RM jazz legacyの新作はファンクネスを意識した
――RM jazz legacyの新作『2』は短いスパンで届けられましたね。まず聴いて思ったのは、以前よりもやりたいことがはっきりしてきたんじゃないかなと。
守家「そう、もっとわかりやすくしたんだよね。ジャズ・ミュージシャンに集まっていただいて」
――WONKのお2人は聴いてみていかがでしたか?
荒田「疾走感、ですかね」
江﨑「個人的には、それぞれ色の違うドラマー陣のグルーヴにやられました。アルバムを通して聴いてみると、大塚さんと守家さんのディレクションが効いているのかなと思う部分が多々ありますね。こうしたスタイルでの制作も試してみたいと思いました」
――あとは前作もそうだったけど、録音が普通のジャズみたいな感じではないですよね。パーカッションの音だけ大きかったり、スネアの音だけ抜けていたりして。前作から変化したのはどんなところですか?
守家「前作はすべてアナログ・テープで録って、アナログでマスタリングしたんですよ。僕は(人生の)8~9割くらいレコードしか聴いてこなかったけど、いまはデジタルの音も聴いてるんですよね。パソコンがない時代に育って、パソコンの登場によって劇的に音楽やライフスタイルが変わっていった挟間の世代。だから、前回はアナログの集大成みたいな感じで作ろうという狙いがあったんですけど、今回はデジタルで録ってみたんです。ただ、舌の感覚と一緒で、アナログで培った感覚は身体に染み付いているから、その感覚を活かしながら僕がミックスもして、マスタリングは向啓介くんというバークリー音大でエンジニアの勉強をしていた方にお願いしました。僕だけだと絶対にアナログっぽい感触になってしまうから、最後の盛り付けだけは20代後半の若い人に頼みたかったんです。彼だったらどう転んでも新しい感覚になるはずだから」
――なるほど。
守家「録音やビートで言うと、ファンクネスは意識しましたね。前作ではあまりそういう雰囲気を出さなかったけど、LPを出したときに〈せっかくパーカッションやドラムの良い音が入っているから、DJの現場でかけるときにもうちょっとそこがほしい〉とよく言われたので、まずはドラム、パーカッション、リズムを前面に出すというのを徹底して。その次に坪口さんの鍵盤をちょっとずつ積み上げて、僕のベースはあとから好きなだけ弾くという感じ。でも、僕はレゲエやダブをずっとやってきたから、個人的な趣味で言うとベースをもっとグングン出したくなってくるんですよ(笑)。そこをどう抑えるかがポイントで。(自分のベースは)接着剤というか背骨の役割をしながら、とにかくドラムやパーカッションを前に出そうと」
――だから前作よりもグル―ヴィーになっているし、DJ的にも使いやすそうな感じがしますね。
大塚「確かにそうですね。前作は〈第一印象が大人しい〉という感想もあったし、もっと軽やかで楽しい感じもアリかなと思っていたので」
――もっと言えば、ジャイルズ・ピーターソンが好きそう(笑)。
大塚「あー、そうなのかな(笑)。だとしたら嬉しいけど。WONKの2人は世代的に、ジャイルズってどういう存在なんですか?」
荒田「もちろん知ってはいるし、リスペクトはしているけど……」
大塚「特別なヒーローという感じでは、そんなにない?」
荒田「うん、そうかもしれない」
大塚「ヒップホップはどんなものを聴いていたんですか?」
江﨑「僕はヒップホップを聴きはじめたのが、このバンドに入ってからなんです。それより前は、ずっとECMに傾倒していたので」
荒田「小学3年生のときに、クーリオというラッパーにハマって。そこからDMXに入れ込んだりもしたんですけど、J・ディラを知ってからはビート・ミュージックをどんどん掘るようになりました」
大塚「WONKのデビュー作は、Jazzy Sportで先行リリースされていたじゃないですか。それは何かきっかけがあったんですか?」
荒田「僕がJazzy Sportのイヴェントに遊びに行って仲良くなったのもあって、ぜひやらせてくださいとお願いしたんです。特にBudaMunkさんのビートが大好きで、ドラムのフィールでもかなり意識して叩いていますね」
――Mitsu the Beatsも好き?
