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あくまでJ-Popでいたい

――テンポがグッとスロウになると共に、グルーヴが緻密で複雑になったと思いました。

及川「ドラムとベースはいちばん大事ですし、コケると曲が死んでしまうと思っていて。そこは上手くできたんじゃないかと思っています。演奏するメンバーは大変ですけどね」

――遅いグルーヴは難しいですよね。

及川「ヒップホップっぽい曲なんかはルーツの99年のアルバム(『Things Fall Apart』)をかなり参考にしています」

ルーツの99年作『Things Fall Apart』収録曲“You Got Me”
 

城戸「でもBPMに関しては出来上がる直前まで迷ってたよね」

及川「今回に限らず、テンポはいつもめっちゃ悩みますね。BPM92かな、93かな、とか。音楽って、その時のテンションで速く感じたり遅く感じたりすると思うんです。できるだけ、ニュートラルな気分の時に気持ち良く感じるスピードにしようと考えているんですけど」

――それからヒップホップのニュアンスが強くなっているようにも感じました。ラップのパートがある曲も結構ありますし。

及川「それは俺の趣味が落とし込まれましたね。こっち(若林)はラップやりたくない派なんですけど」

若林「僕はメロディーでアルバムを作りたいんですけど、今回はそのメロディーがなかなか生まれなかったので……」

城戸「何も文句が言えず(笑)」

及川「かと言って、ヒップホップの人たちとガシガシ対バンしていくレヴェルのラップではなくて。ストリートをくぐり抜けてきたタイプじゃないですし、生き様をリリックに反映することもできないので」

――スタイルとしてラップを採り入れている感覚ですか。

及川「そうですね。好きだからやってる、くらいの落としどころです」

――“スタイン”はパーティー・ラップ感がありますよね。

及川「もともと最初の部分だけあってライヴのSEとして使っていたんですけど、それを曲にしました。ちょっと希望が見える感じと、前に行こう、一緒に楽しもうというメッセージを込めています」

――ライヴ向けの曲だなと思いました。

及川「それは意識しましたね。サビの部分はお客さんが歌ってくれたらいいなと思って作りましたし。あと、みんなでラップしている感じが好きで。それができたし、そこがパーティー・チューン感に繋がっているんじゃないですかね」

及川創介
 

――“都内”は現行のUSラップ的なフロウですごくテクニカルですよね。バンドでラップを採り入れること自体は珍しくないですけど、こういうアプローチは少ないんじゃないかと思いました。

及川「これは……ケンドリック・ラマーとか、ケイトラナダアンダーソン・パックをフィーチャーした曲(“Glowed Up”)、あのへんのイメージですね。ちょっと変なフロウにしたかったんです」

ケイトラナダの2016年作『99.9%』収録曲“Glowed Up”
 

城戸「これは苦労しましたね。まだラップをやって2年目くらいでホヤホヤな感じですし(笑)。ラップのリリックは(及川)創介が書いているんですけど、最初は難しいし、自分のテクニック的な部分が気になっちゃって。ただ、創介の書くリリックは結構熱くて、ラップしていてアガるんですよね。それが楽しいなと思うようになりました」

及川「ラップはできるだけ熱くしたいという気持ちがあって。SHAKKAZOMBIEとか、ああいう感じがカッコイイなと思っているんです。そのぶん、歌はクールにするというのがCICADAで成り立つバランスなのかなと」

SHAKKAZOMBIEの97年作『HERO THE S.Z.』収録曲“空を取り戻した日”
 

――CICADAのプロダクションはもともとかなりミニマムですけど、今回はさらに音数を削ぎ落とした印象も受けました。

及川「音数は超減らしたんですけど、もっと削りたいと思っているんです。なおかつ、よりポップというのが理想で。音が少ないこととポップなことって、真逆ではなくて実はイコールなんじゃないかと思うんです」

