COLUMN

映し出される、もうひとつの顔~武満徹の〈映画音楽〉から垣間見える、内的書法や思索的方向性の推移

Avec Toru Takemitsu #3

映し出される、もうひとつの顔~武満徹の〈映画音楽〉から垣間見える、内的書法や思索的方向性の推移

映し出される もうひとつの武満の音楽

 はじめは1999年2月20日。東京オペラシティ・武満メモリアルホールで演奏するために、数曲の〈Songs〉と、映画「ホゼー・トレス」「写楽」の音楽を編曲した。その時に演奏を聴いてくださった武満さんのご家族や生前親しかったアーティストの皆さんの励ましで、その後も継続的に映画音楽の編曲をさせていただくことになる。2000年には「どですかでん」、2006年にはアルバム「夢の引用」のために収録した8曲、その後松本市のサイトウキネン・フェスティバルでオーケストラ・メンバーと演奏するために「燃える秋」と「化石」、そして2012年には「紀ノ川」「伊豆の踊子」「化石」をハーピストの篠崎史子さんの演奏会のために編曲した。2007年埼玉県立近代美術館での勅使河原宏展や、2008年から各地を廻り、今年12月に渋谷でも公演があるプログラム「A Tribute to Toru Takemitsu」を始め、コンサート用に編曲演奏したその他の数曲も合わせると、武満さんの映画音楽は、僕にとって音楽の百科事典のようにいつも側にある。

 ジャズがお好きだった武満さんだから、きっとマンシーニニーノ・ロータみたいに、自由にご自分の映画音楽が演奏されているのは喜んでくれるに違いない、と、思いつき即行動、で始めたプロジェクトだけど、アフリカ音楽やフォルクローレまでを内包する武満さんのフィルム・ミュージックの世界地図を、資料を積み上げ、俯瞰するように眺め、探検し、ご本人自筆のスコアの所在や、その映画音楽の収録にまつわるエピソードなども教えてもらううち、一つ一つの音楽が持っている実験精神の意味や時代の鏡としての奥深さに日々さらなる新鮮な衝撃を受けている。

 「からみあい」の、ジャズのビッグ・バンドや、「燃える秋」のタンゴのテーマ部分の細かな書き込みは、まるで武満さんが演奏者になって楽しんでいるようだし、有名な尺八と琵琶とオーケストラのためのコンサート・ピースである「ノヴェンバー・ステップス」を書く直前、映画「切腹」や「暗殺」そして「怪談」の音楽での琵琶や尺八への厳しいアプローチを聴くと、西洋の楽器を扱う日本人の音楽家としての居住まいを新たにさせられる。

 今年は没後20年ということで、例年にも増して武満さんの映画音楽を編曲演奏することが多い。これまで演奏していた曲や、これまで演奏したことのないテレビ・ドラマのための音楽などを選び、改めて武満さんのスコアを読んで聞こえてくる音たちを、ギターや、小さな室内ジャズ・アンサンブルのサウンドに置き換えている。是非はともかく、予想以上に効果的に織り重なった響きがギターのフレット・ボードへと移し替えられてしまうことに謎解きにも似た高揚を感じる。色彩溢れる蠱惑的な響きがオーケストラのスコアの上を斜めに駆け昇っていく様を、弦を押さえる感触で確かめるのは、日差しや雲を透かして降りそそぐ夏の花弁や秋の枯葉に手をかざしているようだ。

 映画「黒い雨」の有名な音楽に現れる悲痛な分散和音のモチーフが、その5年ほど前に「波の盆」というドラマの音楽に使われている。ジュリアン・ブリームのために書いたギターソロの作品「すべては薄明のなかで」の第4楽章に登場する美しい旋律は、少し前のテレビ・ドラマ「今朝の秋」のメイン・テーマの一部として、異なるKeyでとても安らかに奏でられているのを聴く。武満徹の劇や映画への付帯音楽を年代順に聴いていくと、表向きの顔であるコンサート・ピースから成るクロニクルとは違う、内的な書法や思索的方向性の推移を垣間見られて、鮮烈なインパクトがある。

 ちなみに、武満さんの最後のギターソロ作品となった「森のなかで」におけるとても象徴的な断片があるのだけれど、これも今回、「黒い雨」などの80年代の作品にその素材の片鱗を見た。死(death)を音名のDesに、固定する(fix)をFisに結びつけるなどの作法を駆使した武満さんには、悲鳴や歓喜、狂暴さや安息のそれぞれにも、語法の奥義があるのかもしれず、それを紐解くならば、コンサート・ピースにおける武満解釈も、これまでとは違った広がりを持つのではないだろうか。

 


寄稿者プロフィール
鈴木大介(Daisuke Suzuki)

1970年横浜生まれ。ギタリスト。武満徹から「今までに聴いたことがないようなギタリスト」と評される。マリア・カナルス国際コンクール第3位、アレッサンドリア市国際ギター・コンクール優勝など数々受賞。斬新なレパートリーと新鮮な解釈によるアルバム制作は高い評価を受ける。洗足学園音楽大学客員教授。

 


LIVE INFORMATION

武満徹へのオマージュ~フィルム・ミュージックと彼が愛した音楽~
○10/18(火)19:00開演 ○会場:ヤマハホール
出演:鈴木大介(g)田口悌治(g)吉野弘志(b)芳垣康洋(ds)北村聡(bandoneon)
曲目:J.レノンP.マッカートニー/ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア/ヘイ・ジュード(武満徹編/12の歌より)他
www.yamahaginza.com/hall/event/002241/

没後20年 武満徹の映画音楽
○12/21(水)19:00開演 ○会場:オーチャードホール
曲目:「フォリス」より第1曲/不良少年(羽仁進 監督)/伊豆の踊子(恩地日出男 監督)/どですかでん(黒澤明 監督)/日本の青春(小林正樹 監督) 他
出演:渡辺香津美(g)coba(accordeon)鈴木大介(g)ヤヒロトモヒロ(perc)
www.kajimotorplus.com

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