Debut 35th Anniversry 今も、今日からも、〈人生は美しい〉と彼女は謳う

 突如発火したようなニッポンの80sへの脚光現象が面白い。桐谷美玲の話題CMには〈全日本暴猫連合 なめんなよ〉まで参上して一途なガンを飛ばしてる。そして日本(語)の80sヒッツの真打ち登場とばかりに7月27日、麻倉未稀の新録盤『Voice of Power -35th Anniversary Album-』が発売される。エレガントさ増量の朽ちない現役感はジャケ写からも一目瞭然、2016年版“ヒーロー”の1曲を聴いただけでもフルスロットルなバリバリ感が半端ない。

麻倉未稀 Voice of Power -35th Anniversary Album- キング(2016)

 83年に「スチュワーデス物語』の主題歌“What a feeling~フラッシュダンス”がヒット、翌84年に伝説の青春ドラマ「スクール☆ウォーズ」を飾った“ヒーロー”がブレイクし、その幅広い歌唱力で不動の座を射止めた彼女。その軌跡曲+メガ・ディスコ・ヒッツ+新曲3篇が濃縮された一枚だ。試聴後最も意外に思えたのが、売野雅勇:訳詞による“ヒーロー”の響き方/滲み方の変容ぶりだった。取材でもこんな秘話を聴いた。5年前、一週間後は30周年PRで仙台入りというタイミングで大震災が起きた……が、新幹線の復旧を機に早々の仕切り直し依頼が飛び込んできた。時節柄、CD販売だけは躊躇う本人にスタッフが現地の意向を伝えた。「モノを買って、受け取るというのは〈命がある証し〉なんだから」。躊躇いが消えた。「なんか皆さん、明るかったんですよ。泣く曲じゃないのに私のほうが泣いちゃって、謝りながら歌いました(笑)」。当日歌った“ヒーロー”の独特の感触を、今でも麻倉は鮮明に憶えている。「それこそ、お台所にあるカラッカラに乾いたスポンジに水が滲み込んでゆくみたいに。じぶんの、この体に歌が入ってゆくのが解るんですね」。バブル期の象徴歌が衣替えした!?

 その才色兼備ぶりから〈都会派美人シンガー〉とも〈ドラマ主題歌の女王〉とも呼ばれてきた彼女。どちらも輝かしいティアラではあるが、利便性に富んだそれらの形容が歌手・麻倉未稀の独特な立ち位置を巧く言い当てているかは疑問符が舞う。率直に訊いてみた。「あなたは一体どのジャンルに属するんですか!?という質問はデビュー当初からよくされてました。で、私自身がジャンルで決めたくないし何でもやりたいって答えると、余計に驚かれたりして(笑)。正直、自分自身でもそういう位置に立てるとは思ってなかったんですけどね」。中尾ミエや伊東ゆかりらの舶来歓待期とは違い、情報洪水とMTVの隆盛で辛口評も浴びてきたであろう、洋楽カヴァーという独自路線。一方、祝35周年で売野雅勇・湯川れい子・三浦徳子が三者三様に綴った新作(詞)に、これからの麻倉未稀らしい立ち位置が透視できる。

 


LIVE INFORMATION

35th Anniversary LIVE ~Voice of Power~
○9/16(金) 会場:ビルボードライブ大阪
○10/8(土) 会場:名古屋ブルーノート

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