初のオール海外ロケによる最新作は、ゴシック・ホラー色全開でありながらも、圧倒的な映画/映像原論である!

 初のオール海外ロケによる〈フランス映画〉である「ダゲレオタイプの女」は、どこか覇気を欠いた青年が写真家の助手になるための面接を受けるべく、古くて立派な屋敷を訪れるシークエンスで幕を開ける。青年が玄関を入ってすぐの空間で待たされる数分間を目撃するだけで、観客はすぐさま映画の世界に引きこまれるだろう。たとえば、彼の視界の外にある背後の扉の微妙な動きなどが、僕らの恐怖を巧みに呼び覚ますのだ。

 「ジャパニーズ・ホラーが流行していた時期に、イギリス人プロデューサーからイギリスで一本撮らないか、と持ちかけられ、イギリスでホラーといえば、ゴシック・ホラーしかない、と20年近く前に構想したアイデアが下敷きになっています。古い西洋の館で何やら怪しげなことをやっている映画ですね(笑)。今回撮影に使った建物は200年ほど前に建てられたもので、えっ、こんなところに扉があるの、こことあそこがつながってるの、と日本では考えられない複雑な構造になっていて、しかも広い。その豪勢な空間をたっぷり活用しました。ただ、外国の監督が京都の日本間などで撮影して陥りがちな、現地の人にやり過ぎと映るような恥ずかしいことは避けたかったので(笑)、フランス人のスタッフに、〈これ、変じゃない?〉と確認しながら撮影を進めました。こんな撮り方があるのか、これは恐いですね、と彼らも面白がってましたね」