Age ain’t nothing but a Number
94年に生まれたジャズの未来――カナダの才媛、ニッキーが届ける20歳の情熱とは

 カナダ出身のニッキー・ヤノフスキーは、子供の頃からエラ・フィッツジェラルドを敬愛し、彼女のレパートリーを歌った『Ella... Of Thee I Swing』で2008年にアルバム・デビュー。鋭いリズム感で堂々と歌うスキャットが絶賛され、当時13歳のこのジャズ・シンガーは〈天才少女〉とも呼ばれた。それから約7年、20歳になった彼女が発表するニュー・アルバム『Little Secret』は、〈ジャズとポップの融合〉をテーマにすべて自作曲という意欲作。加えてプロデューサーがクインシー・ジョーンズだという話題性もある。

 「14歳の時に〈いつかいっしょにやろう〉と約束したのが実現したの。クインシーは、いまジャズに新たな息吹をもたらす必要性を感じていて、嬉しいことに、その再生に貢献できるひとりとして私に期待してくれているみたい。私がやりたいのは幼い頃から聴いてきたジャズとポップを私の感性で融合させて、同世代にも聴いてもらうことだから。前作からの4年は、その新しい音楽の模索に時間を費やし、とにかく曲作りに励んだわ」。

NIKKI YANOFSKY Little Secret Emarcy/ユニバーサル(2014)

 大勢の人と共作を重ねるなかで、ロブ・クライナーという良き理解者を得る。ジャズ出身ではなく、シーロー・グリーンやシーアらをプロデュースしてきた彼は、今回ニッキーがめざすジャズとポップのハイブリッド・サウンドの構築に貢献してくれた。先行シングル“Something New”もロブとの共作曲で、クインシーの名曲“Soul Bossa Nova”と、ハービー・ハンコックの名曲“Watermelon Man”をクールにサンプリングしている。

 「デビュー当時から応援してくれている2人への感謝の気持ちからサンプリングしたの。同時に60年代のグルーヴィーな音楽を2014年に蘇らせたいという思いがあったから」。

 60年代へのリスペクトはPVやジャケット写真などレトロな雰囲気のヴィジュアルにも表れており、特にジャケット写真は人気女優のブリジット・バルドーにインスパイアされたもので、わざわざ35ミリのフィルムで撮影したという。ジャズとポップの融合と共に、レトロな要素のミックスも独自性を切り拓くためのテーマに加わり、時代をもう少し遡るが、1938年にオリジナルが書かれた“Jeepers Creepers”ではルイ・アームストロングとヴァーチャル・デュエットを果たしている。

「いつもこの曲が頭のなかで鳴っているくらいクセになるキャッチーなナンバーだけれど、オリジナルはサビの部分のみに歌があって、あとはインストゥルメンタル。それがもったいない気がしたから、大好きなルイ・アームストロングの歌とトランペットを活かしつつ、新しい曲に作り直したの。元気いっぱいの歌で、私のお気に入りでもあるわ」。

 今回もスキャットでジャズのスキルを存分に発揮しているが、失恋の切なさを歌う“Waiting On The Sun”の儚げなヴォーカルなど、歌の表情も豊かになった。

 「これまで〈人生経験が乏しい10代にジャズを歌えるはずがない〉といった批判も受けてきた。子供と大人の線引きが存在するのよね。だから20歳になって嬉しい。新作は、自分でアルバムの方向性を決めて曲を書き、〈これこそが私の音楽〉と表明できる作品に仕上がったわ。これからは絶対に音楽に関する妥協はしない。ポップとジャズの融合をとことん追求していくつもりよ」。

 どんな分野でも天才少女が大人に脱皮するのは簡単ではない。だから、ニッキーにも時間が必要だったわけだけれど、『Little Secret』を聴けば、それに成功したことがきっとわかるはず。このアルバムは20歳の情熱に満ちている。

 

▼関連作品

左から、ニッキー・ヤノフスキーの2008年作『Ella...Of Thee I Swing』(A440)、同2010年作『Nikki』(Decca)、クインシー・ジョーンズの2010年作『Q Soul Bossa Nostra』(Qwest/Interscope)
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