フィンランド発 驚異のテクニックと都会的なセンスを併せ持つヴォーカル・グループ

 アルバムの幕を開けるのは、シベリウスの楽曲を思わせるような透明感を持った《Alku-始まり》。冬の朝のようにピーンと張り詰めた冷たい空気を、メランコリックなハーモニーが徐々に溶かしていくような曲想が印象的だ。続いてエスニックなメロディをヒューマン・ビートボックスが静かにグルーヴさせていく《Kohma-霜》へ。そして《Loimu-炎》で変幻自在のヴォーカルとリズムが一気に炸裂する。その後も民族音楽的な旋律や独特の変拍子をポップに昇華させた巧みなアレンジで全8曲を一気に聴かせる。フィンランド語の不思議な響きも魅力的だ。

TUULETAR 火を起こして土を踏みしめ、水を浴びて空気を吸い込む プランクトン(2016)

 自然や人間の力を超越した力への畏敬、生きることを切実に願う祈り、そして己の肉体で表現することから生まれる艶。フィンランドのヴォーカル・グループ、トゥーレタルのデビュー・アルバムには“歌う”という音楽の原始的な行為が持つエネルギーが、ギュッと凝縮されている。しかも、パーフェクトな技術と現代的なセンスを伴って。

 デンマーク・コペンハーゲンのロイヤル・アカデミーで出会った4人の才女が2012年に結成したトゥーレタル。グループ名はフィンランドの神話に登場する風の女神の名前からとった。活動の当初はフィンランドの伝承歌カンテレタルをベースにした歌を歌っていたが、次第に自分たちのスタイルを型にはめることをやめ、さまざまな国の伝統音楽からヒップホップまで、興味を抱いた音楽ならなんでも貪欲に取り入れてオリジナル曲を作るようになったという。そうしてフィンランドの伝統音楽(フォーク)に影響を受けつつも、ビートボックスによる都会的なグルーヴ(ホップ)を駆使して上質なポップ・ミュージックとしてアウトプットする“ヴォーカル・フォーク・ホップ”と本人たちが呼ぶスタイルが出来上がった。また、アルバムのタイトルからも察せられるが、4人のメンバーはそれぞれの存在や彼女たちの音楽を構成する要素を波と炎、大地と風に例えていて、それは古代ギリシャの四元素の考え方や東洋の五行思想を連想させて興味深い。

 さて、トゥーレタルはこの12月に早くも初来日を果たす。YouTube等にアップされているステージパフォーマンスを観ると、ダンスや身体表現などの演出にもかなり力を入れていて、エンターテインメント性の高いパフォーマンスが繰り広げられている。そして何より本人たちがとても楽しそうで、いやがうえにも公演への期待は高まる。

 ヴァルティナをはじめ、日本でもフィンランドや北欧のコーラス・グループは高い人気を誇るが、トゥーレタルも今後その一翼を担うことになりそうだ。

 


LIVE INFO

クリスマスコンサート:Roppongi Hills Artelligent Christmas 2016/六本木ヒルズ アーテリジェントクリスマス
○12/23(金・祝)~25(日)
会場:六本木ヒルズアリーナ
出演:トゥーレタル ほか
www.roppongihills.com