「SUPERFLEX One Year Project - THE LIQUID STATE / 液相」会場風景 撮影:木奥惠三

 

SUPERFLEXといっしょに美術館を醸そう!

 SUPERFLEXは、デンマーク・コペンハーゲンを拠点に活動するヤコブ・フィンガーラスムス・ニールセンビョルンスティエルネ・クリスチャンセンによるアーティストユニット。コミュニティや社会経済、金融といった私たちの暮らしを取り巻くしくみに眼を向け、インターネット、デザイン、音楽などさまざまな媒体を用いて、人々を巻き込むプラットフォームをつくることを得意とする。作品を「ツール」と呼び、高いデザイン性で人を惹きつけ、手がける多くのプロジェクトが、異なる土地の文脈に合わせて改良され、世界各地で展開されている。ソーシャルなアートを語るときにしばしば引き合いに出される人気グループだ。

 そのSUPERFLEXが手がける最新プロジェクト「THE LIQUID STATE / 液相」が、現在金沢21世紀美術館で進行中だ。今回彼らが注目したのは「菌」。金沢21世紀美術館の丸い建物を実験培養用のシャーレに見立て、培養と発酵と醸成をキーワードに、1年がかりで美術館を「醸す」プロジェクトだ。

 白く発光する展示空間に足を踏み入れると、チューブのついた四角い水槽、積み上げられたプラスチックのシャーレが目に入る。中央には黒光りした謎の立方体、彼らのトレードマークであるオレンジ色の「THE LIQUID STATE」の文字が白い床に反射している。まるでSF映画のセットのようなラボ空間で、3つのインスタレーションが日々変化し成長している。

 約1500個のシャーレは、展示室内の微生物を培養する装置。白衣を着たスタッフが、来場者の皮膚などから目に見えない菌をせっせと採取し培養する。直径2メートルのシャーレの上の黒いアスファルトの固まりは、固体のようで実は液状で、1ヶ月、半年というスパンでゆっくり溶けていく。(ちなみに固まりの一辺の長さは84.74cm、2015年世界保険統計による日本人の平均寿命だそう)そして水槽の茶色い液体は、海外セレブの間で今話題の発酵飲料、コンブチャ(いわゆる紅茶キノコ)で、除湿機が採取した展示室内の水を使って製造している。来場者は、ただ会場にいるだけで気づかぬうちに微生物を運び、二酸化炭素を排出し、空間内のシステムに参加してしまっているのだ。オープンから3カ月後に会場を訪れると、なにもなかったシャーレにはカラフルな菌が繁殖し、黒いアスファルトはキャラメルのようにゆるりと溶け出し、コンブチャの瓶が棚に並んでいた。まさに生きている展示室のなかで、来場者は、この部屋の生命への関わりを自覚させられ、奇妙な責任感すら感じてしまうから不思議だ。

 一方、この空間で可視化される出来事は、私たちの社会の多様なメタファーを含んでいる。流動的な経済システムや人間関係が見て取れるし、さらに言えばさまざまな人との関わり合いを通して醸成していく美術館、という可能性の暗喩でもある。本展のキュレーター、黒澤浩美は、金沢21世紀美術館のポテンシャルをあげるためのアイデアをSUPERFLEXに依頼したと語った。コミュニティにおける美術館の役割とは何か、なぜ街に美術館が必要なのか。その意味を企画者が与えるのではなく、人々といっしょに考えていくツールとして展覧会が機能することを期待したという。展覧会から派生した市民によるプロジェクトは、その一例だろう。メンバーは、高校生や大学生、仕事帰りの社会人など。それまでほとんど美術館と縁のなかった人たちが美術館に集まり、「哲学」「発酵」「培養」の3つのチームに分かれてアイデアを持ち寄り、さまざまな活動を起こしていく。ぬか床だって毎日かき混ぜなければだめになるように、美術館だってさまざまな人が関わり続けることで、醸されてうまみも増すのである。

 11月には作家が再来日し、また新たな企みを考えているという。SUPERFLEXの《THE LIQUID STATE》というツールを、コミュニティと美術館、来場者がどのように使いこなすのか。醸造は一日にしてならず。来年の3月、さらにその後も続く、オルタナティヴスペースとしての美術館の新たな挑戦が楽しみだ。

 


EXHIBITION INFORMATION

SUPERFLEX One Year Project ― THE LIQUID STATE / 液相
○プロジェクト期間: 4/29(金)〜2017/3/12(日)
○展覧会会期:4/29(金)〜11/27(日)
入場無料
会場:金沢21世紀美術館 展示室13
開場時間:10:00-18:00(金・土は20:00まで) 
閉場日:月曜日(ただし、10/24は開場)