ルネサンスの宝を3Dで体験する、映像によるフィレンツェ至高の旅。

 ウフィツィ美術館を中心に、歩いて行けるほどのエリアにボッティチェリレオナルド・ダ・ヴィンチミケランジェロらルネサンスの至宝がひしめきあう芸術の都、フィレンツェ。「花の都」の別名通り、街もアートも可憐な花のような美しさだ。そのフィレンツェの芸術を高精細3Dで撮影したのが『フィレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館』。昨年、公開されて話題になった『ヴァチカン美術館4K・3D』の続編になる。

 映画の冒頭、まずフィレンツェの街の空撮に釘付けになる。写真でもあまり見ることのないアングルで、建築物や街並の美しさが際立つ。もちろん3Dだから建物の一つ一つがくっきりと浮かび上がる。街のテクスチャーが伝わってくるのだ。

 映画はタイトルのウフィツィ美術館だけでなく、教会や広場など、フィレンツェの街に潜む壁画や彫刻、そして建築にもスポットをあてる。まずは「サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂」のドームの、ゆったりとしたフォルムを味わおう。ブルネッレスキが設計した二重ドームは当時、ヨーロッパ最大級のものだった。オルサンミケーレ教会の「聖ゲオルギウス像」はフィレンツェの武具馬具協会の守護聖人。それまでの教皇や貴族にかわって職人や商人など、一般の市民が力をつけてきたことの証だ。映画のタイトルであり、ルネサンス芸術を庇護したメディチ家も銀行業で財を成すまではとくに高貴な生まれということはない家柄だった。ルネサンス美術が花開いたフィレンツェは市民が統治する近代社会の萌芽が芽生えた、歴史上の転換点なのだ。

 いよいよウフィツィ美術館にカメラが入ると、そこからはそれこそ教科書級の名画が次々と登場する至福の時間だ。ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」「春(プリマヴェーラ)」は脂の乗り切った時期の作品。ボッティチェリは当時の画家としては珍しく、輪郭線を描いていた。繊細な黒で引かれたラインは人間の体の柔らかさ、しなやかさを際立たせる。この映画では絵画も立体化されるのだが(それには賛否両論あるのだが)、ラファエロの「ひわの聖母」は3Dで見ると聖母らの体の量感がリアルに浮き上がる。彼の卓越した画力を改めて見せつけてくれるのだ。レオナルド・ダ・ヴィンチ「受胎告知」は実質的なデビュー作ということもあり、後期の作品に比べると硬さ、ぎこちなさも感じられるが、それでもなお他を圧するものがある。未完の「東方三博士の礼拝」にも注目だ。修復後、初めてムービーに登場するこの作品からはレオナルドの制作の過程が垣間見えて興味深い。

 4K3Dのカメラは前作の「ヴァチカン美術館」からさらになめらかで自然なものになり、それぞれのアートが描き出す世界に没入できる。細部まで描き出すカメラによって実際にフィレンツェの街を訪れるのとはまた違った豊かな体験ができる、贅沢な映画なのだ。

 


映画『フィレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館』
監督:ルカ・ヴィオット 音楽:マッテオ・クラッロ
出演:サイモン・メレルズアントニオ・ナターリマルコ・チアッティアルトゥーロ・ガランシーノ/他 
日本語版ナレーション:小林薫
配給:コムストック・グループ(2015年 イタリア 97分)
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◎7/9(土)シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー!【3D/2D上映】
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