INTERVIEW

キーワードはジャスティン・ティンバーレイクとNINの融合? ワイルド・ビースツが新作『Boy King』で辿り着いた境地を語る

キーワードはジャスティン・ティンバーレイクとNINの融合? ワイルド・ビースツが新作『Boy King』で辿り着いた境地を語る

ワイルド・ビースツが本格的なデビューを飾った、2000年代終わり頃のイギリスの音楽シーンと言えば、俗に〈ニュー・エキセントリック〉と呼ばれたタームがインディー・ロックの界隈で話題を集めたタイミング。フォールズジーズ・ニュー・ピューリタンズに代表される折衷的でアート志向のバンドが台頭し、このケンダル出身の4人組もまた、そうした流れに連なる新世代の一角として登場したことは記憶に新しい。

トーレ・ヨハンソンのプロデュースで異色のモダン・フォーク・ロックを聴かせた2008年の初作『Limbo, Panto』を経て、フォー・テットスティーヴ・ライヒの影響を汲むエレクトロニックなアプローチへの傾倒を深めた『Two Dancers』(2009年)と『Smother』(2011年)は、マーキュリー・プライズに選出されるなど高い評価を獲得。同時代のクラブ/ダンス・ミュージックや、インディーR&Bへの目配せも窺わせる先鋭的なビートとプロダクション。そして、文学性溢れるリリックを乗せたヘイデン・ソープ(ヴォーカル/ギター)の美しいファルセット・ヴォイスに、トム・フレミング(ヴォーカル/ベース)の低音と魅せる華麗なヴォーカル・ワーク――PitchforkをはじめとするUSメディアも唸らせた4作目『Present Tense』(2014年)は、そういった彼らの辿った上昇曲線が音楽的にも一つの到達点を示した作品だった。それに対して、このニュー・アルバム『Boy King』は、彼らが新たなレーンに踏み出した一枚と言ってもいいかもしれない。

「5枚目のアルバムだから、そこには何か〈一体なんなんだ!〉というような要素が必要だったんだ」とは、今作のプレス・リリースに掲載されたヘイデンの言葉だが、音楽性そのものに関してはこれまでの在り方を大きく越え出たものではない。艶やかなシンセのエレクトロがあり、ディスコやファンクの脈打つリズムがあり、官能的なダンス・フィールがある。しかし、サウンドの随所にはコンプレッションの効いた電子音やインダストリアルな質感のノイズがさざ波のように走り、『Present Tense』の洗練された印象とは異なる荒々しい音の手触りが今作を特徴付けている。加えて、力強いドラム・ビートに象徴的なバンド・サウンドが近作に増して打ち出されており、そのあたりはプロデュースを手掛けたジョン・コングルトンスワンズセイント・ヴィンセントエクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ)の功績を推して知るべしだろう。

当初は〈ジャスティン・ティンバーレイクのソウルフルなポップさと、ナイン・インチ・ネイルズの勇猛さを合わせたようなアルバム〉という青写真を元に制作が始まったそうだが、そこからどのような経緯を経て『Boy King』は完成したのか。今回はトムに話を訊いてみた。

WILD BEASTS Boy King Domino/TRAFFIC(2016)

前のめりで生意気なアルバムを作りたかった 

――新作『Boy King』のポイントは〈怒れる若者に戻ること〉だったそうですが、とてもタイムリーなものを感じてしまいました。というのも、イギリスのEU離脱のニュースは日本でも連日大きく報道されましたし、離脱に反対する若者世代の抗議の声も併せて伝えられています。あなた自身の身の回りの雰囲気はどんな感じでしょうか? 

「EU離脱に関する投票は、アルバム制作を終えた後に行われたんだけど(プレス・リリースの執筆も!)、その結果にすごくガッカリしたよ。イギリスという国はそんな了見の狭い小さな国じゃなくて、もっと現代的で外に開いてる国だと思っていたからね。いまやこの国は、奇妙で厄介な時期を迎えていると思う。次に何が起こるのか誰も見通せないことだらけだし、元通りになるのが難しそうなくらい、いろんな人たちが引っ掻き回されてしまったよ」

――今作で描かれている男性の本性、男性のアイデンティティーに関わるテーマや問題意識と、いまのイギリスが置かれている現状や、社会が抱えている問題とを重ねてみることもできると言えますか?

