相性のいい組み合わせだけがいいわけじゃない

――次はドラマーについて。まず、柏倉隆史さんはどういう経緯で参加することになったんですか?

「僕がDETERMINATIONSで活動していた頃に、toeとはフェスとかでよく一緒になってたんですよ。ジャンルは違うけど年齢も一緒(共に76年生まれ)だし、その頃からいいなと思っていて。それで、たまたま1年くらい前に柏倉くんとセッションしたんですけど、そのときの感触が良かったので、そのままお願いすることにしたんですよ。柏倉くんはジャズ出身じゃないけど、楽器の鳴らし方やシンバルの使い方がエルヴィン・ジョーンズにも通じるというか、パーカッションを叩いているみたいなんですよ。(『Espoir』の冒頭に収録された)“It Must Be Love”もまさしくそんな感じで」

toeの2015年のライヴ映像
エルヴィン・ジョーンズの68年のライヴ映像
 

――柏倉さんはパーカッション的というか、音色/音響への意識が高いイメージがありますね。

「スネアにしても、ロックのそれやしね。シンバルもそれに合うようにダーク系のものを使ってる。それに(音量を)大きめに叩くときも、後からミックスで整える前提でやっていたり。そういうのも計算しているから、音色や音響に関しては抜群だよね。タイム感もそう。ジャズとはまったく異なるグルーヴだし、石若くんとは全然違う」

――わかります。

「石若くんと坪口さんは相性もいいし、この2人をセットにするのは最初から決めていたんですよ。それとは別に、柏倉くんと坪口さんという組み合わせもアリかもしれないと思ったんです、なんとなく直感で。もしかしたら、相性はそんなに良くないかもしれんし、ジャズにはならないかもしれないけど、こちらの予想を超えるようなものになることを期待したんです」

――でも、想像以上にジャズっぽさは出てましたよね。もちろん普通のジャズでは全然なくて、異物感はありますけど。ジャズのミュージシャンと会話の仕方が違うから、坪口さんがかなり合わせているのかなと。ヨソでは見られない演奏をしていますよね。

「坪口さんはいつもと違う感じでしたね。スウィングしようと思っても、ドラムが全然違うパルスでやってるから」

――ピアノ・トリオって、3人で一音ずつ音を噛み合わせながら作るようなところがあるじゃないですか。ドラマーも変化に応じてコンピングしたり、ハーモニーを意識して演奏しなくちゃいけない。でも、柏倉さんの場合はトラックのレイヤーを重ねていくようなイメージで叩いているところもあると思うんですよ。そういうふうに考え方が全然違う感じが演奏にも表れているなか、それでもジャズの流儀で(柏倉のドラムに)合わせにいく坪口さんのピアノがあることで、すごくおもしろいものになっている。

「それは言えてるね。演奏しやすくて、相性のいいジャズ・ミュージシャンの組み合わせだけがいいわけじゃないし」

――そんな“It Must Be Love”は、イントロが“My Favorite Things”みたいですね。

「〈ザンビアの音楽をピアノで最近弾いているんだ〉みたいな世間話を坪口さんがしていて。それがすごく良かったから、イントロで弾いてほしいとお願いしたんです。バラフォンのリズムの感じらしいよ」

『Espoir』でカヴァーされたラビ・シフレの72年作『Crying Laughing Loving Lying』収録曲“It Must Be Love”
 

――そういうアイデアもおもしろい。そして、石若駿はメチャクチャ石若駿でしたね(笑)。意外と石若くんって、録音するときは世間のイメージにあるような演奏をあまりやってないじゃないですか。オーセンティックなプレイが多くて、クリス・デイヴJ・ディラっぽいビートとか、ブレイクビーツだったりはそんなに叩いてないんだけど、このアルバムでは相当攻めている。

「そう言われてみたら、そうかもしれない。でも、石若くんと会うとヒップホップの話をよくしているけどね。アーロン・チューライとかと一緒にヒップホップのセッションもやってるし、話の半分くらいがそうかも」

石若駿とアーロン・チューライの共演ライヴ映像
 

――ビラルの“Soul Sista”はそういう感じですよね。一方で、リアーナ“Diamonds”のカヴァーにおけるリズムはどんなイメージだったんですか?

「アッパーでテンポ感のある曲をやりたくて、ちょっとラテンっぽいというか、クラーヴェっぽいリズムを入れてほしいという話をしたんですよ。そうしたら、石若くんがこのリズム・パターンを叩いてくれて。それで、〈どういう展開でそのパートを入れますか?〉と訊かれたので、曲全体をそれで行ってくれと」

――ループしているのは、意図的に指示したものなんですね。

「そうそう。“It Must Be Love”での柏倉くんのドラムもそうなんだけど、もう全部そのパターンで行ってくれと。ダイナミクスとかは自由に付けていいからって」

『Espoir』でカヴァーされたリアーナの2012年作『Unapologetic』収録曲“Diamonds”
 

――ビラルの曲のバック・ビートは、日本でも最近みんなが採り入れるようになったJ・ディラっぽいビートの最強版という感じ。リアーナの曲のリズムはそれとは違うタイプで、マーカス・ギルモアマーク・コレンバーグにも通じる、もっと現代的なビートになっていてすごくいいですよね。トラップを生演奏でやろうとしているBIGYUKIにも通じる、スカスカな作りがおもしろい。

「原曲のイメージもあったし、この2曲は違うリズムにしたかったので、いい感じになりましたね」

テイラー・マクファーリンとマーカス・ギルモアの共演ライヴ映像

 

自分がステイすれば、みんながグルーヴしてくれる

――では、mabanuaさんはいかがでしょう?

