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玉置浩二〈プレミアム・シンフォニック・コンサート 21st CENTURY RENAISSANCE〉Bunkamuraオーチャードホール公演をレポート

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玉置浩二〈プレミアム・シンフォニック・コンサート 21st CENTURY RENAISSANCE〉Bunkamuraオーチャードホール公演をレポート

歌の翼、管弦楽の浮力を受けて「夜」に舞う。
KOJI TAMAKI PREMIUM SYMPHONIC CONCERT-21st CENTURY RENAISSANCE

 調音後の消灯の際、誰かの(じぶんの!?)指が針を下ろす図が脳裡をかすめた。生演奏が始まる直前の、あまりにも不躾な連想だとは思う。しかし、盤上を滑り出す針音がなぜか耳底で聴こえたのだ。朽ちない歌々に寄せる想い、新鮮な驚きや温もりへのアナログ的期待感を物語る幻聴だったのだろう。〈玉置浩二プレミアム・シンフォニック・コンサート 21st CENTURY RENAISSANCE〉の序曲は、管弦楽の《歓喜の歌》。当日競演のバルカン特別編成交響楽団を操る栁澤寿男の同名著書に共鳴し、玉置が本公演のオープニングテーマとして書き下ろした作品だ。その旋律の余韻を纏って主役本人が登場し、《オレンジ》を歌いだした瞬間、灯りの消えた館内に改めて夜の帳が下りてきた。ふたりの吐息・頬を撫でる夜風・募る想い・瞳のかがやき…いつかの慕情が芳香のように立つ。安全地帯の時代から、玉置浩二のつむぐ旋律と一糸乱れず織られてきた語彙の数々が、霧状に舞いながら館内の隅々まで広がってゆく。《雨》に次いでは、松井五郎・作詞の《あなたに》。私見では「80年代に書かれた最も美しい日本の一曲」と断言し、即答できる作品だ。

 楽団員が譜面を捲る以外、曲間も終始ノートークでプログラムが進んでゆく。暫しの沈黙が再びアナログ盤の無音溝を想起させるが、もはや幻の針音は失せている。《ロマン》《SOS》《キラキラニコニコ》と流れるにつれ、楽器毎の粒だちが際立ち、初競演となる玉置浩二×フルオーケストラの斬新で細やかな意図、編曲の妙やホールの反響具合までが全身に滲んでくる。それは紛れもなく音楽からの捧げものなのだが、小説の結構にも似た巧みさを覚えるから不思議だ。歌詞の聞き取れない箇所など一切ない天才的な歌唱性、珠玉の短編集を一行一行眼で追うような静かな興奮と陶酔感…名盤が放つ輝きのような既視感が再び蘇る。その刹那、Princeが第57回グラミー賞「最優秀アルバム賞」のプレゼンターとして登壇した際の、印象的なスピーチが胸中に去来した。「Albums, Remember Those? Albums still matter. Like books and black lives, albums still matter. (皆、アルバムって憶えているかな? アルバムは今でも大事だよ。それは本とか黒人の命と同じように重要さ)」。それまでPrinceと玉置浩二を並列で捉えた事は一度もなかったが、この筆を置いたら閃きの正体を追ってみようかと思う。そしてI部の終盤、《MR.LONELY~メロディー》を聴きながら正直、じぶんの中の“戦後の記憶”や“青春の陰画”が炙り出される感触を覚えた。郷愁ではない。なぜならば、玉置の歌に曳航されて辿り着く先はいつも「現在」か「未来」という港であるからだ。

 以下は、翌朝のスポーツ新聞各紙にも載ったII部のサプライズ場面だ。大胆なアレンジで臨んだ《ワインレッドの心~じれったい~悲しみにさよなら》のメドレー後半、玉置浩二は歌詞の一部を「愛を~熊本のために~」と替えて歌った。当然割れんばかりの喝采がわいたのだが、それ以後の耳慣れた語彙の響きまでが違って聴こえた。その会場に居あわせた者のみが感じ入り、芸能記事からは零れ落ちてしまう繊細な化学反応のような一刻だった。「ひとりじゃないさ」「ひとつになれる」「そばにいるから」…断片のみを抽出すれば巷に蔓延る絆賛歌系の常套句と映るかもしれない。が、玉置のつむぐ旋律と歌声を得るとなぜ、これらのコトバが“強度”を有するのか。その秘密が少し解けたような一夜だった。過日、山下達郎が《希望という名の光》の中途で、岡林信康の《今日をこえて》の一節を挟む東北公演での音源を聴いた。彼は、玉置浩二を「日本で最も過小評価されているアーティスト」と評したとか。アンコールの一曲めは勇壮な鼓笛の鳴り響く《序曲 田園~田園》。そしてノーマイクで披露された圧巻の《夏の終りのハーモニー》でBunkamuraオーチャードホールの一夜めは締められた。

 J-POP歌手×オーケストラの競演が話題を集めるビルボードクラシックス・ルネッサンス公演の中でも、玉置浩二のプログラムは一番の成功例だという。願わくば何度でも記憶の針を下ろして聴きたくなるような、“夜装”の集大成的演奏会だった。

 


LIVE INFORMATION

KOJI TAMAKI PREMIUM SYMPHONIC CONCERT-21st CENTURY RENAISSANCE-
○7/7(木)会場:大阪・フェスティバルホール 
大友直人(指揮)大阪フィルハーモニー交響楽団
○7/11(月)、27日(水)会場:埼玉・大宮ソニックシティ 
大友直人(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団
○7/14(木)会場:札幌・ニトリ文化ホール
栁澤寿男(指揮)札幌交響楽団
○7/21(木)会場:福岡・福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)
栁澤寿男(指揮)九州交響楽団
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