photo by Pat Kepic

 

個々の世界観を持つ3人のヴォーカリストによるスペシャル・ユニット、待望のデビュー!

 グレッチェン・パーラトレベッカ・マーティンベッカ・スティーヴンス。それぞれソロとして活動しているこの3人が友だちになり、ある日レベッカの自宅で夕食のテープルを囲んだ。3人は、食後にレベッカのギターの伴奏で彼女の曲を一緒に歌ってみた。

 「レベッカの《ゴッド・イズ・イン・ザ・ディテイルズ》にハーモニーをつけて一緒に歌ってみたら、3人でしかあり得ないマジックのようなものが生まれたので、すぐに一度ライヴをやろうことになりました」

TILLERY Tillery コアポート(2016)

 こうして自然発生的に誕生したのが、ティレリーだ。誕生から6年目にして、やっと発表されたアルバムには、各々の自作曲に加えて、プリンスジャクソンズなどのカヴァーが4曲収められている。グレッチェンの自作曲のうちの1曲は、《マグナス》。動画サイトでは、グレッチェンがこの曲を歌っているライヴ映像が4年以上も前から公開されていた。そのステージには、可愛らしい男の子と母親らしき女性の姿も……。この曲に秘められたエピソードを明かしてもらった。

 「あの男の子がマグナスで、当時5歳。女性は私の高校時代からの親友で、当時彼女はマグナスの弟を身籠もっていた。《マグナス》は、お腹の中の子供に向かって歌いかけた子守歌で、繰り返しのコーラスの部分はマグナスが作ったの(笑)。それに私が作ったベース・ラインとヴァースを組み合わせて出来た曲です」

 グレッチェンは、2年半ほど前にドラマーのマーク・ジュリアナとの間に男の子をもうけている。それだけに以前と現在とでは、《マグナス》に対する思いも随分違うような気がするが。

 「その通りです。このアルバムは約6年かけてスープをじっくり煮込むようにして作り上げた作品で、この間に私は結婚し、母親になった。だから今、《マグナス》がこうして初めて世に出るのは、結果的には適切な時期だったと思う。現在の私は母親としての生活を最優先にしてるけど、家族ができたので、子供向けのアルバムを作りたいと思っているし、夫と一緒にコラボレートしたアルバムを作りたいとも考えています」

 グレッチェンの音楽性は、他の2人と比べると、フォーキーな色合いが薄い。それだけに彼女にとってティレリーは、なおさら意義あるプロジェクトだという。

 「私も昔からジョニ・ミッチェルキャット・スティーヴンンスが好きだったけど、この種のルーツを追求する機会がなかった。また、即興で曲を自在に引き伸ばすジャズと違って、時間的なことを含めた色々な制約やシンプルなフォーマットの中で、いかに豊かな音楽を生み出すか。こうした点でも、ティレリーは私の新しい可能性を引き出してくれるプロジェクトです」