【10】

80年代後半から活動し、現在もトップクラスの支持を誇るアメリカン・ヒーローのメジャー・デビュー作。当時のロック誌に〈ブルーハーツに似ている〉として紹介されていたのを覚えているが、初めて聴いてもすぐ入ってきて身体のなかを駆け巡る感じは確かにそうかもしれない。この頃にはローティーンだったリル・ウェインが後に“Basket Case”をリメイクするくらいなのだから浸透度も半端じゃないものがあったのだろう。本作の成果を以てパンク=親しみやすいものという認識も広まっていった。 *出嶌

 

【9】

UKレイヴ・カルチャーの申し子だったプロディジーは、この2作目でメタリックな残響音が特徴的な重厚ブレイクビーツや、ギター・サンプリングの導入により攻撃性を手に入れ、ロック・フィールドへの侵攻をも伺わせた。それは後に世界を席巻するビッグビート・ムーヴメント勃興への足がかりへと繋がっていく。そしてその流れは現在、ベース・ミュージックとロックのクロスオーヴァー・スタイルで成功を手にしたチェイス&ステータスやモードステップの手本となり、長きに渡り影響力を保持している。 *青木

 

【8】

小沢健二 LIFE 東芝EMI/ユニバーサル(1994)

直近では終了を控えた「笑っていいとも」へのゲスト出演が話題となり、ある層(筆者含む)での存在の大きさを改めて知らしめた元フリッパーズ・ギターの片割れ。スチャダラパーとの“今夜はブギーバック”など全9曲中7曲がシングル・カットされたこのヒット作は、主にソウルを元ネタにした超陽性のサンプリング・ポップが渋谷系の絶頂期を体現。そのムーヴメントがキーワードとして挙がる昨今の風潮とは別としても、本作を影響源とする日本のポップス作品は続々と世に送り出されている。 *土田

 

【7】

TOWA TEI Future Listening! güt/フォーライフ/コロムビア(1994)

80年代後半からNYヒップホップの創造場に立ち会い、ディー・ライトで一世を風靡した才人のソロ・デビュー・アルバム。ヒップホップの方法論とNYハウスの先鋭性をベースに、当時のテクノロジーをフィルターにしてボサノヴァやサンバもひと繋がりのグルーヴィーな世界で展開した。YMOやデフ・ミックス人脈、アート・リンゼイ、ベベウ・ジルベルトらを引き寄せる求心力と必然性にも目を見張るものがあり、いま聴いてもリッチで粋な完成度の高さは文字通りのフューチャー・リスニング。 *出嶌

 

【6】 

新譜と旧譜を隔てなく楽しむというリスニング作法もいまでは特殊なことではないだろうが、そのフラットさがゆっくり一般化してきたのはこの頃だろう。このタランティーノ監督作のサントラに並ぶのは、いわゆるオールディーズの範疇にあるナンバーからサーフ・ロック、クラシック・ソウルなど、一定のトーンに添ったもの。ディック・デイルの“Misirlou”など、ここで新たな価値を与えられて再定番化した楽曲も多いはずで、趣味人が大衆文化を更新していった時代ならではのコンピレーションと捉えておきたい。 *出嶌

 

【5】

MADONNA Bedtime Stories Maverick/Warner Bros.(1994)

マイケル・ジャクソンが危機に陥り、プリンスが改名騒動を起こしていた頃、同齢の彼女は最前線に悠々と君臨していた。『Erotica』や写真集などのヒップなセクシー路線を経てここで選ばれたのは、ダラス・オースティンを主軸にしたスムースR&B路線。そこからはベイビーフェイス作のクラッシーな“Take A Bow”で久々に全米チャートを制しつつ、ネリー・フーパーやビョークも起用して先端の音壁にも挑んでいるのだから凄い。その両方の流れが20年後のベッドルーム・ストーリーに注がれていくのは言わずもがな。 *出嶌

【4】

オアシスと何かにつけて比較されたバンドによるブリット・ポップの――ひいてはポップ音楽史に残る金字塔のひとつ。ポスト・パンク~ニューウェイヴを通過したシニカルな精神性とひねくれたメロディーという〈英国性〉を大衆音楽化するセンスは、ドンピシャのフォロワーがあまり登場しないほどにオリジナル。今年1月に開催された11年ぶりの来日公演も含め、復活後の大舞台のオープニングは本作と同様“Girls & Boys”であることからも、この作品の重要性と、その輝きは永遠であることが窺える。 *土田

 

【3】

自身のブレイクを不動のものとしたうえ、〈インダストリアル〉をメインストリームへと導いた記念碑的な一枚。ノイズ、ミニマル、冷徹な質感といった要素に解体されるその音楽性は、近年、ロックのみならず、テクノやウィッチ・ハウス、ポスト・パンク精神を受け継いだインディー作品を経由して派生の一途を辿っている。そんな好景気のなか5年ぶりに発表された最新作『Hesitation Marks』では、トレントみずからも本作へ回帰すると共に、ダブステップやクリック・ハウスへのアプローチを試みていた。 *土田

【2】

おきゃんな振る舞いでデビューした3人娘が、次作でいきなりセクシーでクールなトリオへと変貌を遂げた鮮烈さは後にも先にも例を見ない。赤裸々でカジュアルな佇まいが集めた同世代からの支持も絶大だったし、何より90年代R&Bの美点を集約したようなシングル群は、最新のR&B/ヒップホップがポップ・シーンの主流に食い込む先駆けでもあった。2013年にはトレンドセッターとして邁進し続けた彼女たちの功績を称えて伝記映画が公開され、そこで回顧モードな歌詞の新曲“Meant To Be”を発表している。 *池谷

 

【1】

NWAツリーを中心とする西海岸産のヒップホップが表通りで大きな成功を収めていく〈西高東低〉な状況に対して、〈本場〉のNYが総力を挙げて送り出した最高の新人のデビュー作……とされる一枚。ラージ・プロフェッサー、DJプレミア、Q・ティップ、ピート・ロックらがビートを提供した佇まいは、いまならクラシックというより〈スタンダード〉と呼んだほうがしっくりくる。なお、本特集ディスクの数字は特に順位のようなつもりではないが、それでもナンバリングするなら〈1〉が必要になるわけで、とりあえずそこに置くのに良くも悪くも座りが良い作品なんてそうそうないのだ。 *出嶌