若林「隙間のある音楽が好きだし、シンプル志向なんですよね。ワンコードで通してサビのメロディーがひとつだけ、それで成り立つ曲を作ることが目標ですね」

――ポスト・プロダクションの要素が稀薄で、あくまでバンド・サウンドで成立させているのもアルバムを通して貫かれていることかなと。

及川「“スタイン”の1か所は打ち込みのドラムを混ぜているんですけど、それくらいですかね。ドラムとベースには相当難しいことを要求しているんですけど、そこはがんばってくれと(笑)。そこさえクリアすれば生でイケる。“ゆれる指先”もドラムがすごく大変なんですけど、やってくれた。ラッキーでしたね(笑)」

城戸「“ゆれる指先”は自分で歌詞も書きましたし、すごく好きな曲ですね。いままでのCICADAのベッドルーム感もあるし、ビートの部分で新しいこともできていると思いますし」

――その“ゆれる指先”はトラップ的なビートで、アンニュイな音像はジ・インターネットに通じるものがあるかなと。

及川オッド・フューチャー界隈はかなり聴いていて、そのへんの要素が入っていると思います。ジ・インターネットはライヴではテンションが高めなところも含めて、すごく好きですね」

――この曲に限らず、そういう同時代の音楽からのリファレンスが前作よりもずっと明快に見て取れるように思います。

及川「めっちゃ入ってますね。“INFLUX”にしてもそうなんですけど、トラップっぽいビートをバンドでやりたいという気持ちがあったんです。そういう音にメロウな要素とか、歌謡曲的なメロディーを入れるという」

――トラップを採り入れた結果、テンポが下がったのかもしれないですね。ただトラップみたいにドーンと低音を出したりはしていない。

及川「トラップを継承したいわけではなくて、やっぱり、あくまでJ-Popでいたいんですよね。その枠組みにああいうビートを持ち込みたい」

――そういうバランスとか匙加減がCICADAにとって重要なんですかね。

及川「やろうと思えば、低音全開のクラブ的な曲が出来るかもしれないですけど、そこで城戸ちゃんに歌ってもらうのも違うと思うし。そういうところでいまのバランスがいいんじゃないかと思うんです」

――トラップ調ではあっても、ラジオから流れてきたら普通にポップスとして耳に入ってくると思うんですよね。そこがCICADAの個性になっている。

及川「ああいうビート感って、普段からラップを聴いていたり、クラブに行く人じゃないとパッと入れないと思うんですよ」

若林「ビートを倍で取れない」

及川「そうだよね。倍で踊れないと、単に遅い曲に感じるんじゃないかな。それでもCICADAの曲は、メロディーの部分で新鮮に聴いてくれるんじゃないかと思うんです。そこがポップソングの側でいたい理由なんですかね」

――完成してみて、いまこの作品はどのように見えてますか?

若林「途中でいろいろ迷ったりもしたんですけど、最終的にすごく良いものが出来たかなと」

及川「少なくともメジャー・シーンにはない作品になったと思うので、このタイミングで出せて良かったし、満足しています。あと、クラブ・シーンとバンド・シーンはまだ乖離していると思っていて、CICADAはそこを繋げられるかなと思いました」

城戸「これまででいちばん良いものが出来たし、自分では名盤だなと思っています。作っている間、CICADAらしさってなんだろうねという話をずっとしていたんですけど、結果、CICADAにしかできないものになったと思うし」

――そうですね。らしさがあり、新しさもあり、あと単純に良い曲が詰まったアルバムだなと。

及川「自信はあるんですけど、挑戦的な作品になったと思うので、どう受け入れられるのか怖いところはあるんです。11月25日のワンマン・ライヴ(東京・渋谷WWW Xで開催)に、アルバムを聴いてきてくれた人たちが集まって、楽しんでくれたら、やってやったぜ!と思えるんでしょうね」

 


~CICADA 2nd Full AL”formula” release one man show~

11月25日(金)@東京・WWW X
18:30 open/19:30 start
前売 3,000円/当日 3,500円

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