射すような感動的なナンバーとなっている。『My World』と題した通りに自身のパーソナルな世界観を表した親密なアルバムであり、そこにはさまざまな経験を経て辿り着いた滋味深い喜びが広がっているのだ。

『My World』のトレイラー映像
 

『My World』収録曲“Unconditionally”
 

フランス移住後の2作品に関わり、来日公演にも帯同するミュージシャンについても簡単に触れておきたい。エルヴェ・サムはアルバムのプロデューサーも務めているギタリスト。ハービー・ハンコックミシェル・ンデゲオチェロのバックを務めた経験があり、2011年にはジョー・クラウゼルのレーベルからパーカショニストのダニエル・モレノとコラボした幻想的な作品『Kharit』もリリースしている(これが素晴らしい)。そしてレジー・ワシントンRHファクターのメンバーであり、カサンドラ・ウィルソンのアルバムなどにも参加している名ベーシスト、ソニー・トゥルペは自身名義のクァルテットでも活動している気鋭ドラマーだ。新世代のジャズにもリンクする実力派メンバーたちによる確かな演奏も楽しみだ。

エルヴェ・サム&ダニエル・モレノの2011年のライヴ映像
 

男性的な面さえあった母ニーナのディープな歌声とは対照的に、リサはミュージカル女優として培ったと思われる柔軟性や、華やかに伸びるヴォーカルを持つ。ただしそれだけではない、土の香りと黒い魂がこもった神秘的な佇まいは、母譲りのオーラが確かに存在するのだ。ニーナ・シモンが人々を奮い立たせる歌声ならば、リサ・シモンは人生のほろ苦さを理解し、寄り添ってくれるような歌声と言えるだろう。今回の来日公演は、そんな偉大なシンガーの血を受け継いだ声を確かめられる、またとない機会になるはずだ。

 


LISA SIMONE来日公演

【COTTON CLUB公演】
6月8日(水)~10日(金)
1st show:17:00開場/18:30開演
2nd show:20:00開場/21:00開演
自由席 8,500円
※指定席については下記リンク先を参照
★予約はこちら

【ブルーノート東京公演】
6月11日(土)・12日(日)
1st show:16:00開場/17:00開演
2nd show:19:00開場/20:00開演
料金 8,500円
★予約はこちら

タワーアカデミー
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