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クラウドを意識しない音をやりたかった

――まさにそういう問いに対するアンサーが、今回の新作『Monday』に詰まっているように感じました。どういうところから始まった作品ですか?

「2年くらい前から形になってはいたけど、出していないものが4~5曲あって、それらはみんな歌ものだったんです。それを元に、歌もののアルバムとして作り上げていきました。単純に歌ものが好きなんですよね。自分が好きなコード感なんかを活かせますし」

――日本ではメジャー・デビュー作となります。

「日本ではMIYA TERRACEというレーベルからのリリースになるんですけど、特に僕がメジャー志向というわけでもないんです。ただ、ここはテンテンコさんや向井太一くんに僕という、3者3様のアーティストが所属していて、そういう面々が揃ったレーベルをメジャーがやっているのがおもしろいと思ったし、メジャーならではの受け皿も持っているので、ありがたくリリースさせていただくことになりました」

テンテンコの2016年の配信シングル“放課後シンパシー”
 
10月26日にリリースされる向井太一のニュー・アルバム『SLOW DOWN』収録曲“SLOW DOWN”
 

――とはいえ、ガラパゴスと呼ばれるような日本の音楽マーケットに寄せた感触はないですね。

「それはまったくないです。自分が日本のアーティストという意識もないですし。日本盤は、日本のアーティストに参加してもらった曲をボーナス・トラックとして収録していますが、それも音作りの部分ではこれまでと変わってませんから」

――確かに、ブレずにstarRoさんらしさが貫かれた作品ですが、これまでと大きく変わったところも見い出せますよね。ビートを強く打ち出していない曲とか、かなりスロウな曲が多い。

「ひとつは、トラップ的なビートをほとんど入れていないということですね。あのビートを身体が覚えてしまって、自然と指が動いてトラップを作ってしまったりする。でも、いまあれを使っても制作意欲が満たされないんですよね。SoundCloudであれば、トラップのように既存のフォーマットを使ったほうが伝わりやすいですけど、今回はアルバムとして作り上げたものなので、自分がいいと思ったビートや音像を自然に打ち出したものになっていると思います」

――なるほど。

「あと、ここ1年くらいでフェスやパーティーに呼んでいただく機会も増えたんですけど、そういう場では踊らせてナンボなところがあるじゃないですか。でもアルバムは、パーティーとは離れた安息の場と捉えたかったんでしょうね。ダンス・トラックだけじゃないよ、という気持ちが常にあった。特に最近はショウばかりだったので、そこでできなかったこと……クラウドを意識しない音をやりたかった」

――EDMが巨大化していることもあって、パーティーではよりアッパーな音が求められる傾向もあるんでしょうね。

「もちろん僕もDJではハードなトラックをかけるし、踊れる曲も大好きです。だから自分のなかの打ち出すモードが違うだけではある。ただ、物凄くデカイ現場でアッパーな曲をかけて超盛り上がると、やっぱり気持ちいいし、どうしてもそっちに引っ張られて溺れてしまう。自分はそうなりたくなかったし、だからこそこういうアルバムを作ることが重要だったんです」

――ほぼ全曲でゲストを迎えていますが、その人選はどのようにされたんでしょうか。

ジェシー・ボイキンス3世に参加してもらった“My Oh My”は前からあった曲なんですけど、そのほかはライヴで観て、いいなと思った人、たまたま見つけてコンタクトした人がほとんどで、結果ほとんどLAの人たちになりましたね」

――その“My Oh My”はハウシーで、アルバムのなかではビートが強めの曲です。

「ビートが強い曲は最初の頃に作ったものが多くて、そのなかでいま聴いても満足できるものをアルバムに入れました。ただ、そういう曲もフロアを意識して作ってはいなくて、リスニングのためのものであり、かつ踊れるくらいの感じ。それは昔からそうなんですけど」

――そういうダンサブルな曲も収録されていますが、全体的にはレイドバックした感覚、チルでメロウな要素が前面に出ていますよね。

「確かにこれまでの僕の、ビートの強い曲を聴いてきた人は、あれ?と思うかもしれないですね。ただ、そこを狙ったわけではなくて。あと、これからもアーティストとしてやっていくためには、トレンドに乗っかりすぎてはいけないと常々思っていますし、刺激だけを提供していると飽きられてしまう。自分はこういう音楽を作れるんだから、そこは大事にしたいと思っているんです」

――〈こういう音楽〉というのはつまり、ビートだけの音楽とは違うものというか、メロディーやコードが響く音楽というか。

「そうですね。自分はトラックものよりも、今回のアルバムみたいな音楽が軸にあるので。だからゆくゆくは、〈10年前はビート・ミュージックも作っていたんだけどね〉とか言っている可能性もあるかなと(笑)」

――それから、ラルフ・ワシントンをフィーチャーした“Love”は、AORのようにも感じました。チルでメロウな方向に進んだ結果、原点にあるジャズ的な感覚も前に出てきたのかなと思ったりもして。

「ただ、音の選び方とか音像は新しいものになっていると思うんです」

――そうですね。いまはオーガニックなサウンドを採り込んでいくアプローチも結構あると思うんですけど、そういうものではないですよね。サウンドはあくまでマシナリーでフューチャリスティックです。

「そうなんです。いまはそういうバランスが好きなんですよね」

――また、日本盤のボーナス・トラックですが、ひとつはNIPPSJinmenusagiMETEORという日本のラッパー3人を迎えた“Get Me Outta Here”です。

「まずJinmenusagiくんと一緒にやりたいと思っていたんですけど、そこからマイクリレーもので3世代のラッパーに参加してもらおうというアイデアに発展して。だからトラックはJinmenusagiくんをイメージしたものになってるんじゃないですかね。そういう音にNIPPSさんやMETEORくんがどう合わせてくるのかに注目していました」

――特にMETEORさんを起用しているのが意外に感じたんですよね。

「実はまったくイメージできていなかったんですけど、とにかくおもしろいものができるんじゃないかなと思ったんです。結果的に、予想以上にすごいものになりましたね(笑)」

――確かに、これはとにかく聴いてもらうしかないかもしれませんね(笑)。もう1曲がCharaさんを迎えた“カクレンボ”。スウィートでメランコリックなR&Bで、個人的には90年代後期のウマーを彷彿とさせるプロダクションが良いなと。

「Charaさんは強い個性というか存在感を持っていらっしゃる方ですし、最初は彼女のイメージとは全然違うものにしようかなと思ったんですけど、結果的にCharaさんのオーラに引っ張られた仕上がりになりましたね。自分のなかから聴こえてきたあの声を意識しながら曲を作って、自分が好きなCharaさんの感じに落ち着いたんじゃないかと思います」

――今回のアルバムはとてもチャレンジングな作品ですけど、決して実験的なものではないですよね。メロディーやコードの美しさで成り立ったタイムレスな音楽で、とてもポピュラリティーのあるものだなと。

「メジャー志向があるわけではないんですけど、やっぱりできるだけ多くの人に聴いていただくに越したことはないですよね。音楽ってシンプルなものだと思うし、難しいものではない。そこを追求したいと思っています。誰の胸にもスッと入ってくるもので、かつ、新しい要素は採り込みたい。そういう音楽が、自分にとってのベストです」

 


TRAP SOUL
feat. starRo 「Monday」 release PARTY

11月22日(火)@東京・SOUND MUSEUM VISION
OPEN 22:00
出演:starRo and The Band/Masego(from US)/Dean(from KOREA)ほか
前売 2,800円/当日 3,500円

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