Page 2 / 3 1ページ目から読む

普段の生活で1mmも接点がないから続いてるんじゃないかな

――改めてこれまでの経緯や変化を伺いたいんですが、結成のことを教えてください。メンバーはどんなふうに集まったんですか?

小森「もともと僕がやっていたバンドが土台にあって、shinoさんと440さんはそのバンドの後期のメンバーなんです。そこに遊佐さんが入って。サークルが一緒とかメンバー募集で集まったわけではなく、最初は各々とたまたま出会った。年齢も違いますからね。shinoさんは40歳で、僕より9歳年上なんです」

――そうなんですか!

shino「そうなんです(笑)」

440(ドラムス)「僕は36歳です」

――見えない(笑)。

440「見えないようにしているんです(笑)」

shino「俺と小森君が知り合ったのもライヴハウスではなく呑み屋なんです。前身バンドのギタリストとも当時呑み屋で知り合って意気投合して、ベースを探してるって言うし、俺も暇だったので一回スタジオに入ってみましょうと。ホントに軽い気持ちでした」

shino

小森「ほかの2人ともそんな感じで出会ったので、音楽の趣味もバラバラなんです」

――そういった成り立ちのバンドが9年間不動のメンバーなのは凄いですね。

shino「実際音作りでぶつかることもあるんですが、ぶつかるのを避けるよりぶつかってから考えればいいだけなので。それに、好みが合う4人が一緒にやっても出来上がるものは限定されちゃうと思うんですよ」

440「まぁ、普段の生活で1mmも接点がないから続いてるんじゃないですかね(笑)。同じ趣味の人が集まったらそのうち飽きますよ。例えばメタルをやりたいと言って集まっても、あっという間に行き詰まると思う」

2010年作『箱舟』収録曲“雪解け水を飲みほして”の2009年のパフォーマンス映像

shino「俺はこのバンドに入る時、〈ベースが弾ければいいや〉ぐらいの気持ちで。どんな音楽がやりたいかということより、〈カッコ良ければいい〉というぐらいしか制限がなかった」

――ああ、それはジャンルとかの制限がないということで。

shino「はい。だから俺はどんな音も受け入れられるし、一方で小森君もベースラインを指定するわけでもないから、俺のアレンジも受け入れてくれる。とても自由ですよ。たまにバレないようにメタリカっぽいニュアンスを入れたりもしてますけど(笑)。でも俺がメタリカが好きだからと言ってメタリカが好きなメンバーが集まったとしても、それなら家でメタリカのCDを聴いてるほうがいいやって思うだろうし、コピー・バンドの延長はやりたくない。趣味がバラバラな人とやるのが楽しいんですよね。思えば高校の頃からそんなバンドばっかりやっていた」

2012年作『ハレルヤ』収録曲“天気の話”

――壊れかけの曲ってかなり個性が強くて、特に初期の頃は、さっきも言った通り60~70年代のロックの影響が色濃くありましたよね。

小森「当時は〈あんなバンドになりたい〉とか、常に理想像みたいなものがあったんですね。でもメンバーの好みがバラバラだと、僕がこうしましょうと言ったところで決まらないから。そうすると、もう僕個人の理想や主張はどうでも良くなってくる……どうでもいいとまでは言わないけど、僕個人の主義主張じゃなく、そんなこだわりをなくしたところから始まるのがバンドなんじゃないかと。今作は特にそういうものになっていますね」

440「演奏も主義主張ないです(笑)」

小森「作曲の段階で自分の主張や自我が入っていたとしても、もともと遊佐(春菜)さんや自分以外の人が歌う感覚で曲を作っているので、バンドでやる余白は残して作っていますし」 

――今作は確かに主義主張より体感的でポップだし、音楽としてスッと入ってくるアルバムですよね。

440「好きなことをやっているけど、各々のエゴは減った。前作までは全員エゴ丸出しでしたが、今作はそのあたりが削ぎ落とされています。俺としては音で何も言ってないんですが、〈言ってないんだけど……〉というところですよね。〈だけど〉の後に何があるかは聴き手に任せるという」

