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イヤホンズ
24種の声による壮大なロック・オペラ! 天使と悪魔が背中合わせとなった意欲的なニュー・シングル!

 新人声優の成長と活躍を描いたTVアニメ「それが声優!」(2015年)の劇中ユニットと連動する形で結成された、高野麻里佳高橋李依長久友紀の若手声優3名から成るユニット、イヤホンズ。同アニメの主題歌や挿入歌を担当したばかりでなく、その後もライヴにリリースにと作品の枠を飛び越えて活動を継続し、今夏にはアニメ音楽の祭典〈Animelo Summer Live 2016 刻 -TOKI-〉にも初出演。そこで共演した石田燿子永井ルイと共に「美少女戦士セーラームーンR」の名曲“乙女のポリシー”をカヴァーしたり、レーベルメイトでもある特撮の大槻ケンヂとのコラボ曲“現象のブレイド”を発表したりと、音楽面でも野心的な楽曲を連発している期待のホープだ。

イヤホンズ 予め失われた僕らのバラッド EVIL LINE(2016)

 そんな彼女たちの通算4枚目となるニュー・シングル“予め失われた僕らのバラッド”も、もちろん一筋縄ではいかない内容となっている。タイトルからして物々しい雰囲気の表題曲は、〈ロック・オペラ〉を標榜した壮大極まりないナンバー。「少女革命ウテナ」の影絵少女を思わせる意味深な朗読劇を導入に紡がれるのは、〈本当の気持ち〉を見失ってしまった〈僕ら〉が〈ヒト〉になるための物語……と書くと人によっては大仰に感じられるかもしれないが、この、いわゆる中二病的なモチーフも散りばめた詞世界がエンドウ.GEEKS)の作/編曲による怒涛のハード・ロッキン・サウンドと実にマッチしており、熱血度高めで心に迫る3人の歌声も相まって、理屈や文脈を抜きにした感動を覚えること請け合いだ。ちなみに、コーラスでは声優らしく24種もの声質を駆使しており、ここはやはりイヤホンで聴くことをオススメしたい!

 また、カップリング曲においてもシアトリカルな魅力を打ち出しているのが、本シングルの特徴だろう。2曲目の“Yummy Yummy Party”は、小悪魔に扮したイヤホンズの面々が〈闇パーティー〉を開く、ハロウィンの季節にピッタリな題材の楽しい楽曲。ももいろクローバーZ“Wee-Tee-Wee-Tee”などを手掛けたCHI-MEYらしいファニーでメルヘンチックな歌詞やアレンジもさることながら、3人が〈みみみみみーみー〉と子供っぽく合唱する様が可愛らしくて、思わず一緒に歌い出したくなってしまう。コミカルでゴシックな世界観はティム・バートンのアニメ作品にも通じるもので、ROLLYが悪魔の支配人役(とギター演奏)で登場するのにも納得。

 そして、通常盤のみに収録される“ヨロコビノウタ”は、ショパン〈夜想曲〉やベートーヴェン〈歓喜の歌〉といったクラシック曲の有名なフレーズのみを繋いでメロディーを構成した、何とも贅沢な作りの一曲。岩里祐穂が乗せた歌詞も、大きな意味での〈愛〉を表現した壮麗な内容となっており、こちらも編曲はエンドウ.が担当。オルガンや鐘の音などで飾り立てた〈パンク meets クラシック〉な極厚サウンドと共に歓喜の歌声が天上へと昇りゆく、まさに圧巻の仕上がりだ。

 それぞれの方向性に振り切った異色の3曲なれど、その曲調ごとに適した声音で歌いこなす実力はさすが声優。「魔法使いプリキュア!」の主演など大役を射止めた高橋をはじめ、個々の本業での活動も増えるなか、アーティストとしてもこの先さらに注目を集めることだろう。 *北野 創

 

イヤホンズ流のコンセプチュアル・ポップはここにも!

 ニュー・シングル“予め失われた僕らのバラッド”もヴィヴィッドな世界観の3曲が揃っているが、これまでのイヤホンズ作品も相当コンセプチュアル。その最初の集大成となった初アルバム『MIRACLE MYSTERY TOUR』は、〈イヤホンズの3人が架空のアニメの世界を歌で旅をする〉というコンセプトを下敷きに、〈学園もの〉〈スポ根もの〉といった、彼女たちにとってはメタな方向性に振り切ったナンバーばかりだった。ここでは、そんな企てに加担した作家陣によるその他のコンセプチュアル・ポップを追ってみよう。

 まずは、“予め失われた僕らのバラッド”でも腕を振るったGEEKSのエンドウ.の仕事を。パンキッシュな本隊での持ち味は楽曲提供の場でも発揮されているが、そのなかでも異色と言えそうなのが、上坂すみれに書き下ろした“無窮なり趣味者集団”。『20世紀の逆襲』という表題通りの〈現代から見た20世紀〉というテーマにおいて、軍歌のようなアレンジで雄々しさを振り撒いている。また、ダークなMYTH & ROID、熱血なOxTと自身のユニット活動も精力的なTom-H@ckは、〈魔法×ガーリー〉をコンセプトとするマジカル・パンチラインのデビュー作『MAGiCAL PUNCHLiNE』をプロデュース。こちらも〈洋画のファンタジー大作風〉〈魔法少女アニメ風〉と曲ごとの方向性が明確で、さまざまなオマージュが入り乱れる遊び心が満載の一枚となっている。

 

 そして、イヤホンズには〈魔法少女もの〉を送った永井ルイの提供曲のなかからここで推したいのは、同系統のメルヘン・ワールドが広がるi☆Risの“幻想曲WONDERLAND”。こちらはELOか!ってな具合のゴージャスなプログレ・ポップで、聴き応えがありすぎる逸曲だ。さらに、永井とはルーツが近いROLLYと長谷川智樹の共作による“宇宙のMON DIEU”も聴き逃し厳禁! この曲は〈RPG〉をテーマとするMEGのアルバム『CONTINUE』に収められているもので、〈冒険の始まり〉→〈ラスボス戦〉と各曲が辿る場面の〈恋の目覚め・恋愛〉にあたるもの。ROLLYの多重コーラスと熱いギター・ソロも炸裂するド派手なナンバーで、珍しくウェットなMEGの歌唱も聴きものと言えるだろう。 *土田真弓