THE FULL TEENZ
東京は西荻窪に対する京都からの回答!? 普遍的なポップさの背景にさまざまなバックボーンを映しながら行進し続ける男女トリオ

 

 主人公が立つ海岸の青々とした風景と、心のなかに打ち寄せるブルー。甘酸っぱく疾走するギター・サウンドと、言葉にならない言葉をかき消すように頭をもたげるシューゲイズな轟音――まさに“PERFECT BLUE”というタイトル通りの超美曲で幕を開けるのは、京都在住の3ピース・バンド、THE FULL TEENZのファースト・アルバム『ハローとグッバイのマーチ』。「以前は速い曲と展開のある曲は完全に分けて作っていたのですが、一曲のなかでそれらを同居できないかと試行錯誤して制作しました」(伊藤祐樹、ヴォーカル/ギター)という同曲をはじめ、パンク~ハードコアに多様な要素をまぶしたインディー・ポップを鳴らす彼ら。その背景に感じるのは、FRUITYからWiennersへと継承された東京は武蔵野周辺の匂いだ。

 「FRUITY~Wiennersの西荻窪の系譜にあるジャンクでファストなバンドはめちゃくちゃ好きです。FRUITYの『SONGS』は速くて短い曲のなかにこれでもかとメロディーが詰め込まれてるうえ、コード感も美しくて、そういう面では影響を受けていますね。あとはかせきさいだぁ≡さんにもめちゃくちゃ影響を受けました」(伊藤)。

 「私は皆とはちょっと違って、もともとパンクやハードコアはそこまで通ってなくて。THE FULL TEENZに加入してから、それこそWiennersやSEVENTEEN AGAiNのようなバンドを伊藤君に教えてもらったり、活動していくなかでそういったバンドと出会う機会が増えていきました。特にWiennersの“Hello, Goodbye”は大好きな曲で、今回のアルバム作成中も何かヒントになりそうな予感がして、よく聴いていました」(佐生千夏、ドラムス/ヴォーカル)。

THE FULL TEENZ ハローとグッバイのマーチ SECOND ROYAL(2016)

 本作のミックスにはKiliKiliVillaを主宰する安孫子真哉が登板。「間口の広い普遍的なポップさのなかに、マニアックな音楽のバックボーンが見え隠れするミックス」(伊藤)をめざしたそうだが、ここにはそれと同様に幅広いアレンジの13曲が並んでいる。伊藤いわく「うるさいシュガー・ベイブみたいな感じ」だという“City Lights”、陰影を伴って揺らぐ音像が印象的な“昼寝”、「YMOの“東風”のように電子音が飛び交うイメージ。理想郷を探す曲なのでメロディーもタイトルも多国籍な感じにしたくて、タイトルは宮沢賢治の考えた〈イーハトーブ〉と“東風”を足して作った造語に」(伊藤)という“IHATONG POO”……と、一曲一曲の個性を挙げ出すとキリがないが、全体的に眩しい季節/光量の多い風景を思わせる映像的な作りであることが共通している。

 「風景や季節が浮かぶと言われるのはとても嬉しいです。初めに風景を思い浮かべて、そこから歌詞と曲を作るので、僕らの曲にはすべて元となった風景があります。基本的には、キラキラした夏を斜めから俯瞰してる歌詞が多いです(笑)」(伊藤)。

 そんな今作のストーリーを総括するのが、メロディーをもっとも丁寧に作ったというラストの“ビートハプニング”。それは〈ハロー〉と〈グッバイ〉が行進するアルバムのタイトルと共に、聴き手それぞれの生活とシンクロする。

 「“ビートハプニング”は、良いことも悪いこともあるけど日々の流れは止まってくれなくて、行進を続けていくしかないということを歌ってます。これから起こることへの期待と、過ぎて行くことへの決別を繰り返しながら行進は続く――『ハローとグッバイのマーチ』はそういう意味で。〈行進〉というのはバンドかもしれないし、人生かもしれないし、モラトリアムかもしれない。なんでも良いんですけど」(伊藤)。 *土田真弓