頼もしい仲間たちを招くことで、ほんのりと色付いた彼女だけの世界。ひっそりと、穏やかに紡がれる日常の延長には、こんなにオーガニックな温もりが溢れているよ!

 しんと静まり返った夜明け前、耳を澄ませるとどんな歌が聴こえてくるのだろう。Predawn(夜明け前)と名乗るシンガー・ソングライターの清水美和子は、これまでひとりで、宅録で曲を作ってきた。そんななか、ニュー・アルバム『Absence』は初めてゲスト・ミュージシャンが参加。なかでも、赤い靴神谷洵平(ドラムス)とガリバー鈴木(ベース)は、ここ数年、Predanwnのライヴをバックアップしてきた頼れる仲間たちだ。清水は今回のレコーディングの経緯をこんなふうに振り返る。

Predawn Absence Pokhara/HIP LAND(2016)

 「前から〈バンドって楽しそうだな〉って思ってたんですけど、同時に、他の人と自分のイメージ通りの音を作るのは難しいだろうなって思ってたんです。でも、ここ数年、神谷君とガリバーさんにライヴをサポートしてもらってだんだんグルーヴがこなれてきたし、今回のアルバムはがっしりしたサウンドが欲しかったので、一緒にやってみようと思ったんです」。

 リズム隊が加わったことで、「どちらかというとこれまで置き去りになっていた」というグルーヴ面を強化。Predawnのフォーキーなサウンドに躍動感と奥行きが加わった。「二人のことは信頼しているんですけど、最初はちょっと不安だった」という清水だが、彼らとのレコーディングは彼女にとって新鮮な体験だったようだ。

 「自分とは違う人のエッセンスが音楽に入ると、そこに会話が生まれるんですよね。自分で入れた音って気に入らないとすぐボツにしちゃうんですけど、この二人が入れてくれたものって、聴いてくうちに〈ああ、なるほど〉って思うことが多くて。自分で作ったアルバムなのに、聴いてても全然飽きないんですよ(笑)」。

 ゲストのパートはスタジオで録音されたが、基本はこれまで通りの宅録。清水はギター以外にトロンボーンやライアー(竪琴)などのさまざまな楽器を弾いたり、逆回転などのエフェクトを加えたりして音を作り込んでいった。さらに鳥の鳴き声や落ち葉を踏みしめて歩く音など、フィールド・レコーディングされた音源が溶け込んでいるのもPredawnらしいところだ。

 「落ち葉の音は近所の公園で録音したんです。耳の位置で録れるイヤフォン・マイクを使って、曲のBPMに合わせて歩きました。そのときに鳥も鳴いてて。そういう生活音を入れるのが好きなんですよ。いかにも〈スタジオで録ってます〉っていう音が苦手で。家で録っていると救急車の音とか入ったりするんですけど、そのほうが日常の延長として聴けて好きなんですよね」。

 そんな音へのこだわりが、まるで箱庭みたいな音響空間を作り出している。美しいメロディーや繊細な歌声とシンクロさせながら、サウンドを通じてひとつの世界観を作り出しているのがPredawnの魅力だ。

 「例えばジザメリとか、私が好きなアーティストって、音を聴いたらすぐわかるんですよ。私もそういうふうでありたいと思っていて。音だけじゃなく、空間ごと曲に詰め込みたい」。

 そして、「都会だと周りのことを気にしがちですけど、歌いたくなったら鼻歌を歌ったり、口笛を吹いたり。そういう自然な気持ちを大切にしたい」という彼女にとって、音楽は生活の一部。ヴォーカルを吹き込むときに心掛けていることを訊ねると、こんな答えが返ってきた。

 「歌のなかで息をしている。生活をしている感じが出ればいいなと思ってます。例えばタワレコで私の曲をかけてくれたとき、それを聴いて自分の家っぽく感じられるくらいだったらいいなって」。