「確かに、労働者たちが住む町には無気力な感じが横たわっているし、他人や自分自身を激しく罵り合っている。いまのイギリスはとことん鬱屈とした場所になっているんだ。男たちが自分らの苦しみや悩みをちゃんと表現できなくなっていて、だから口汚くなっている。僕らはアーティストだから蚊帳の外……というのは間違いで、この問題に僕らも間違いなく巻き込まれているよ」

――前作の『Present Tense』について、ある種の到達点に達したという感想を持っていたので、今回こうして早いインターヴァルで新作が届けられたことに、嬉しさの反面、聴く前には若干の不安もありました。ただ、結論から言うと、この新作はサウンドや歌詞のテーマ性に関しても『Present Tense』からさらに深いレヴェルへと推し進められたという印象を持ったのですが、制作の出発点とはどのようなものだったのでしょうか?

「ありがとう、前作の出来には僕らも満足している。サウンドはもちろん、その方向性についてもね。でも、今回はサウンド的に何か違ったことをしたかったんだ。『Present Tense』みたいなエレクトロニックなラヴソングの後だったから、もうちょっとハードでタフな感じを試してみたかったんだよね。前回と同じように、今回も最初はPC上で作ったんだけど、そのあとにリハーサル・ルームでラウドなドラムとギターを収録したんだ。最初にロンドンで仕上げたデモは一旦置いておいて、小休止を入れてよりシンンプルにしたうえで、アメリカでのレコーディングにそれらの楽曲を持って行ったんだよ」

『Present Tense』収録曲“Wanderlust”
 

――プレス・リリースには、〈いままで一切やったことのないことをすべてやる〉というヘイデンの言葉も紹介されていますが、それについて具体的に説明してもらえますか?

「そう、僕らは一度もロック・バンドになりたかったことはない。いまでもそう! 確かにここにはギター・ソロも野太いベース・ラインもあるし、ミック・ジャガーばりに威張り散らしたヴォーカルもある。僕らはこれまでも一貫したテーマやアイデアを掘り下げてきたけど、今回はサウンドやアティテュードの面で全然違うことをやってるんだよね。そこには〈ファック!〉な感覚があるんだけど、恥ずかしさや不安もかなぐり捨てて、前のめりで生意気なアルバムを作りたかったんだ」

ブルーアイド・ポップとマッチョな攻撃性が合体した音楽になった 

――ジョン・コングルトンを起用した理由と、彼のプロデュースがワイルド・ビースツにもたらしてくれたものを教えてもらえますか? 

「ジョンの手腕に関しては、ミュージシャンとしてもプロデューサーとしても理解していた。偉大なる作品を数えきれないほど制作してきた人だからね。そして、彼もワイルド・ビースツの音作りに何か役立てるんじゃないかと思っていたみたいで、向こうからアプローチしてきてくれたんだ。それを聞いてすごく興奮したよ。彼との作業で一番素晴らしかったのは、僕らのベストを引き出してくれたこと。それに、間違いない方向に演奏できるようにフォーカスさせてくれたこと。素晴らしい体験だった」

――今作のサウンドは、これまでと同様にダンス・フィールが感じられる一方、電子音の手触りにはノイジーなところがあり、低音の重さや太さが際立って感じられます。プロダクションに関しては、どんなことを重視していましたか?

「たぶん一番重要なのは、サウンドがラウドで力強く、そして能天気だということ。ダンサブルでシンセティックな加工を施しているなかに、狂気的で常軌を逸したようなギター・サウンドもある。ジョンは生ドラムの音をエレクトロニックな質感に置き換えたりもしてくれた。『Present Tense』はレイヤーも重層的で濃密なサウンドだったけど、今回はもっとダイレクトな音をめざしたんだ」

――“Get My Bang”や“Eat Your Heart Out Adonis”には、インダストリアルやロウ・ハウスに通じるようなヘヴィネスも感じられます。今回のアルバムに関して、これまでのワイルド・ビースツにはない、新たな音楽的な参照点や影響源となったものをあえて挙げるとするなら、それは何になりますか?

「ナイン・インチ・ネイルズやヴァン・ヘイレン、それにマックス・リヒターかな。これまでにも挙げてきたものも含めるなら、ワンオートリックス・ポイント・ネヴアーアノーニブルー・ナイルトーク・トークも」

ナイン・インチ・ネイルズの94年作『The Downward Spiral』収録曲“Closer”
 

――今回の収録曲では“2BU”や“Tough Guy”に顕著な、つんのめったようなビートやリズムも耳に残りました。これらの曲ではどんなことを意識していましたか?

