イアン・ハンターのロックンロール道に終わりなし!

〈もっと高く評価されるべきUKのロック・バンドTOP10〉なんてものがあったなら、モット・ザ・フープルは必ずチャートインするに違いない。70年代に活躍した彼らは商業的に成功しないまま分裂するも、グラム・ロックとパンクを繋ぐ役割を果たした重要グループのひとつだ。そのフロントマンで、解散後はソロ活動を続けてきたイアン・ハンターから、4年ぶりのニュー・アルバム『Fingers Crossed』が到着した。共同プロデュースを手掛けたのはジョン・メレンキャンプのコラボレーターとしても知られるアンディ・ヨークで、バッキングは15年間イアンと活動を共にしているラント・バンド。どちらもイアンにとって気の置けない仲間である。

 「アンディとは2001年に出会ったんだ。ギグを観て彼のギター・プレイと歌声が気に入った。当時、彼はジョン・メレンキャンプとツアーを回っていたので、〈終わったらいっしょにやらないか?〉と声をかけたよ。ラント・バンドとは長い間いっしょに演奏してきて、いまでは俺のバンドというより、俺もメンバーのひとりみたいな感じだね」。

IAN HUNTER & THE RANT BAND Fingers Crossed JJM/リスペクト(2016)

 収録曲のなかでまず注目したいのが、デヴィッド・ボウイに捧げた“Dandy”だ。ボウイはモット・ザ・フープルの72年作『All The Young Dudes』(邦題は〈すべての若き野郎ども〉)をプロデュース。彼が提供したタイトル・トラックはバンドの代表曲となった。そんな古い友人に、イアンはメロウなバラード“Dandy”を通じて感謝と別れを告げている。

 「“Dandy”は訃報を聞いてすぐに書いたよ。〈ジギー・スターダスト〉のコンサートへ行くファンの気持ちになってね。設定は72年、ちょうど俺たちが出会った頃さ。彼が曲を提供してくれたおかげで、モット・ザ・フープルは大きく変わった。当時、俺たちはスタジオのことを何もわかっていなかったから、デヴィッドの存在が本当に心強かったよ」。

 また、灼けつくほどブルージーな“Ghost”は、サン・スタジオでのセッションから生まれた曲。現在USに住むイアンは、ずっとかの地の音楽に憧れてきたと言う。

 「知り合いに招待され、バンドのみんなで行ったんだ。スタジオに入ると楽器が置いてあってね。ジェリー・リー・ルイスのピアノもあった。バンドのメンバーが思わずそれを手に取り、自然とジャム・セッションが始まったのさ。演奏している時に、この部屋には昔のミュージシャンのゴーストがいると感じた。とても不思議な気分だったよ。ホテルに帰ってメンバーに話したら、みんな同じことを考えていたと言ってたな」。

 アメリカン・ロックの魅力について「ワイルドなところが好き。昔は俺もワイルドだったよ」と語ってくれたイアン。続けて、「俺たちはビジネス的なものが大嫌いだった。アナーキーでクレイジーだったんだ。そんなわけで金はなかったね。でも、多くのファンがついてきてくれて、コンサートのチケットはソールドアウトだったよ」とモット時代を振り返っている。それから半世紀近くの時を経てお目見えした今回の『Fingers Crossed』には、ブリティッシュ・ロックのポップさとアメリカン・ロックのワイルドさを熟成させた、燻し銀のロックンロールがギッシリ。最後に、77歳になったいまもロックンロールを歌い続けられる秘訣を訊ねてみた。

 「情熱を持ち続けているからかな。〈前作より良いアルバムを作りたい〉〈もっと巧くなりたい〉というモチヴェーションが情熱に繋がるのかもしれない。頭で考えているだけでは何も生み出せないからね。思ったら行動に移すんだ。あと大事なのは良いバンドがいるってこと。ラント・バンドはギャングみたいな連中でさ、彼らのおかげで情熱を失わずにいられるんだ」。

 ロックを愛するすべての野郎どもに捧げるレジェンドからの贈り物、それが『Fingers Crossed』だ。