(C)Marco Borggreve
 

感覚美と形式感、抒情性が融合した味わい深い名演、カップリングには遊び心も

 多彩な音色と磨き抜かれた感覚美、端正な造形、プログラムに知的なアプローチを取り入れる個性派、タロー(1968~)がロマン派の王道名曲、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を録音した。彼のCDを見ると、ロマン派はショパン以外ほとんど手がけていなかっただけに興味津々といったところである。

ALEXANDRE THARAUD Plays Rachmaninov Erato/ワーナー(2016)

 その演奏、タッチの美しさといい、音色の変化といい、清冽な抒情といい、全くこれまで聴いたタローの芸術的な美点がそのまま表れたものとなっている。豊かな情感と端正な造形の共存を支えるものとしては、要所締める音の触感とテンポの変化が挙げられる。例えば第1楽章呈示部、タローの鐘のような和音が、音量とともに硬度と輝度を高めながら第1主題を導く場面など、その緊張感の高まりが見事であるし、第2主題でテンポと緊張感を抑えて僅かなルバートを絡めながら甘美な旋律を歌わせる場面も、第1主題の暗い情感と美しい対照を成している。第2楽章でも十分に旋律を歌わせながらも、音楽の流れの良さを失う事が無く、ピアノに絡んでゆく各奏者とのコンビネーションも絶妙である。豊富な楽想が投入される終楽章では、冒頭からスタッカートとレガートの描き分けが小気味よく決まり、楽想間のテンポの緩急も幅広くとられ、細部まで音楽美を堪能させつつ聴き手を雄大なクライマックスに導くのである。

 カップリングも非常に気が効いている。協奏曲に続いてラフマニノフ初期の代表作「前奏曲嬰ハ短調」を含む「幻想的小品集」が収められているが、「前奏曲」のラストはピアノ協奏曲第2番の冒頭との類似がしばしば指摘される。「ヴォカリーズ」ではエラート・レーベル期待の新進ソプラノ、ドゥヴィエルが共演。「6手のためのロマンスとワルツ」の「ロマンス」の冒頭部分は、ピアノ協奏曲第2番の第2楽章に用いられている。しかも共演者のファーストネームは女性のドゥヴィエル以外、全員アレクサンドルなのである!