ポップスとオーケストラの出会いが生み出したここにしかない極上の空間
billboard classics fetival 2016 in TOKYO

 ポップ・ソングがオーケストラと出会った時、歌はどう昇華するのか。その果敢な挑戦に取り組むビルボード・クラシックスのコンサートが、観客に新たな感動を運んでいる。とりわけ玉置浩二の成功は、評判が評判を呼び、人気を博すなか、挑戦するアーティストが増えている。その好調を受けて、初めてのフェスティバルが企画された。

 演奏は、東京フィルハーモニー交響楽団が担い、栁澤寿男が指揮をする。出演者は4組とゲストが3組という計7組で、このうち5組がドキドキの初出演者になる。

 オープニングは、八神純子が飾り、オーケストラの演奏をまるで波に見立てて、そこに気持ちよく乗るかのように、颯爽と《みずいろの雨》から《ポーラースター》まで5曲を歌う。伸びやかなヴォーカルは、デビュー時と変わらず、彼女の魅力を満喫するオープニングとなった。

 フェスティバルは2部構成で、1部は八神純子、川井郁子May J.佐藤竹善平原綾香の5組。2部は、Salyu with 小林武史中島美嘉玉置浩二の3組が出演。ポップ・ミュージックのフェスとは異なり、バンド・チェンジの必要がない。それにより空白の時間がなく、コンサート全体に優美な流れが生まれる。これはすごくいいが、ひとつのオーケストラを共有することで、歌に対するアプローチの違いが明白になる。各アーティストのために素晴らしいアレンジが用意されている。玉置浩二も当初は、リズムのない流麗な伴奏で歌う難しさに戸惑ったというが、その不安をパーカッションで取り除いたケースも見られた。新しい環境のもとで、オーケストラと歌う意味合いをどうとらえているか。

 いつもと同じスタンスで歌うことで、自分らしさを貫いたアーティストもいる。たとえば、Salyuは、プロデューサーの小林武史を伴い、清楚な声を楽器のように使いつつ、いつものように椅子に座りながら歌った。また、バイオリニストの川井郁子のように変える必要がなく、ソリストとして堂々とクラシックの人気楽曲《チャルダッシュ》を弾いた人もいる。平原綾香は、《ジュピター》が選ばれたので、クラシックを原曲とするヒット曲がオーケストラとの共演でより壮大になったし、May.Jの《レット・イット・ゴー》も歌がもともと持つスケール感を体験することが出来た。

 彼女達3人は、いずれも初出演組だが、もうひとり中島美嘉も初出演。黒いロングドレスを着た彼女は、登場した瞬間に会場の空気を変えた。極度の緊張がこわばった笑顔から伝わるなかで、名曲《雪の華》を歌い始める。正直に言うと、優れた歌唱力と声量の持ち主ではなく、音程が不安になるところもあるが、それを歌の物語を演じるように歌うエモーショナルなヴォーカルが凌駕する。《花束》、《ひとり》、《LAST WALTZ》と計4曲をパフォーマンスするが、曲によっては感情が昂り、しゃがみこみながらオーケストラの演奏を抱きしめるようにして歌ったりする。女優でもある彼女が歌のストーリーを演じた時の真骨頂をここに見た。ソロ・コンサートとは全く異なる歌だった。

 トリの玉置浩二は、《Mr.LONELY~メロディ》と《ワインレッドの心~じれったい》をメドレーで歌い、5曲で終わってしまう物足りなさ感を巧みに補った。そして、この5曲に痛感したのが、歌が成長し続けていること。オーケストラ・ヴァージョンの《悲しみにさよなら》や《夏の終りのハーモニー》が筋肉をつけてたくましくなっている。横須賀芸術劇場での初日の驚くほどの緊張感が懐かしく思い出される一方で、公演回数を重ねるなかで、馴れ合いになることなく、歌を進化させているところに、玉置浩二というアーティストの本質を見る思いがする。今後は、このシリーズとどう向き合っていくのか。それがまた楽しみになるパフォーマンスでもあった。

 最後にカーテンアンコールで全員がステージに登場した。女性アーティスト同士が抱き合う場面も見られ、それぞれの達成感が一気に表れたいい光景だった。

billboard classics fetival 2016 in TOKYO

出演:玉置 浩二/八神 純子/佐藤竹善/中島 美嘉/Salyu with 小林武史
スペシャルゲスト
3/12 平原綾香/May J./川井郁子(vn)
3/13 杏里小柳ゆき三浦文彰(vn)
栁澤寿男(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団
会場:東京国際フォーラム ホールA