僕らのなかでは、まだ何もやっていない

――アルバム全体を構築するうえで意識したことはありますか?

池貝「アルバム全体というよりも、1曲1曲の展開を飽きさせないように考えたという感じですね」

杉本「やっぱり曲単位という考え方のほうが大きかったと思います」

――どういうアルバムにしたいか、青写真みたいなものはあった?

篠田「そういうのはないですね。まずはファースト・アルバムなので、なんというか……自分たちの輪郭を掴むための作業というか」

池貝「それこそ、(結成してから)まだあんまり時間が経っていないので、この1年間を通していろんなことが浮かび上がってきたんですよね。そういうなかで、もっとも重きを置いてきたのは曲作りとトラックメイキングなので。この3人でプロセスを踏みながら、自分たちの曲の質感やテーマ性を輪郭付けてきたよね。それが(アルバムに)自然に出てきた」

篠田「1曲作るごとに〈yahyel像〉みたいなものが見えてきて、それが次の曲を作るときにもフィードバックされて……そうやって1年間積み立てて」

――それが〈冷たい怒り〉に行き着いたと。

篠田「そうそう、爽やかで享楽的なものは作ったりせず(笑)」

杉本「冷たい音のなかに、激しい怒りがあって」

篠田「それがアルバムのタイトルにも繋がっているという」

――『Flesh and Blood』は〈肉体と血〉という意味なのに、実際に鳴っている音は凍えるように冷たくて、血が通っているようには微塵も思えない。これはまた……大変な世界観ですね(笑)。

一同「ハハハハハ(笑)」

――あと今回のアルバムでもう一つ驚いたのは、音がメチャクチャいいこと。普段からビート・ミュージックやインディーR&Bみたいな音楽を聴き込んでいる人ほど驚きそうな解像度の高さですよね。

杉本「いやー、もうマット(・コルトン)がすごすぎて」

※ジェイムズ・ブレイクやFKAツイッグスフォー・テットアルカなどを手掛けてきたマスタリング・エンジニア

池貝「でも、ミックスもかなり時間を掛けたよね」

篠田牧田慎という、yahyel第6のメンバーとも言える人物がいるんですよ。彼はもともと現代音楽の作曲家で、ポピュラー音楽は詳しくないんですけど、とにかく音のスペシャリストなんですよ。その彼がアウトサイダーとして加わって、僕らと一緒に十数時間もスタジオに籠ってミックスしてくれたんです。あそこで基礎を整えたから、マットのマスタリングもすごく活きた気がします」

――マット・コルトンといえば錚々たる経歴の持ち主ですけど、彼にマスタリングを依頼するにあたって、〈あのアルバムのあの音が良かった〉みたいな感じで念頭に置いていた作品はありました?

池貝「ちょうどあのとき、フルームの新しいアルバム(『Skin』)が出たんだよね。1曲目から音がすごくてさ」

杉本「音圧があるのに立体的に聴こえるじゃないですか。あれってなかなかできないですよ」

篠田「あんなパンパンなのにね」

マット・コルトンが携わったフルームの2016年作『Skin』収録曲“Never Be Like You”
 

――あとyahyelのライヴで驚いたのは、ドラマーの大井一彌さん。彼はもともとDATSのメンバーなんですよね。

杉本「僕の近くにいる人間のなかで、yahyelの音楽を表現できるのはカズヤしかいないと思って。だから声を掛けたんですけど、改めて考えてみると彼しかいなかったなと」

――ここ数年はいろんなジャンルで、人力でビート・ミュージックを叩くというのがトレンドになっていますよね。それをごく自然にやっている点も含めて、現代における理想的なドラマーだなと。

篠田「間違いないですね」

杉本「おっしゃる通りで、パッドを使って人力で電子音を出すのがナチュラルなトレンドになっている時代だし、自分たちも最初はドラム抜きでやってみたけどしっくりこなかったので、ドラムを入れたかったんですよね。DATSでもパッドを使って叩いていたし、対応できるんじゃないかなって。そうしたら案の定、上手くいって」

大井一彌が参加した(MVにも出演)ニカホヨシオの2016年のEP『SUR LA TERRE SANS LA LUNE』収録曲“亡霊たちの楽園”
 

――VJ担当がメンバーとして参加しているのもおもしろいなと。その山田健人さんが、yahyelのビデオも作っているんですよね。

篠田「彼もやっぱり、元から友人だったんですよね」

杉本「そう、やっぱり近いところにいて。DATSのVJもたまにやってもらったりしていたので、一回やってみてよと誘ってみたら、本人も自分のやりたい作風とフィットしていたのを感じたみたいで。僕らのほうも、彼の作り上げる映像の世界観に手応えを感じたというのはありますね」

 

――バンドとして、今後はどんなふうになりたいですか?

池貝「こういうのは結果がすべてじゃないですか。僕らのなかでは、まだ何もやっていないという感覚ですね。どこの国であろうと、どんなサイズであろうと音楽はできる。だからこそ、それをどう捉えられるかが問題で。日常生活のなかで、人と話すくらいの感覚で溶け込みたいんですよね」

――なるほど。

池貝「海外へ行ったときに、〈日本から来たアーティスト〉というギミックではなく、普段から聴いている音楽としてライヴに足を運んでもらいたい。〈(観たのが)たまたま日本人だった〉というのが僕らにとってベストの形なんですよね。〈グラストンベリー〉に出演するとか、〈BBC Radio 1〉で演奏するとか、ほかにもいろんな基準があると思いますけど、僕らのコンヴァージョンはそこにある。生活に溶け込んで、自分たちの音楽が認められて、意味のある存在になるというのがひとつの目標なので。それを成し遂げたときに、初めて達成感が得られるのかなと」

篠田「そのために細かくステップを踏んで、今後はコラボレーションなどもいろいろできたらと思っています」

 


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