「僕らはいつも真っ先にリズム・セクションから録音しはじめるし、ジョンもそうしているんだ。クリス(・タルボルト:ドラムス/ヴォーカル)は今回いつもとは違う4分の4拍子を演奏している。とても奇妙でパーカッシヴなスタイルでね。僕らがやろうとしたのは、レイジーで不正確で、だらしない感じのリズム。これもまた、ジョンの影響だったのかもしれない。まさにレイドバック気味のテキサス・サウンドだよね」

――『Present Tense』ではホアン・アトキンスファクトリー・フロアなどが手掛けたリミックスも話題を集めたように、ワイルド・ビースツは現行のダンス・ミュージックとの活発な交流でも知られています。そういった交流やクロスオーヴァーな感覚は、制作において大きなインスピレーションになっていると言えますか?

「イギリスで育った多くのキッズがそうであるように、僕らはダンス・ミュージックやクラブ・ミュージックに囲まれて育ってきた。これまでのリミックスに関しても本当に満足していて、僕らのロック・ミュージックを少しだけダンサブルでリズム・オリエンテッドなものにしてくれている。今回は自分たちのなかで、エレクトリックというよりはもっとロックな作品だけど、それがリミックスを通じてどうなるのかは楽しみだね」

――ちなみに、当初は〈ジャスティン・ティンバーレイクのソウルフルなポップさと、ナイン・インチ・ネイルズの勇猛さを合わせたようなアルバム〉を考えていたそうですね。実際に作品を作り上げていく過程で、当初に描いていたアイデアからどのような軌道修正があったのでしょう?

「確かにこの作品は、当初はもっとデリケートで名状し難いエレクトロニック・ソウルを意識したところからスタートしたんだ。それでちょっと行き詰まったから、仕切り直して生のドラムを入れたり、もっとディストーションの効いたギターを足したりしてみた。そういった新しい〈文脈〉のおかげで、歌詞にも新たな意味が生まれてきたんだ。自分自身の痛みについて歌うヘイデンと、混乱しているようなバンドの演奏――そのコンビネーションこそがアルバムそのものであり、まさしくブルーアイド・ポップとマッチョな攻撃性が合体した音楽になったんだ」

ジャスティン・ティンバーレイクの2016年のシングル“Can’t Stop The Feeling!”
 

――ヘイデンは今作について、〈Tinder(出会いアプリ)世代のためのアルバム〉であるともコメントしています。冒頭で質問した、男性のアイデンティティーにまつわる話とも関わってくると思いますが、今作の背景になっているテーマについて改めて教えてもらえますか。

「今作の曲はほぼセックスに関するもので、ラヴに関するものはない。このアルバムは自分勝手なわがままや自己満足についてだったり、(実物よりも)華やかに飾り付けた自分を世界にプレゼンテーションすること、そこに潜む空虚さや無意味さをテーマにしているんだ」

――男性性の問題やマチズモの愚かさ、あるいは性愛といったテーマは前作でも描かれていましたが、こうした関心はヘイデンやバンドにとって普遍的な関心でもあるのでしょうか? あるいは、いまの世界や社会が抱えているとてもタイムリーな問題である、という認識がそこにはあるのでしょうか?

「確かに、僕らはここ数年ずっとそういったことを書き続けているね! そういった話題を語るのに適した新しいデバイスも見つけているし、(年を追うごとに)観点も変わっているけど、一貫して理性的なアプローチをしてきている。僕らが初期に作ったアルバムの歌詞を今回の作品と並べても、違和感ないと思うよ。僕らも年齢を重ねて、自分たちの周りにもいろんなことが起こったし、さまざまな大人の事情をこの目で見てきた。それらが今回の作品では、より悲観的な方向性や荒々しいサウンドなどに影響してると思う。最初にも話した通り、いまのイギリスは愚かで良くない問題に直面している。僕らはその現実に対峙したかったんだ」

――そのうえで、今回の『Boy King』というタイトルには、どんな意味が込められているのでしょうか?

「すべてを支配しようと目論んでる王様が、実は弱々しくて子供っぽい内面を持っている。これは強さと弱さ、権力と服従を同時に表現しているんだ――パーティー・アルバムでもあるけどね」

――最後に、少し先走った質問になりますが、結成から15年近くが経つバンドのキャリアにおいて、この〈いままで一切やったことのないことをすべてやってみせた〉アルバムは、バンドを今後どのような方向に導く作品になると思いますか?

「さっきも話したように、僕らは今回のアルバムで自分たちの羞恥心や自意識をかなぐり捨てたんだ。そして、僕らにとって実りのある新たな方向性を見つけ出すことができた。バンドの未来についてもすごく興奮しているし、演奏するうえでの新しいアイデアもたくさんある。僕らは『Present Tense』を一つの完成形として、何か新しい方向に向かう時期なんだと思う」

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