言葉も音も、現時点における全力を注いだ渾身のシングルが完成。底知れぬポテンシャルを秘めた原石が語る、〈君と僕の物語〉とは――

「いまできる、自分たちの全力を詰め込んだ曲ですね。歌詞にしても、メロにしても、音色も、アレンジも」(福永浩平、ヴォーカル:以下同)。

雨のパレード You スピードスター(2016)

 アトモスフェリックなテクスチャーとダンスフロア経由のビート感覚を宿したメジャー・デビュー・アルバム『New generation』において、〈バンドでありながらバンド・サウンドではない、新世代のポップ・ミュージック〉を提示した雨のパレード。そこから約4か月を経て、4人が3曲入りのシングル“You”を完成させた。福永が冒頭のように評するタイトル・トラックは、ミニマルな展開が爆発的なカタルシスを誘引する逸曲。〈あなた〉に手を差し伸べるリリックも、そこに辿り着くまでの〈僕〉の不完全さがなんともリアルで彼ららしい。

「例えば玉置浩二さんの“田園”とか、KIRINJIの“Drifter”とか。あんなふうに人を救える曲を書けたらなってずっと思っていて、今回はようやくという感じです。“田園”の〈生きていくんだ、それでいいんだ〉っていう部分、僕はあれが答えだと思ってるんですけど、そんなふうにストレートに言うには、まだ自分には説得力がないなと思って、こういう形になりました。この歌詞はノンフィクションです。僕は、大切にすべきものがわかっていれば何があっても大丈夫だと思っていて、それが〈僕〉にとっては〈あなた〉でした」。

 メッセージ性の強さゆえか、作曲方法も今回から変わったという。“You”はまずサビメロを作り、そこから広げていったとのことだが……。

「曲についての挑戦は、間奏を取ってみたことですね。“You”はサビが4回あるんですけど、その間をなるべくメロで埋めたら5分半とかになってしまいました(笑)。あと音色的にも、僕はエレクトロ・ハウスやエレクトロニックなR&Bが大好きなので、スネアの代わりにスナップを入れてみたり、クラベスっていう木製の楽器を使ってみたり、好みのものが上手く合った感じですね。ビートも、最近ならジャック・ガラットラプスリー、あとワン・ダイレクションの“Perfect”でも使ってた〈ドッ・タタッ・ドッドッ・タッ〉っていう……昔から全然あると思うんですけど、個人的には4つ打ちの次はこれじゃないかな?って思っているものをハメてみたりしています」。

 そして2曲目は、J-WAVEのキャンペーン・ソングとして書き下ろされた“In your sense”。〈物事の捉え方を変えてくれる君〉と過ごす心浮き立つ時間をグルーヴィーに表現している。

「キャンペーンのテーマが〈Happy Rainy Day〉――雨の日が楽しくなるような曲ということだったので、オケは、僕ら的にはかなり明るいほうに寄せていて。でも、ただポップにするのではなく、ギターのリヴァーブやベースの質感はちょっと80年代を意識したようなものになっています」。

 続くラストは、柔らかな音像のなかに〈君と僕の幸福な日常のひとコマ〉を浮かべたピアノ・バラード。音数を絞ったプロダクションが歌と聴き手の親密な距離感を演出し、それは主題歌となったアニメ「ほのぼのログ」の世界観ともリンクしている。

「“morning”は、アニメの世界が生きる曲を作りたいなと思って歌詞も寄せてるし、曲自体も初めてピアノを使ってます。単純なコード進行も、ピアノだとベタにならないんですよね。そこにリヴァースを重ねてみたり、あと、マレットで叩いたシンバルのスーッていう音もサビに入れて、ちょっと回してみたら豪華なサウンドになりました。それと、僕ら最近はヴォーカルを重ねることが主流で、“You”はコーラスも含めて僕が14人いたりするんですけど(笑)、この曲はソロにしてます。重ねて空間の広がりを出すよりも、ここでは逆のほうがいいなって」。

 最終的には3通りの〈君と僕〉の物語が封じられることになった本作。そのジャケットでは〈原石〉が照らし出されているが、渾身の一曲に対するそうした選択からは、今後の理想と目標に向けた音楽家としてのシビアな視点が伝わってくる。

「だんだん多くの人に僕らの音楽が届いてるっていう実感はありますけど、まだまだ僕らは原石で、これからだよな、って。それでこういうアートワークになっています。良い曲を書くことと、良いライヴをすることと、ファンのみんなを大事にすること。それができていればバンドは消えないし、結果はついてくると思っていて。そこはさっきの〈大切にすべきもの〉の話にも繋がるところですね」。