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ギター・ロックを譲らなければ、何をやっても大丈夫

――最終曲の“あいなきせかい”の後に登場するシークレット・トラックには驚きました。ファンキーな曲に乗せて突然ラップしていて。

「あれは悪ノリです(笑)。完成したとき、すごく良いアルバムだと思ったんですけど、通して聴いたときに良くも悪くもズッシリきちゃったんですよ。アルバムを聴いたときに〈あとはそれぞれ勝手に考えてくれ〉というニュアンスを残したかったし、俺たちが音楽を楽しんでいることもわかってほしかった。メンバーの間でも、入れるかどうかで揉めましたね」

――揉めたんですか(笑)。

「反対意見としては、作品としての完成度が下がると。でも、そのボーナス・トラック感やちゃちい感じは、俺は名盤に必要な要素だと思っていて。真面目に良いアルバムを作っても、それが名盤になるとは限らないと思うんですよ。最後に〈なんちゃって〉と言えることで、すごく腑に落ちるというか。今回はその軽さをあえて入れたかったんです」

――ヒップホップに顕著だと思いますが、音楽には〈軽い題材を真剣にやる〉という向き合い方もありますよね。

「そうですね。俺とベースの(ヨシミ)ナオヤはヒップホップも好きなんですよ。ナオヤはポップ寄りのものやミクスチャーなんかを聴いていて、俺は5lackPUNPEEが好き。THA BLUE HERBLoop Junktionも聴いています。ミクスチャー的なサウンドをカフカとして出したことはなかったけど、今回シークレット・トラックでやってみたら、普通に良いと思えました。〈ダサイよね〉〈でも良いよね〉という感覚でレコーディング中もみんなずっと笑っていたし、アウトとセーフのギリギリに位置する魅力的なものになったと思うんですよ。このトラックがあるものとないものを聴き比べたんですけど、作品の聴こえ方や最後の印象も全然違うし、2周目を聴いているときの感じ方もだいぶ変わった。それに『あいなきせかい』というタイトルで〈愛〉を歌っているからこそ、重すぎないことが重要だった。〈俺の愛はこうだけど、みんなはどう?〉ぐらいの問いかけにしたかったんです」

5lackのS.L.A.C.K.名義での2009年作『WHALABOUT?』収録曲“That's me”
PSGの2009年作『David』収録曲“愛してます”
 

――こんな種類の曲は昔のカフカでは絶対にできなかったですよね?

「絶対に無理でしたね(笑)。でも、もはや恐れるものはないんですよ。俺らにはギター・ロックというベースがあって、それを譲らなければ、何をやっても大丈夫なんだなと思えるようになった」

――さまざまな要素を加えていくことで、ギター・ロック自体を客観的に見ることもできるようになったと思うんですが、いかがですか?

「どうでしょうね? ギター・ロックに関しては、少なくともいまは聴いてないです。もう自分の血みたいなものだし、このバンドをやる以上はギター・ロックをやっていきたいという気持ちは間違いないけど、ギター・ロックでカッコイイと思えるバンドが、いまはいないんですよ。リバティーンズストロークスはずっと聴いていますけど、普通のロックでは物足りない。あと、最近はジャズも聴きますね。ターンテーブルをもらったときに、ジャズの名盤をいっぱい買ってきて、いろいろ聴いているうちに、〈なるほど〉とわかってきたことが多かった。最近は、ジャズの要素が強いバッドバッドノットグッドや、ジャズとソウルを混ぜているジ・インターネットも好きです」

バッドバッドノットグッドの2014年作『III』収録曲“Kaleidoscope”
ジ・インターネットの2015年作『Ego Death』収録曲“Girl ”
 

踊れる音だからこそ、言っちゃいけないことまで言える

――カネコさんが自分の好きな要素を持ち込めるようになってきたように、いまのカフカはメンバー全員が自分の好きなものを持ち寄れる環境になっているんでしょうか?

「そうだと思います。次第にメンバーの持ってくるネタがファンキーになり、バンドとしてもヒップホップっぽい、トラックっぽいものを作るようになってきて。今回の“heartbreak”は、あえて延々とループするトラックで作ってみたし、“Ice Candy”にはシューゲイザーのノイジーな美しさを入れました。あれはギター・サウンドがクリーンなものだったら全然印象が違ったと思う」

――あのギター・サウンドはインパクトがありました。ニルヴァーナの“Bleach”に音響的な要素を加えてぐちゃぐちゃにした感じというか。

「ギター・ロックは根本にありつつ、それ以外のエッセンスを加えることで新しい喜びが生まれるんです」

2015年作『Tokyo 9 Stories』収録曲“サンカショウ”
 

――昔といまとでは音楽性も変化していますし、バンドをやる感覚自体も変わっていますか?