440

shino「あくまで個人的なことなんですが、以前は曲を作る時に、小森君が書いた歌詞を読んで、景色を浮かべてアレンジを考えていたんです。でも気付いたら前作からは歌詞をまったく意識しないでアレンジを考えていた。メンバーが作る音だけに反応して、音楽的なイメージだけでアレンジを考えてるなと。それがいいのか悪いのかはわからないけど特に今作では顕著でした。以前は歌詞を読むというワンクッション置いた行為が、気負いのように感じてしまっていたのかもしれない」

小森「僕も今回はあまり深く考えないで歌詞を書いていたんです。これまではテーマ主義のようなところがあって、何か強烈なワードをあえて使ったり、主題的なものがあってから言葉を派生させていったりしていました。でも最近はそれが希薄で、あまり限定的なイメージの押し付けはしていないつもりです。今作で曲のタイトルに英語が多いのはそのせいかもしれない」

――思えばかつての壊れかけは、曲が盛り上がるところにも〈なぜ盛り上がるか〉というストーリーを描いていたと思うんです。だから必然的で説得力があったけど、いまは〈盛り上がるのに理由なんかいらない!〉という感じになっていますよね。

小森「今作は特にナチュラルですね」

遊佐春菜(ヴォーカル/オルガン)「確かに、サラッと聴けると思います。こちらから〈こういう歌だ〉と提示しているのではなく、聴き手が自由に解釈してもらうような。言葉で説明するような歌は減ってきていますね。そうなることで自分の演奏もより自然になった気がします」

遊佐春菜

440「音もだいぶシャープになっていますよね。実はうんと小さいスピーカーで聴いても大丈夫なような音にしたんです。最近はCDを買ってもステレオで聴く人は少ないので、リスニング環境としてはめっちゃ悪いと思うんですよ。スマホからモノラル・イヤホンで聴いている人もいるだろうし、音の良さ自体そんなに気にしていない人が多いと思う。小さいスピーカーやモノラル・イヤホンでは、どんなにギターがカッコ良いことをやっていてもヴォーカルばかり聴こえてしまうし。前作はアナログだったんですけど、今作はPro Toolsを使ってデジタルで録って。デジタルは下手するとただの軽い音になってしまうので、以前は絶対やりたくないことのひとつだったんですが、聴いてくれる人がいないと話にならないし、それならリスナーの環境に合わせようと思ったんです」

――なるほど。それは曲も軽やかになったからできたことでもあるんでしょうね。

440「それもありますね。曲調も軽やかで、前みたいにドカーン!って感じは少ないですしね。ただ、スネアがヘンな音をしていたりミスっているとこもOKにしたりして、セオリー通りにいかないようにはしています。デジタルだと普通に録るとホントに〈普通〉になってしまうので」

――録音方法もこれまでのこだわりを排除して。

440「そうですね。曲とバンドの方向性、録音方法が上手く合ったんでしょうね」

小森「今作ではエンジニアも変わったんです。前作までは近藤祥昭さんという年上の、昔のロックにも精通している方にやってもらっていたんですが、今作は20代の馬場友美さんにやってもらいました。印象を変えたかったというのもありますね。どっちが良いとか悪いではなく、今回は若い感性の方と一緒にやりたかった。馬場さんは遊佐さんのソロ作『Spring has Sprung』(2015年)や、僕らのリリースをしてくれているMY BEST! RECORDSから出ているParadiseのアルバムも担当しているんですが、僕はその2枚がすごく好きで。Paradiseはガレージでパンクで、遊佐さんはポップでシュッとしたサウンドで、今回はその間をめざしたかった」

遊佐春菜の2014年作『Spring has Sprung』収録曲“五月の雨”

Paradiseの2015年作『Double dream is breaking up the door.』収録曲“ブレイズ ネイル”