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ソニー・ミュージック〈ブラジル・コレクション1000〉 ~後期ボサノヴァから豊穣のMPBまで、初CD化含む30作品がリイシュー

ソニー・ミュージック〈ブラジル・コレクション1000〉 ~後期ボサノヴァから豊穣のMPBまで、初CD化含む30作品がリイシュー

ソニー・ミュージック「ブラジル・コレクション1000」
後期ボサノヴァから豊穣のMPBまでを俯瞰する30選

 リオにブラジル初のレコーディング・スタジオが開設されたのは、1900年のことだそうな。録音第1号は1902年、歌手バイアーノがピアノ伴奏でコミカルに歌う、ルンドゥ(サンバ誕生前に流行ったアフロ系リズム)曲《イスト・エ・ボン》。クラシックでなく、自国発の芸能を真っ先に録音したとは、いかにもブラジルらしい。1913年、本格的なレコード生産が、やはりリオでスタートしている。先陣を切ったのはカーザ・エジソンを母体とするOdeonだが、1930年代に入りColumbiaとRCA Victorが市場参入。音楽大国ブラジルの誇る膨大なカタログが、まずこれら3社によって積み重ねられていった。

 ColumbiaにRCAレーベルが加わり、格段に幅と奥行きが拡がった、ソニー擁する後期ボサノヴァMPB時代のカタログ。今回の30タイトル中、3分の1が日本初CD化作品で、新規リマスタリングも8作。不朽の名品をはじめ、再認識を促すべく選ばれたもの、後年新たに価値が付与されたレア盤の類まで、お得な上に興味尽きぬラインナップがバランスよく並ぶ。LP→CD移行期の視点とまったく違う多様な切り口のセレクションに、わが国の嗜好の変遷を痛感。もちろん良い意味で、だ。

 さすがに日本、ボサノヴァ関連作が半数を占める。とはいえ、ひと括りにできない振幅の度合い。いちばん古い録音が1962年、物憂い夜の女王マイーザが、白日のもとでボサの潮風をまとったかのごとき異色作は、17年ぶりの復刻。64年録音で国内初CD化、名ドラマー、エヂソン・マシャード芸歴唯一のリーダー作は、重厚にして繊細。LP期の日本で圧倒的に売れたミルトン・バナナ、80年のジョビン・メドレー集は、今聴いても安定感抜群。近年にわかに脚光を浴びた、マリオ・カストロ・ネヴィス(ギタリスト、オスカーの5歳年長の兄)率いるグループも、これが唯一の発表作で、まさに時代の記憶を宿す雑多な内容。ホジーニャ・ヂ・ヴァレンサの71年作は、国際派ギタリストの広汎なアプローチとヴォーカルの魅力を詰め込んだ、名刺代わりのアルバム。極めつけは、アントニオ・カルロス・ジョビンで、御大の音楽領域にとって、ボサノヴァはほんの一部分に過ぎなかったことを思い知る。お世辞にも上手いとはいえぬ歌声がとくと味わえる、親密な3作品……ミウシャとのデュオ2作のうち、屈託のない笑いが印象に残る『愛の語らい』は、LP以来の完全復刻。94年録音の遺作にして豊穣の実り『アントニオ・ブラジレイロ』。これはもう、ジョビン御大からの素敵な遺言、最高に幸せな思い出の宝箱にも等しい。

 MPBの収穫は、シンガー・ソングライターたちの個性によってもたらされた。あらゆる才能を引き寄せる強烈な磁場の持ち主、エリス・レジーナの存在が、当時の若き逸材を、単なるコンポーザーとインタープリターの関係以上に成熟させていったのだ。ギターとヴォイスの魔術師、ジョアン・ボスコの原点たるシンプルな75年セカンド作は、嬉しい本邦初CD化。イヴァン・リンスの2作も、同時代の意欲みなぎるアルバム。ジャヴァンを代表するヒット2作には、勇躍への歓喜が横溢。ポスト・エリス世代、ガル・コスタ作品は98年録音で、国内初CD化。マリア・ベターニア傑作のひとつ『12月』は、約30年ぶりの国内盤か。

ジョアン・ボスコの75年作『Caca A Raposa』収録曲“Jandira Da Gandaia”
 

 ナナ・カイミ作品に加え、ジルベルト・ジルとの珠玉の共演も記憶に新しい、北東部出身のアコーディオン奏者、ドミンギーニョスの痛快な80年作も、本邦初登場。知性のシンボル、シコ・ブアルキ93年作『パラトードス』もまた、日本初CD化。久しく入手困難だったという、ミルトン・ナシメントの88年録音『ミルトンス』。ハービー・ハンコックナナ・ヴァスコンセロスと全編タッグを組む透徹した作品だが、このタイミングで聴き返すと……空間を漂うナナのスピリットは、鳥肌もの。

 カタログ終盤を飾るのは、いずれもリオ・サンバの結晶。貴公子パウリーニョ・ダ・ヴィオラの89年作が本邦初のリリース。あまたファンをサンバ世界に導いた77年の『クアトロ・グランジス・ド・サンバ』は、かつて他社でCD化が試みられた歴史的名盤だ。これぞ、豊穣のブラジル音楽……Isto e bom!

ネルソン・カヴァキーニョ他の77年作 『クアトロ・グランジス・ド・サンバ』収録曲“A Flor E O Espinho”
 

ソニー・ミュージック「ブラジル・コレクション1000」
8月の開催されるリオ・オリンピック前にして、ブラジル音楽にフォーカス! RCA、Columbiaレーベルを中心に名盤はもとより、長らく再発を望まれていた初CD化作品や現在入手困難のレア作品を含む30タイトルをピックアップ

 

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