石井モタコ(オシリペンペンズ)、森雄大(neco眠る)

 

こんがりおんがくは、森雄大neco眠る)、石井モタコオシリペンペンズ手ノ内嫁蔵)、DODDODOの3人が2010年に設立した大阪拠点の自主レーベルである。その立ち上げから、早6年余り。いわゆる〈関西ゼロ世代〉の登場からも、早15年余りを経過した2016年の暮れ、いま大阪はどうなっているのか。シーンはあるのか、いやないのか。ここ1、2年の動きを伝えるものは、とりわけ目にする機会が少ないように思う。

ここ数年の大阪の動きを整理すべく、こんがりおんがくが最近リリースをしたミュージシャンの音楽性や立ち位置、バックボーンについて森雄大と今秋に東京へと移住した石井モタコにざっくばらんに語ってもらった。大阪から遠く離れた世田谷のモタコ新居で行われたこんがり談義から見える、大阪特有の近さ・狭さ、重複する人間関係から繋がるルーキーやオールド・ルーキー……。各キーワードを結べば、現在の〈大阪シーン〉が薄暮の星座のように、うっすらと浮かび上がってくる(かもしれない)。 *山崎なし

 

チッツ
永遠のルーキー感

ひっしー(ヴォーカル)、(ギター)、肉棒(ベース)、 TAKUTO(ドラム)の4人が2002年に結成。2012年にこんがりおんがくより初作『おはよう』をリリースし、プリミティヴなディスコ・ビートの上で、うだつのあがらない日々の哀しみや青臭い反骨精神をソウルフルに歌い上げ、多くのバンドマンやリスナーから熱狂的な支持を得た。2016年11月にセカンド・アルバム『出番のないひと』を発表。

チッツ 出番のないひと こんがりおんがく(2016)

『出番のないひと』収録曲“出番のないひと”
 

森雄大チッツとneco眠るは同期で、来年15周年です」

石井モタコ「チッツを知ったんは10年くらい前かな? なんか自転車を漕いでたら並走してくるおもしろい顔した奴がおって。〈モタコさーん!  チッツと言います。音源聴いてくださいー!!〉と走りながらCDを渡されたんやけど、そいつがチッツの肉棒やった。そのまま別れたんやけど、もらったCDは良くて、そっから対バンも増えてきたんかな」

――チッツって来年15周年という感じがしないというか……。

「永遠のルーキー感(笑)」

モタコ「音源を出したんも遅かったよな?」

「遅かった。ファースト・アルバムの『おはよう』を出したのが2012年。こんがりやる前から、〈チッツは音源作らへんの?〉とずっと尋ねてたけど、作る気配が全然なかったから、もうこれ、わしらがやるしかないんちゃうかとなって。DODDODOもモタコくんもチッツのことは大好きやから、チッツに〈こんがりで出さへん?〉と言ったら〈ぜひ〉と」

『おはよう』収録曲“メタルディスコ”
 

モタコ「こんがりがneco眠る、DODDODO、ペンペンズ以外で最初に出したんはチッツになんねんな」

「最初は自分たち3組以外のことをやるつもりは全然なかったんやけど、上手くやれない奴らが周りにいると、〈おい! 作れよ!〉となり……」

モタコ「そこはどういう決断があんの? 酔った勢いで〈よっしゃおれが出したる!〉みたいな?」

「酔った勢いはあるっちゃあるけど、やっぱり好きやからですね。だからこそ、なんとかしたくなるという。チッツは人にも厳しいんですけど、自分にも厳しすぎて自家中毒になりがちで(笑)。外から誰かが言わないと永遠に始まらない。正直、自分がやらなアカンと思いました」

――最新作『出番のないひと』はどう思われました?

「音楽として良いのはモチロンなんですけど、チッツのイメージである童貞臭い感じとか、なんだか上手くいかない感じなんかは、めちゃ適当にわかりやすく言ったら銀杏BOYZ以降の流れにはあると思うんです。そこは前作から大きくは変わってへん。メンバーは結婚したり子供もいたり、世間的に言ったら上手くいってる奴らばっかやのに、バンドとしてやってることはまったく変わらんという(笑)。音楽的なクォリティーは上がっているにもかかわらず、その変わらなさが良い」

モタコ「あんなに生活をしっかりしりつつバンドをやってる人も珍しい」

 

