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ボノボが紡ぐ、国やカテゴリーを超えたその先―ライら多国籍なゲスト迎えた、音楽的野心と冒険心に富んだ意欲作『Migration』

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  • 2017.01.10
ボノボが紡ぐ、国やカテゴリーを超えたその先―ライら多国籍なゲスト迎えた、音楽的野心と冒険心に富んだ意欲作『Migration』

前作を越え、国を越え、カテゴリーを越え、その先へ

 Bonoboことサイモン・グリーンの6作目となるアルバム『Migration』が届けられた。2013年にリリースされたアルバム『The North Borders』は全英トップ30入りを果たし、全米/全米の両エレクトロニック・チャートで1位を獲得。特にエリカ・バドゥが参加したナンバーは大きな話題を呼び、玄人筋からの評価も高かった。だが、新作は結論から言うとさらに“その先”へと足を踏み入れている。アルバムのテーマはグリーン曰く“移住”だったそうだが、本作が地理的なボーダーを飛び越えた、文化的重層性を有したアルバムなのは間違いない。

BONOBO Migration Ninja Tune/BEAT(2017)

 例えば、カナダ出身のRhyeがフィーチャーされた《Break Apart》は甘美なハープと流麗なホーンがメランコリックな風情を醸しているが、彼がヴォーカルを録音したのはベルリンのホテルの一室だった。一方、グリーンがトラックの構造を組み立てたのは、大西洋を横断するフライトの機内だったらしい。それらが混然一体となり、Rhyeのシルキーで官能的なヴォーカルを引き立てている。

 そもそも、本作の大部分が旅の途中や旅先で作られており、そうした事実が本作に無限とも言える空間的な広がりを与えているのである。サンプラーを使用し、香港の空港のエレベーターや、シアトルの雨、アトランタの洗濯乾燥機や、ニューオリンズのエアボートのエンジンの音などを織り込んでいるのも効果的だ。

 前作に比べて曲ごとの音楽的振幅が大きいも特徴だろう。冒頭を飾る表題曲は典雅な生ピアノの調べとラグドなブレイクビーツと妖艶な女性ヴォーカルが絡み合う。《Outliner》では2ステップをスウィンギーに翻案したようなビートで迫り、《Second Sun》では凶暴なフィートバック・ノイズと優雅なストリングスが違和感なく同居している。《Kerala》ではブランディーの名曲からヴォーカルをサンプリングし、素材として活用しているし、《Grains》ではピート・シーガーの声をこれまた大胆にサンプリングしている。

 本作のリリース前、グリーンはNYのOUTPUTというクラブでオールナイト・レジデントDJを務め、そこで本作所収の曲を試運転よろしくプレイしたという。また、ドイツの名門テクノ・レーベル、コンパクトのスタジオを訪れるという貴重な機会にも恵まれたそうだ。そうした経験が本作にも還元されているのだろう。モロッコ人を含む4人のゲスト・ヴォーカリストの人選も的確であり、音楽的野心と冒険心に富む意欲作がここに誕生した。ますます研ぎ澄まされたサウンド・プロダクションとアレンジの妙に唸るばかりである。

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