須永辰緒がナヴィゲートする、現在進行形な〈夜ジャズ〉の世界

 日本のクラブ・シーンの黎明期から活躍し、昨年にはDJ活動30周年を迎えた〈レコード番長〉こと須永辰緒。プロデュースやリミックス仕事はもちろん、自身のソロ・プロジェクトであるSunaga t Experienceでの作品リリースなど、いまなお精力的に音楽に取り組む彼の近年のライフワークと言えるのが、〈大人のジャズ〉をキーワードに選曲する人気のコンピ・シリーズ〈夜ジャズ〉です。2005年の初作を皮切りにこれまで10数タイトルが編纂され、ベツレヘムVenusといったレーベル単位のものや、クレイジーケンバンド盤、そして日本の現役アクトに対象を絞った〈外伝〉など切り口もさまざま。このたび届けられたシリーズ最新作『須永辰緒の夜ジャズ・外伝2 All The Young Dudes ~全ての若き野郎ども~』では気鋭のPlaywrightとタッグを組み、fox capture planbohemianvoodooTRI4THら同レーベルの所属アーティストを筆頭に、ジャズ的なアプローチで意欲的に活動する16組の楽曲を収録しています。UKのロック・バンド、モット・ザ・フープルの代表作『All The Young Dudes』(1972年)から引用したタイトルに象徴される通り、近年の日本のジャズ界隈の活況を伝えると共に、今後のシーンを形作っていくであろう〈若者たち〉のドキュメント盤としても機能しそうな本作。ここでは、その多彩な参加メンツと聴きどころを、須永本人のコメントを交えて紹介します!  *bounce編集部

VARIOUS ARTISTS 須永辰緒の夜ジャズ・外伝2 All The Young Dudes ~全ての若き野郎ども~ Playwright(2016)

 

日本の夜を活気づける〈若き野郎ども〉を、レコード番長みずからレコメンド!

1. bohemianvoodoo “Nomad”
開幕曲は、メロディアスな作風でレーベルを牽引する4人組が2013年に発表したfox capture planとのスプリット盤『color & monochrome』(Playwright)より。「彼らならではのアコースティックな肌触りが以前から好きで。特にギターがリズムを支えているのも好み。このコンピはここから混沌となったりで展開するけど、1曲目は爽やかな曲がいいなと」。

bohemianvoodoo,fox capture plan color & monochrome Playwright(2013)

 

2. OBATALA SEGUNDO “NORTH SIDE SUITE: PRELUDE”
中路英明(トロンボーン)率いるラテン・ジャズ・バンド。初スタジオ録音盤となった2014年作『LA DECISION NUEVE』(First Call)からの一曲。「パーカッションの大儀見元さんが参加してて意外にもストレートにラテン・ジャズをやってるんだけど、メロディーとリズム設定が粋! ピアノの伊藤志宏くんのバッキングもいい。シングル・カットしたい曲です」。

OBATALA SEGUNDO LA DECISION NUEVE First Call(2014)

 

3. 浜田マロン “未練バタフライ”
ハスキーなやさぐれヴォイスが炸裂するこの楽曲は、ジャズ歌謡の新時代を拓く女性シンガーの2015年作『成熟のマーブル』(KUROCKY)に収録。「アルバムを試聴して良かったので買って帰ったら、家にサンプル盤が届いてた(笑)。バタくさい昭和歌謡感があって、DJのピークタイムにかけると凄く反応がある。トラメガ(拡声器)持ってるところもイイね」。

浜田マロン 成熟のマーブル KUROCKY(2015)

 

4. PRIMITIVE ART ORCHESTRA “perseus”
別掲のbohemianvoodooにも属する木村イオリ(ピアノ)を含むピアノ・トリオの2015年作『qualia』(Playwright)より、彼ららしい力強くもロマンティックなナンバーが抜擢。「ドラムの伊藤隆郎くんがTRI4THのメンバーとしても活躍してて。ロック色も入れたかったので、彼らの曲をチョイスしました。3人編成ながら、凄く練られたジャズ・ロックです」。

PRIMITIVE ART ORCHESTRA qualia Playwright(2015)

 

5. 石若駿 “Darkness Burger”
アグレッシヴなドラムプレイが凄まじいこの曲は、CRCK/LCKS東京ザヴィヌルバッハでも活躍するドラマーの2015年作『Cleanup』(SOMETHIN' COOL)から。「いまいちばん(共演の)リクエストが多いであろう若手天才ドラマー。俺はロイ・ヘインズが好きなんだけど、彼もプレイヤーの良さを引き出すいいドラムですね。手数も凄くてシンバルワークとか考えられないよ!」。

石若駿 CLEANUP SOMETHIN' COOL(2015)

6. NEW CENTURY JAZZ QUINTET “Naima”
50~60年代のジャズを現代の感覚でアップデートするNYのクインテット。本楽曲は2015年作『In Case You Missed Us』(Spice of Life)に収録。「偶然CDを買って知った日米混合バンド。日本人が2人いて、ずっとNYで活躍してるプレイヤー。今回はジョン・コルトレーンのカヴァーを選んだけど、カッコイイ曲がたくさんあるので彼らのアルバムも推薦します」。

NEW CENTURY JAZZ QUINTET In Case You Missed Us Spice of Life(2015)

  