And Summer Club
90年代のオルタナ感を持ちつつ、懐古ではなく〈いま〉の音

2013年に結成された、大阪を拠点に活動する4人組。これまでに生き埋めレコーズSECOND ROYALなどからのリリースを経て、2016年7月にこんがりおんがくよりファースト・アルバム『HEAVY HAWAII PUNK』を発表。ソニック・サーフ・シティを彷彿とさせる陽性のサーフ・パンク・サウンドが現代のローファイ・ポップ・マナーでアップデートされており、HomecomingsシャムキャッツNOT WONKなど全国各地のバンドからラヴコールを受けている。

And Summer Club HEAVY HAWAII PUNK こんがりおんがく(2016)

『HEAVY HAWAII PUNK』収録曲“Surfer Girl/Goodbye Witches”
 

「心斎橋のスタジオパズルへneco眠るの練習に行ったときにレコーディングしてた若い子たちがおって、パズルの赤松さん(akamar22!)に〈さっきのあの子らはneco眠るのファンらしいで〉と言われて。そんなん言われたらやっぱ気になるというか(笑)。そのあとCASIOトルコ温泉と対バンするというので観に行ったら、めちゃ良くて。で、角田(健輔/ヴォーカル)くんが話しかけてくれて……」

モタコ「そこで森くんは〈お前、neco眠るのこと好きらしいな?〉と」

「いやいや(笑)。そんなん知らない体で。〈明日、大学でneco眠るのコピー・バンドをやるんです〉と言われて〈マジか〉って(笑)」

――ハハハ(笑)。

「家がすごい近所やったし、そこで連絡先も交換して。その後、白い汽笛小倉(向)くんと呑んでるときに、角田くんを呼び出してからは呑み友達みたいな」

※森の旧友たちによるフォーク・バンドで、2013年にこんがりおんがくより初作『私たちの街』をリリース。2016年の6月に活動休止を発表した。

――パズルで見かける、住んでいるところが近い、知り合いと対バンしているとか、その狭さ・近さみたいな繋がり方はすごく大阪っぽいなと思います。

「その時期、角田くんは味園のバーで働いていたんです。以前はモタコくんもマンティコアにおったし」

赤犬のメンバー、リシュウ氏が味園ビルの2Fで経営しているバー

モタコ「店で会ったり、遊びに来てくれたりしてたんかな。でも森くんと彼らは10歳以上離れてるわけやん。それで慕われているというかさ……一緒に呑んでいるとか、羨ましい……」

「ハハハ(笑)。彼らはSECOND ROYALのバンドとも仲良いし、元・銀杏BOYZの安孫子(真哉)さんがやっているKiliKiliVilla周辺とも近いので、そういうとこから音源を出すんやろうなと思ってた。だから、若くて良いバンドが大阪にいるというのが、(僕には)ただただ嬉しくて。その後、SECOND ROYALから7インチを出すときに僕が録音をやらせてもらったことで、より仲良くなれた。で、あるとき一緒に呑んでいたら〈こんがりおんがくからアルバム出したいんです〉と告白されて……もちろんめちゃ嬉しかったから、モタコくんとDODDODOにも訊いて……」

モタコ「うん、めっちゃ格好良かったし、〈うちらで良いの?〉みたいな……」

「ほんで、あとは酒の勢いを借りて〈よっしゃ、もう出そう!〉と(笑)」

モタコ「目に浮かぶ。ほんで森くんは、そう言うたからには録音からレコ発まで全部面倒見るから凄いなと思う。別にお金になっているわけじゃないしさ。俺らはお金ないし……。好きだからやるというのが、森くんは普通じゃないな。おれは横で〈ヨイショー!〉とか言うてるだけやからさ(笑)」

「やっぱ好きやと思ってる人から好きって言われたら……もうそれは!という」

『HEAVY HAWAII PUNK』収録曲“Into The White”
 

――そもそもこんがりおんがく自体、3人がお互いに好き同士で自分たちのことをやるために始めたレーベルだから、その輪が広がっているだけとも言えますね。

「でも正直、若い子と知り合って、嬉しがっているオッサンという面もあるけどね(笑)」

王舟の2016年作『PICTURE』収録曲“あいがあって”。このミュージック・ビデオは大阪・本町の食堂/イヴェント・スペース、HOPKENで撮影され、森やAnd Summer Club、白い汽笛、CASIOトルコ温泉のメンバーなど、こんがりおんがくの面々が多数出演している
 

――ハハハ(笑)。

「And Summer Clubの世代の音楽って、90年代のオルタナ感とか自分が中学/高校生のときに聴いてた音楽のムードもあるから、その懐かしさもあって自分にはしっくりきた。でも懐古ではなくちゃんといまの音。NOT WONKCAR10THE FULL TEENZとか、各地で若いインディー・ロックやパンクが注目を集めている良い流れにAnd Summer Clubもリンクしている。さらにGEZANのレーベル、十三月の甲虫などHOKAGE(大阪・心斎橋のライヴハウス)周辺のシーンともしっかり繋がっていて」

――CAR10は栃木の足利、NOT WONKは北海道の苫小牧を拠点に活動していますね。モタコさんのなかで、大阪の下の世代でこれは!という人はいますか?