「もうバンドをやっているという感覚ではないですね。ライフワークであり、自分にとってはこれがないと生きていけないもの。それにメンバー同士の仲も良いから、友達と遊ぶ感覚もある。いまは良い意味でラフになっていて、ガチガチに考え込まなくなったし、全員の良いところを意識せずともわかるようになったと思います。こいつはいま腑に落ちてねえなってことは言われなくてもわかるし、だからこそキワドイところまで行ってみたくなるんですよ。メンバーが〈行きすぎ〉とか、〈ここまで行くともう分からない〉となるポイントを探したくなる。たまに行きすぎてボツになることもあるんです。今回もヴェイパーウェイヴっぽい曲があったんですけど、それはボツになり……というか、“Ice Candy”に変わったんです。最初はサンプリングのコラージュみたいなものだったんです。ダークで冬っぽい曲を作りたくて」

――なるほど。最終的には真逆の、夏の曲になったんですね。

「そうなんです(笑)。“LOVESICK”も、一歩間違えるとジャニーズだよねという意見も出ていて、俺はおもしろいと思ったけど、最終的にはギリギリセーフのところに持って行った。そうやってバンド全員が音楽好きのままで、その気持ちを投げ合いながら曲を作っていけば、これからもたぶん大丈夫だと思うんです。自分が良いと思うものを日々探して、メンバーやリスナーともわかり合えたら楽しいですよね。最近のライヴも、こっちは人生をかけてやっているから、重さを出したくなっちゃうけど、リスナーはそこに囚われないで楽しんでくれている感じがあってすごく嬉しい。俺には俺の人生があり、お客さん一人一人にはそれぞれの人生があるけど、それを踏まえたうえで楽しんでいるのは健全。それができるのは、〈俺はこうだけど、お前はどう?〉と自分の意見をしっかり言ったからだと思う。だから、このアルバムを全然気に入らないと言ってくれてもいいし、私の愛はこうじゃないと言ってくれてもいい。見せるべきものは提示したよ、という感覚です。ライヴでは盛り上がってくれても、泣いてくれてもいいし、踊ってくれてもいい。気に入らなかったら来なくてもいいし(笑)」

――昔のカネコさんは〈ライヴが嫌い〉と言っていましたよね。いまはどうですか?

「いまは楽しいです。前はもっと硬い雰囲気だったから、いまさらですけど、お客さんの笑顔を見て自分たちも笑顔になれるというのは新しい経験なんですよ。もちろん、根本はいまも変わってなくて、自分の嫌な部分もさらけ出したうえで向き合っていますけど、踊れることで風通しが良くなると思うんです。踊れるサウンドだからこそ、言っちゃいけないことまで言える。その言葉に反応してお客さんが笑ってくれて、音楽に合わせて踊ってくれたら、それがいちばんのコミュニケーションだと思う」

カフカの2010年作『cinema』収録曲“Annie”
 

カフカ『あいなきせかい』Release Tour〈KFKの逆襲がはじまるぞツアー〉

2016年11月4日(金)札幌COLONY
共演:Ancient youth club限りなく透明な果実Vianka
2016年11月10日(木)高松DIME
共演:ユビキタスTHE BOY MEETS GIRLS
2016年11月11日(金)広島CAVE BE
共演:ユビキタス/THE BOY MEETS GIRLS
2016年11月13日(日)福岡LIVE HOUSE Queblick
共演:ユビキタス/Suck a Stew Dry
2016年11月18日(金)大阪LIVE SQUARE 2nd LINE
ワンマン・ライヴ
2016年11月25日(金)名古屋ell SIZE
ワンマン・ライヴ
2016年12月1日(木)仙台enn 2nd
共演:ジョゼバンドごっこOver The Dogs
2016年12月2日(金)松本ALECX
共演:ジョゼ/ハンドごっこ/TRY TRY NIICHE
2016年12月3日(土)新潟GOLDEN PIGS BLACK
共演:ジョゼ/ハンドごっこ/TRY TRY NIICHE
2016年12月7日(水)恵比寿LIQUIDROOM
ワンマン・ライヴ/ツアー・ファイナル
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