窓の外に広がる、桑原あいの新しい世界

 9月の東京ジャズで、東京国際フォーラムのホールAに出演。また、11月には単独で、4カ所の米国ツアーも敢行。桑原あいにとっては、2013年はこれまでになく大きな出来事が重なった年となった。

 「今22歳なんですけど、これまで生きてきたなかで一番大きな1年でした。まず、東京ジャズに出た事。東京ジャズに憧れていましたし、国際フォーラム自体にも憧れていた。10歳のときから、そのホールAでやりたいと思っていたんです。そこに立てることを早すぎるとも思いましたが、立った後はまたここに戻ってこなきゃいけない。夢が叶ったのではなく、これからも続いていくんだ、と思いました」

 「米国ツアーはとっても盛り上がりましたね。お客さんから受けたエネルギーで、また僕たちのテンションがまた上がってしまった」とは、当初からずっとベーシストとして桑原の表現に関わっている、取材に同席した森田悠介のコメントだ。

 そんな、彼女たちの3作目となる新作は『the Window』と名付けられた。“窓”というテーマは前作『THE SIX SENCE』を録り終えた後、桑原のなかに自然にそのイメージが浮かんだという。

 「前作は“第六感”ということで、内向的な部分を求めたと思います。それをふまえて、今回はもっと外の世界を見てみたい、もっとやりたい事や知りたい事がある、というのを出したかったんです」

ai kuwabara trio project 『the Window』 ewe(2014)

 例によって、収録曲はすべて桑原あいによるもの。彼女は曲を書き溜めずに衝動で書くタイプで、今収録曲もすべてテーマが決まった後に作られた。

 「やりたいことが多すぎるんです。だから、頭の中で考えて行く一方、どんどん捨てていきます。でも、その捨てる作業がもったいないと思ってしまって、昔はできなかった。捨てる事によって出てくる新しい事も沢山あるし、捨てる事でフォーカスが当てはまる事もあるのを、去年現場ですごく学びました」

 ピアノと電気ベースとドラムが自在に絡む、様々な発展や表情を持つ楽曲が並ぶ。なかには、かなり丁々発止し合う曲もあり、今作は攻めているという感想を引き出すものになっているか。そんな今作、前作におけるトリオの顔ぶれで録音する曲とともに、桑原と森田と1992年生まれの大学生ドラマーである石若駿という3人で演奏する曲も収められている。

 「異なる顔ぶれで出来るように、トリオではなく、トリオ・プロジェクトと名乗っているんです。メンバーを固定してしまうと、音楽重視ではなく、メンバー重視になってしまう。私は自分の中に生まれる概念や作品を大切にしたいと思っています」