7. Codex Barbes “Sur la mer”
『The Best of MUTE BEAT』(OVERHEAT)などを残すダブ・バンド、MUTE BEATのメンバーだった増井朗人(トロンボーン)が、ルネッサンス期の音楽と多彩なリズムの融合をテーマに結成した6人組。「和太鼓2人、トロンボーン3人、チャップマンスティックという珍しい弦楽器の編成。パンキッシュな室内楽かと思いきや、もっと根っこの部分を揺さぶられる」。

MUTE BEAT The Best of MUTE BEAT OVERHEAT(2011)

8. BEMBE “Bembeya Latin Strut”
asana名義で2009年作『suar』(EASEL)などのポスト・ロック作品を発表してきた浅野裕介が主宰する、名古屋発のアフロビート・バンド。「7インチが凄く音が良くて買ってみたら名古屋のバンドだった。グルーヴィーなアフロ・キューバンで、いまや自分のDJを成立させる時に欠かせないピースのひとつ。レコード屋に通ってて良かった!」。

asana suar EASEL(2009)

9. samA & EAU DE MOND “サムライ・スキャット”
女性シンガーのsamAを中心とするアニソンのカヴァーなども行うユニット。華麗なスキャットが印象的な本曲は2015年作『WHITE NIGHT WALTZ』(Venus)に収録。「数年前にVenusへ行った時にこの曲を聴かせてもらって。アウトプットする方法を考えてて、やっと今回入れられた。ちなみにドラムの小山太郎さんは地元の小学校のひとつ後輩(笑)」。

samA & EAU DE MOND WHITE NIGHT WALTZ Venus(2015)

10. TRI4TH “Little Italy(10th BEST ver.)”
2009年に須永の主宰レーベルからデビュー以降、〈踊れるジャズ〉を推進する5人組。こちらはタワレコ限定ベスト『MEANING』(Playwright)からのテイク。「彼らはもともとクラシック出身だけど、踊れるジャズに興味があるってことで、俺が彼らのためにコンピを作って勉強させたんです。武道館に行くような人気になっても俺は使い倒しますよ(笑)!」。

TRI4TH MEANING Playwright(2016)

11. カルメラ “真夜中の510”
須永とは縁の深い大阪発の8人組ジャズ・バンド。今回は2013年作『HANZOMON LINE』(ワーナー)からハードボイルドなアップを選曲。「大阪でやってた隔月イヴェントのレギュラー・バンドで、最初の録音をする時にもお世話させてもらって。彼らは演奏はもちろん、エンターテイメントとしても練られてる。人気が出て本当に良かった」。

カルメラ HANZOMON LINE ワーナー(2013)

 

12. T字路s “襟裳岬”
森進一の名曲を気迫たっぷりに歌うのは、イトウタエコCOOL WISE MAN篠田智仁によるブルージーなデュオ。2015年のカヴァー集『Tの讃歌』(Hanx)に収録。「本年度もっとも期待してるバンド。何度ライヴを観てもそのたびに良い! 今回はDJで一番プレイしてる曲を選びました。自分の30周年イヴェントの最後にかけたのもこの曲っていうね(笑)」。

T字路s Tの讃歌 Hanx(2015)

13. indigo jam unit “Never Did I Stop Loving You”
ファンクやラテンの要素も色濃い、レコーディングは一発録音を信条とする大阪の4人組。アリシア・サルデニャを歌で迎えた2011年のカヴァー集『ROSE』(basis)より。「アリス・クラークの曲で、いわゆる〈Organ bar〉クラシックス。彼らがカヴァーしてて、嬉しくなってすぐに電話して入れさせてもらった。曲としてもパーフェクトなので、DJは要チェック!」。

indigo jam unit ROSE basis(2011)

 

14. BimBomBam楽団 “サンセバスティアン”
PE'ZOhyama "B.M.W" Wataru(トランペット)が結成したジプシー・ジャズ・バンド。本楽曲は自主流通盤からのもので、最新作は2015年の『ナミウサギ』(meal me(e)t music)。「ジプシー・スウィングを基調にしてるけど、それだけじゃない魅力がある。こういうサウンドやヴァイオリンをフィーチャーした原点回帰の流れってキテるんじゃないかな」。

BimBomBam楽団 ナミウサギ meal me(e)t music(2015)

15. Sunaga t Experience “犬神家の一族~愛のバラード”
大野雄二が手掛けた映画「犬神家の一族」のテーマ曲を、須永主導でTRI4THのメンバーらを迎えてカヴァーしたもの。2015年作『STE』(ユニバーサル)にも所収。「映画の舞台が地元と所縁が深く、好きな曲でもあって。踊れるジャズにカヴァーしたいと先走って録音した。その後アナログで切ったり、アルバムにも収録したけど、気に入ってる曲です」。

Sunaga t Experience STE ユニバーサル(2015)

16. fox capture plan “Don't Look Back in Anger”
やはりラストを飾るのは、レーベルの看板トリオ。〈現代版ジャズ・ロック〉を標榜する彼ららしい、90年代ロックの名曲を多数取り上げた2015年のカヴァー集『COVERMIND』(Playwright)よりチョイス。「コンピは1本の映画と考えてて、最後はエンドロールになる曲を入れるんです。オアシスのカヴァーはUKの伝統を感じさせるし、タイトルもいい。最後はレーベルの顔にカッコ良く締めてもらいました」。

fox capture plan COVERMIND Playwright(2015)