新たな試みのなかには、結成から10年以上を経てまさかの爆弾も。一切の無駄を排した幾何学模様のグルーヴが世界を揺らす!

 2013年に10周年を記念したライヴを行って一区切りしたものの、その後も歩みを止めることなく、日本はもちろん、アメリカ、ヨーロッパ、初上陸となった中国を含むアジアと、国内外でツアーを続けてきたLITEが、約3年半ぶりとなる5枚目のフル・アルバム『Cubic』を完成させた。

LITE Cubic I Want The Moon(2016)

 「今回アルバムのテーマとして、〈曲をバンドに落とし込みたい〉っていうのがあったので、前作の『Installation』を出した後にすぐまた合宿をして、そこで“Balloon”を作ってるんです。それをライヴでどんどんブラッシュアップして、個々の演奏をアレンジに反映させたいと思ったので、その曲をもってツアーに出たって感じですね。もっとライヴのカタルシスをお客さんと共有したくて、〈骨格〉だけで勝負したいと思ったので、シンセは自然と少なくなっていきました」(武田信幸、ギター:以下同)。

 アルバムの方向性を決定付けたのは、オープニングを飾る“Else”。ミッドテンポのファンキーな曲調が新鮮で、これまで同様に変拍子やポリリズムの要素は活かしつつ、音数がより削ぎ落とされた楽曲は、近年の〈ブラック・ミュージック×ロック/ポップ〉の潮流とリンクするものである。

 「“Else”を作ってた頃にディアンジェロのアルバムが出て、〈こういうのおもしろいな〉って思って、ブラックな匂いのするミッドテンポの曲を作りたいっていうのが何となくあったんです。デモのときは歌を乗っけてみたりもしたんですけど、それも歌っていうよりラップ寄りな、あまり音階のない感じのもので、ヒップホップのトラックみたいなイメージだったかなって」。

 一方、ベースとドラムのデモから作られたという“Warp”は、テクノ好きの山本晃紀(ドラムス)の趣向が反映された、ビート・ミュージック的な側面を持つ一曲。しかも、武田自身が作詞した日本語詞で、初めてヴォーカルを披露している。

 「The fin.D.A.N.yahyelとか、最近日本の新しいバンドがおもしろいなって思ってて、彼らがやってることはすごくキャッチーだし、日本人的な解釈だなって思うんですよね。それにすごくインスパイアされて、僕らも〈日本〉っていう部分をもうちょっと押し出してもいいんじゃないかと思って、日本語の歌詞を書いてみました。LITEが〈日本語のポスト・ロック〉をやって、海外でどう受け止められるかは自分たちにとっても興味深いですね。〈この爆弾でどんなことが起こるんだろう〉みたいな(笑)」。

 SOIL &“PIMP”SESSIONSからタブゾンビを迎え、トランペットの郷愁感のあるメロディーで日本的な情緒を滲ませた“D”、元ZTHERE IS A LIGHT THAT NEVER GOES OUTの根本潤によるフリーキーなヴォーカルをフィーチャーしたポスト・パンク・ナンバー“Zero”など、ゲストを迎えての新たな試みにもトライした本作は、10周年を経てバンドの原点を改めて見つめ直しつつ、さらなる一歩を踏み出した作品だと言える。

 「自分たちのなかでは〈原点回帰〉みたいな部分もあって、より音数を絞って、初期の頃にやりたかった感じに立ち返ると、やっぱりマス的な、幾何学的なイメージが出てきたんですよね。〈無駄がなくて、タイトで〉みたいな自分たちらしさっていうのは、54-71みたいなバンドが原点にあって、そこに戻りつつ、これまでの活動で得たものを肉付けしていったような感じだったのかなって」。

 今作でミックスを担当し、アルバム・タイトル通りの立体的な音像を作り上げたのは、バトルスの全作を手掛けるキース・ソウザ。結成当初に〈自分たちがやりたかったことをもうやってるバンドがいた〉と衝撃を受けたのがバトルスであり、ここからも〈一周回ったうえでの現在地〉が感じられる。世界基準の楽曲を、あくまで〈日本のバンド〉として鳴らしはじめたLITEは、これからよりボーダレスな活動を続けてくれるに違いない。

 


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ここではLITEの作品を一部紹介します。2005年に初のリリース作品『LITE』を送り出した彼らは、翌年にファースト・アルバム『filmlets』(NMNL)を発表。ストイック&ミニマルなアンサンブルで強力なグルーヴを生むバンドの特性は、この時点ではっきりと確認できます。そして、2007年にはそこから長い付き合いとなるマイク・ワットのユニット=フナノリとのスプリット盤『A Tiny Twofer』(DAIZAWA)をリリースすると、翌年にはエンジニアにtoe美濃隆章を迎えた2作目『Phantasia』(同)を完成。2009年はEPとミニ・アルバムを発表し、2011年にはその成果を反映させた3作目『For all the innocence』(I Want The Moon)をリリースします。三浦カオルと組んだこの作品は、色鮮やかなシンセとテクノやアフロビートなどのダンス的な要素を取り入れ、華やかで開放的な一枚に。また、EPを挿んでの2013年作『Installation』(同)では前作の路線も残しつつ、サンプラーを排して実演のみへ回帰し、改めてバンド感を押し出しました。

ほか、2014年はBACK DROP BOMBのトリビュート盤『The Broccasion -music inspired by BACK DROP BOMB-』(cutting edge)へ“REMIND ME”のカヴァーで参加。2015年は3枚目のライヴDVD「Past 7days」(I Want The Moon)を発表しています。 *bounce編集部