モタコ「ライヴハウスに行くと〈これは今年いちばん良い!〉とかよく思うし、本人たちにもその場で伝えるんやけど、なにぶんお酒呑んでるから覚えてない……」

 

CASIOトルコ温泉
久しぶりに登場した〈ザ・大阪〉感のあるニューカマー

2009年から大阪を拠点に活動している、PKNYMTGChiyajiの3人組。 奔放なサンプリン・センスとチープなビートを混ぜ合わせ、モンドでアヴァンなシンセ・ポップを鳴らしている。まだ正式な音源発表はないものの、2015年の11月に大阪・味園ユニバースで行われた、森雄大・企画のライヴ・イヴェント〈SPICE!〉に出演。2017年にはこんがりおんがくからファースト・アルバムのリリースを予定している 。

2013年のライヴ映像
 

 「一時は正直あんまり大阪のことを気にしてなくて、neco眠るの活動は外に向いていたし、とにかくペンペンズとDODDODOをちゃんと出さなと思ってたんやけど、たまたま(梅田)HARDRAINに遊びに行ったときに出てたんがCASIOトルコ温泉やって。そのライヴがすごく良くて、こういうおもしろい人たちがおるんやなと思った。僕にとっては、また大阪に向き合うきっかけになった存在というか」

 モタコ「CASIOの面々はほかにもバンドをやってるんやんね」

「そうそう、CASIOとほとんどメンバーが同じLOVELY SNOOOPY LOVEというバンドとか。さいりちゃん(PKNY)はEMERALD FOURという打ち込みのユニットもやっていて、それもむちゃカッコイイ。最近はneco眠るのサポート・キーボードもやってもらっています。MTGこともてやんはneco眠るのBIOMANと〈千紗子と純太〉というユニットでも活動していて、2017年の1月20日にこんがりで12インチ・シングル“夢の海”をリリースします」

モタコ「CASIOはいきなり現れた!って感じしたけどね。彼女たちのほかのバンドも知っていたけど、CASIOのライヴを観たらすげえおもしろかった。これはいまのうちに唾つけとかなって……」

「フフフ(笑)。ホンマに久しぶりに僕の思い描く〈ザ・大阪〉感を持ったおもしろいのが出てきたというか」

――森さんの言う〈ザ・大阪〉感というのは?

「〈MIDI_sai〉やオシリペンペンズ、ZUINOSINあふりらんぽ……もうちょっと年上の人たちなら一番★狂BUSH OF GHOSTSALTZさんなど、僕が音楽をやりはじめたときに憧れて観に行っていたカッコイイ人たちに通じる匂いというか。2000年代初頭の無茶苦茶やけどポップさがある音楽のイメージやな」

※ブレイクコアのアーティスト、KA4Uが主催するクラブ・イヴェント

ZUINOSINの2005年のライヴ映像
 

――その流れの先にCASIOはいると。

「うん、いると思う。〈自分らむちゃくちゃやな……でも最高!〉みたいな」

モタコ「CASIOのライヴを観たときに、やべえぞ! このバンドの好き勝手さは!と思った。あってほしいけどなかったバンドやね。女性のバンドというだけで比べたらあかんけど、あふりらんぽとも全然違うし。新しいのおるなと。だからホンマに〈ザ・大阪〉なんかな。自分たちがおもしろがってやっていて、そこに周りも巻き込んで、おもしろくさせていくというのが」

2014年のライヴ映像
 

「あと、大阪のおもろいやろってイヴェントにはだいたいCASIO(のメンバーたち)は客で来てる。そこもまた良い。CASIOはゆっくーり時間をかけて仲良くなったかな。And Summer Clubは出会って一年以内にCDを出してるし早かった」

モタコ「だから、やっぱり……森くんはすごく好かれていると思うねん。昔はさいりちゃんとか俺に相談しに来てたのになんか最近そういうんなくてさ……」

「マジすか(笑)。緊張するところもあるんじゃないですか」

モタコ「いや、言い訳は聞かん! ちゃんと愛して」