荒田「大好きです。レーベルだとorigami PRODUCTIONSも」
お互い違うからこそ、繋がったら良いものが生まれるかもしれない
――WONKはDJもするんですか?
荒田「たまにしますけど、そのときはAbleton Liveを使っています。レコードも一応買うけど、それでDJをやろうとは思わないですね」
大塚「やっぱりそうなんだ。レコードを集めたりはしないの?」
江﨑「ECMの作品とかは買うんですけど、それ以外は基本的にネットで済ませています」
大塚「そんなWONKがアナログを切っているのは、レコードで聴いてほしいという想いもあるから?」
江﨑「そうですね。僕らの世代からすると、音楽はデジタルで聴くものになってしまっているけど、所有欲を満たすためのモノとして考えたら断然アナログなのかなと」
荒田「周りの格好良いDJはみんなLPを使っているし、そういう人たちに向けてもLPは出し続けたいなと思っています」
守家「レコードはもう、デザインがアートだもんね。絵画と一緒だよ。いまはいい時代なんじゃないかな。いろんな価値観があるし、みんながそれを共有できている。アナログもデジタルも、それぞれの良さを分かち合えるし」
――DJ文化との関わり方も、世代によって変わってきている気がしますね。僕や大塚さんの世代は、J・ディラを〈古い音楽をサンプリングしているDJ〉として聴いていたし、元ネタを知ることがとにかく重要だった。でもWONKの世代は、ビートメイカーとしてもっと機能的に聴いている感じがします。
荒田「そうかもしれないですね。ほかの同世代よりは知っているほうだと思うけど」
大塚「あとは、DJが果たすべき役割も変わってきている気がします。ジャズのみに限定しても、クラブでレコードを回してダンスさせればOKという時代ではもうないと思うし。そもそも、昔から〈踊るためのジャズ〉よりも〈本物のジャズ〉をかけたかったので」
――『2』のライナーノーツでも書かれていましたね。〈クラブ=単に踊れる、というイメージから脱却し、ジャズ・ミュージシャンの一流の技量を活かしたソロやグルーヴを、ジャズの垣根やクラブのイメージを取っ払って、フィーリングとして心地良く伝えたい〉と。
大塚「長年クラブでDJをやってきたし、ジャズのライヴをたくさん観たり、いろいろなことを経験してきて……そういう自分にこそできることをしたいんです。続々と出てきている若い世代もおもしろいし、昔から聴いてきた古いレコードがもたらす発見もある。その両方を垣根なく聴いてもらえたらいいなって。良い音楽を広めるのもDJの役割だと思うし、私も教科書っぽく勉強するのとは違う聴き方をしてきたタイプなので、新しい世代の考え方に共感する部分がすごくあるんですよ」
江﨑「僕らもジャズをやっているわけではないですけど、世界的にもブラック・ミュージックを太い軸にして、ジャズとヒップホップの人が組んだりするケースがかなり増えていますよね。そういうことを日本でもやっていけたらという気持ちはあります。あとは日本のWONKというプラットフォームの上に、海外のアーティストも乗ってもらいたい」
荒田「ベン・ウィリアムズやマイルス・ボニーを誘えたらいいよね、みたいな話もしているんですよ。だから、ハブになりたいよね。WONKが間に入ることで、ジャズ・ミュージシャンと、KANDYTOWNのようなヒップホップの人たちを繋げることができたらいいなと」
江﨑「そうそう、ルーツやソウルクエリアンズ的というか……」
荒田「ブレインフィーダーみたいなね。大塚さんがやっていることも、まさにクラブとジャズ・ミュージシャンを繋ぐハブの役割だと思うんですよ。そういう意味では、表面的にやっていることは違うけど、お互いに繋がるところがあるんじゃないかな」
守家「だから、何か一緒にできたらいいよね。僕らは僕らの世代で打破したいものがあるし、君らも君らの世代で新しいところに向かって表現したいことがあるだろうから。お互い違うからこそ、良いものが生まれるかもしれないしね」