新緑に彩られたある日の午後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。

 

【今月のレポート盤】

THE RED KRAYOLA WITH ART & LANGUAGE Baby And Child Care Drag City/Pヴァイン(2016)

三崎ハナ「先輩ッ! それは何弁ですか!?」

穴守朔太郎「ん!? オイラのは上州弁さあ。しかし、ハナは毎日やたらと元気だなあ」

三崎「ピカピカの1年生ですから!」

逗子 優「そしたら僕もピカピカってこと!?」

三崎「そうだよ! お互いロッ研のニューフェイスとして光り輝こうよ!」

穴守「おろ、ユウの持っているCDはレッド・クレイオラかい?」

逗子「そうなんです~。僕の大好きなアニマル・コレクティヴが彼らのファンらしいので買ってみたんですよ~」

穴守「確かにブルックリンの先鋭的な連中は影響を受けていそうだいな。で、どうだったんさ?」

逗子「予想していた音とは違ったんですけど、ポップでニューウェイヴな感じがとても良かったです~。せっかくなので流してみますね!」

三崎「あれれ、ユルユルだ! 私的にはポスト・ロックの親分みたいなイメージだったのにな!」

穴守「それも間違ってないんさ。クレイオラは実質的にメイヨ・トンプソンの不定形ユニットで、時代ごとにカラーが異なっているんさあ」

逗子「もともとは60年代のテキサスのサイケ・シーンから出てきたようですね~」

穴守「そう、初期はフリーキーなサイケなんだけんど、70年代後半にロンドンへ渡ってからはポスト・パンクの波に乗っていたし、90年代前半にシカゴへ移住してからはジョン・マッケンタイアジム・オルークも参加して、シカゴ音響派の梁山泊みたいなグループになった感じだいな」

三崎「メイヨってロックのトレンドに合わせて家を引っ越しているんですね!」

穴守「大ヴェテランにもかかわらず、その時代のもっとも尖ったシーンに反応する嗅覚があるんだんべえ。で、いま聴いているのはロンドンにいた頃の作品かい?」

逗子「そうです! 80年代前半の4タイトルがリイシューされたんですが、なかでもこの『Baby And Child Care』は84年録音の未発表アルバムなんですよ~」

穴守「へえ~。当時の空気を反映してダブファンクっぽい音作りになっているのが興味深いんさあ。かといって、ギャング・オブ・フォーキリング・ジョークみたいな攻撃性はなく、脱力感満点なところがたまらねえべえ」

三崎「歌は調子っぱずれだし、音もスカスカでリズムもヘンテコ……でも思っていたよりずっと聴きやすい!」

逗子「コラボ相手のアート&ランゲージは前衛芸術集団らしいので、僕も凄くアヴァンギャルドな音を想像していたんですよね~。でも聴いてみたら、ちょっと変なローファイ・ポップって感じで、何だか可愛くて」

三崎「うん! 難解なバンドだと決めつけていたけど、良い意味ですっかり印象が変わっちゃった!」

穴守「この頃のメイヨはスクリッティ・ポリッティモノクローム・セットの作品に携わるなど、ラフ・トレードの裏方としても活躍していたんさあ。そもそも音楽的なセンスや語彙が豊富な人なんだんべえな」

三崎「そういえば、時代的にはそのちょっと後になるプライマル・スクリームの87年作『Sonic Flower Groove』も、メイヨのプロデュースですよね!」

逗子「そうなの!? メイヨのことが好きになっちゃいそう!」

三崎「中性的なイケメンのユウ君がそういう発言をするとドキッとしちゃうよ。それにしてもロッ研って楽しいな~! ウキウキしちゃうから、私、お茶煎れます!」

穴守「うぅ……珍しくまともな部員が2人も入ってきたから、オイラ泣けてきた!」

 元気な女子と優男風の男子という2名の新メンバーを得て、今期のロッ研も賑やかになりそうですね。 【つづく】