「リズム・パターンを作ってループさせるなら、やっぱりmabanuaくんですよね。そういうことをやるための音色も熟知しているし、センスもずば抜けている。4人のなかでは一番ヒップホップ的。フィジカルなグルーヴも持っているけど、それを出しすぎずにリズム・パターンで行く」

――それに繊細ですよね。だから、レゲエを叩かせたのはいいアイデアだなと。

「(ボブ・マーリーの)“Waiting In Vain”でルーツ・レゲエロックステディのアプローチを入れてもらって、あとは基本的に自由にやってほしいと伝えたら〈大丈夫です〉と言ってくれたので、そのままやってもらったらこうなりましたね」

――とにかく軽く叩いてますよね。小さい音で叩いたのをミックスで大きくしている。

「レゲエのスタイルで体重を入れて叩いたら、よくある普通のレゲエになっちゃうから、軽く叩いてもらったほうが音色やグルーヴもユニークな感じになるんじゃないかなと思って。シンバルの感じとかおもしろいですよね」

mabanuaの2013年のライヴ映像
『Espoir』でカヴァーされたボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの77年作『Exodus』収録曲“Waiting In Vain”
 

――軽く叩くのと、スピードを上げてグルーヴさせるのを両立させるのは大変じゃないですか。上手いドラマーじゃないとできないし。

「だから、mabanuaくんはすごいよね。Kan Sanoくんがそういうムードで弾いていたのも大きかったし。リムショットで行くのか、オープンで行くのか。スナッピーを付けるのか外すのか。いろいろ試しながら、最終的にこの感じになった」

――スナッピーがガサガサしている音が生々しくて、それにピアノと合わせて丁寧にコンピングしている部分もあったり、繊細なドラマーだと改めて思いました。藤井さんはどうでしたか?

「歴史を感じたね。それに平戸くんとの組み合わせが良かったんじゃないかな。平戸くんは弾きやすかったと思う」

――クラブ・ジャズっぽい感じが入ってましたね。SLEEP WALKERっぽいというか。藤井さんはバスドラとタムの太い音が印象的で、アルバム全体のなかで良いアクセントになっている印象です。

「藤井さんって特殊だよね、すごく個性的。同じジャズ・ドラマーでも石若くんとはまったく違うから、そのへんを聴いてもらえたらいいかな」

SLEEP WALKER の2007年作『WORKS』収録曲“Eclipse”
 

――そして最後に、守家さんのベースについても訊いてみたいんですけど、あまり動かないようにしていますよね。余計な動きをせずに。

「そのほうが気持ちいいからね。レゲエだけじゃなくて、アフロビートなんかもそうだけど。個人的にはそういうのが好きだし、弾けば弾くだけどんどんグルーヴしていく音楽がやりたいから。メディテーションじゃないけど、練習しているときもジャム・セッションのときも、いつだってグルーヴしたい。自分のなかで気持ちいい状態を作り上げて、それが周りにも伝わっていく。そういう音楽がやりたいんです。俺がステイして、シンプルにループすればするほど、石若くんもグルーヴするし、坪口さんは動いてくれる。そのほうが、俺がそのスペースでいろいろ喋ってしまうよりも、坪口さんがワイドに広がって、どんどん展開していくんですよ。そういうスタイルがおもしろいと思ってます」

――そこでベースが動いたら、普通のジャズになってしまうかもしれない。

「それもあるね。最初に言った通り、ジャズのピアノ・トリオをやりたいわけじゃないから」

――ジャズと一緒にレゲエも通っている人たちが最近おもしろくて。TAMTAMというバンドがいるんですけど、彼らはDRY & HEAVYに影響されてレゲエを採り入れているけど、最近のジャズやヒップホップ、インディー・ロックも貪欲に吸収している。そういう雑食性の強いサウンドにダブの発想が活かされているから、音像へのこだわりや楽器の聴かせ方がとにかくユニークなんですよね。

「そうなんや。最近は、ジャズでもレゲエの影響が聴こえてくる人が増えたよね。特におもしろいのはマーク・ジュリアナ。めっちゃダビーだし、もちろんブリストルのダンス・ミュージックを通っていたりもするんだろうけど、ダブの発想が上手く入っている」

――マーク・ジュリアナの『My Life Start Now』にはダブ・トリオという、文字通りNYのダブ・バンドでベースを弾いているステュー・ブルックスが参加しているし、一緒にキーボードを弾いているBIGYUKIはレゲエ・シンガーマティスヤフのバンドでも演奏していて。あのアルバムのプロデュースをしているミシェル・ンデゲオチェロも、ダブやレゲエを昔から採り入れていますよね。

「こんなところでダブ・トリオの話をするとは思わなかった(笑)。マーク・ジュリアナのサウンドには完全にダブの影響が入っているということだよね。そういうところから、日本のジャズ・ミュージシャンもみんなダブやレゲエを聴くようになったら、もっとおもしろくなってくるんじゃないかな」

TAMTAMの2016年作『NEWPOESY』収録曲“コーヒーピープル”(インタヴューはこちら
マーク・ジュリアナの2014年作『My Life Start Now』収録曲“My Life Starts Now”のパフォーマンス映像