異種アーティストによる“新世界”へ導くセッション

 アメリカの音楽シーンの中で、生まれるべくして生まれた異種アーティスト・セッションの姿といってもいい。ニッケル・クリークパンチ・ブラザーズのメンバーとしても活動する、ブルーグラス界の天才マンドリン奏者&シンガーであるクリス・シーリ、そしてNYジャズ・シーンのトップ人気のピアニストであるブラッド・メルドー。この二人の最初のパフォーマンスは2011年9月にロンドンにて行われ、2013年にははじめてデュオによるツアーが敢行された。その成果といえる二人の初アルバムとなったのが本作である。シーリにとっては本格的なジャズ・ピアニストと共演による公式デュオ・アルバムは初であり、またその相手となったメルドーは2014年にドラマーのマーク・ジュリアナとの異色デュオ作や今年に入ってからの同世代の人気サックス奏者ジョシュア・レッドマンとのデュオ作『ニアネス』をリリースし、何気にデュオ編成の話題作続きだ。

CHRIS THILE,BRAD MEHLDAU Chris Thile & Brad Mehldau Nonesuch/ワーナー(2017)

 そんな中、期待度満点の本作の内容はというと、二人、あるいはどちらか単独名義のオリジナル曲群とジョニ・ミッチェルボブ・ディラン等のカヴァー曲等で構成。レーベル・サイトでの予約で試聴可能になっていたシングル曲、ブルーグラス系シンガー・ソングライターのデヴィッド・ローリングスジリアン・ウェルチによって書かれたナンバー《スカーレット・タウン》からアルバムの持つ世界観は十分に伝わってきた。

 マンドリンとピアノに導かれ、クリスの歌声がフィーチャーされたこの曲を聴くとわかるが、そこには異なるジャンルの色彩が二層になりながらも時にミックスしてひとつの強力な色調を生み出し、二人の卓越したインプロヴィゼーションがその音楽にイマジネイティヴな要素を与える。アメリカーナな雰囲気を漂わせながら、NYの都会の夜の空気の中で聴いてもまったく違和感のない、どこかソフィスティケイトされた風合いが絶品。アメリカ音楽のトラッドと革新が導く“新世界”。