UKロック・シーンの動向
人気グループがファンの求める音をきっちり作ってきた――2016年のUKロック・シーンを振り返るとそんな印象。バンド・サウンドへ回帰したレディオヘッドをはじめ、『Screamadelica』の続きを見せてくれたプライマル・スクリーム、盟友エド・ビュラーを連れて〈死〉をテーマに退廃美を極めたスウェード、短尺の曲に叙情派ロックの旨みを凝縮したトラヴィス、デビュー時みたいな粗い質感のサイケ・ロックを携えて再結成したコーラルなど、挙げていけばキリがありません。
その裏で若手にチャンスが巡ってきづらかったのも事実ですが、オーストラリアのDMA'sに負けじとブリット・ポップの再評価運動を推進し、ギャラガー兄弟も御用達のデイヴ・サーディを指揮官に迎えて聴き手のシンガロング欲を刺激したキャットフィッシュ&ザ・ボトルメンは、頼もしい存在でした。また、マイケル・ジャクソンへの憧れをストレートに打ち出した1975や、LAに移住したグラム・ロッカーのストラッツ(2017年2月に日本デビュー!)、イマジン・ドラゴンズ級の大陸的なスケール感を手に入れたバスティルが、国外に照準を合わせたのも英断だったと思います。 *山西絵美
スペイン産のガレージ・ロック
ここ数年、ガレージ・ロックの首都はバーガーのお膝元であるカリフォルニア、との認識が一般的でしたが、それがNYでもロンドンでもなく、スペインに移転した模様。発端はハインズで、そこから〈彼女たちのプロデューサーが率いるパロッツもヤバイらしいよ〉となり、あとは芋づる式に出るわ出るわ。パロッツのマブダチであるロス・ナスティーズが〈SXSW〉で大暴れし、ウェイヴスみたいにパンキッシュな音を鳴らすアリメントの2012年作『Holy Slap』がタワレコで流通開始、一足先に世界デビューを飾っていたモーンも〈スペイン産〉という視点で再注目されました。まだアルバムまで漕ぎ着けていないバンドも多いなか、エレファント所属のワイルド・バルビーナや〈ポスト・ハインズ〉との呼び声も高いアロハ・ベネッツあたりが、そろそろ……かな!? *山西絵美
〈二次元以上。〉界隈の2016年の注目トピックは……
個々で活動していたアーティスト/作家によるスーパー・グループが二次元界隈でも続々と登場した2016年。まずは畑亜貴、田代智一、黒須克彦、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)から成るQ-MHzが年初にデビュー。春にはミト、松井洋平、伊藤真澄のTO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FORESTやAnnabelを擁するsiraphも始動、リリースを重ねている。
また、夏以降はRADWIMPSと深海誠監督のタッグ作となった「君の名は。」を筆頭に、アニメ映画が立て続けて大ヒットを記録。そのサントラも力作揃いで、「聲の形」へは牛尾憲輔がピアノ中心のアンビエントを、「この世界の片隅に」へはコトリンゴが室内楽風のスコアを提供し、それぞれの世界観を彩った。 *土田真弓
ウェッサイの2016年
前年の映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」とドクター・ドレー『Compton』によってある種の歴史的な流れが改めて規定されたこともあって、原点を見つめ直すような大粒の作品が目立っていたUS西海岸のヒップホップ。総体としての動きは往時のようにエリアを盛り上げるような作用ではないものの、ヴェテランも若手も入り乱れて結果的にそれぞれのクルーから着実に良作が届いていた印象だ。 *出嶌孝次
『Coolaid』でギャングスタ回帰してみせたスヌープ・ドッグが、久しぶりにドギースタイルから送り出したロングビーチのニューカマー。もう少しジャケが良ければ……とも思うが、YGやダズ、コケインといった新旧世代のサポートを受けて、活きのいいLBCスタイルを披露してくれた。
盟友ケンドリック・ラマーとは異なるギャングスタ的な角度からストリートの凄みを切り取るQさまのメジャー2作目。カニエやヴィンス・ステイプルズ、アンダーソン・パーク、E-40らが参陣し、タイラー・ザ・クリエイターの制作曲にドッグ・パウンドが客演するという美しい演出もしてくれた。
メロウ・ハイで活躍したドモのソロ・デビュー作は、これまでのオッド・フューチャー作のなかでも図抜けてソウルフルでLAらしいレイドバック・ムードを帯びた仕上がりだった。ゲスト陣も含めてメロディアスなラップとユルい風情が横溢し、メロウな雰囲気で酔わせてくれる一枚。
DJクイック&プロブレムのタッグ作など、CDで入手しづらいものも含めて若手と結び付くヴェテランの動きが堅調なのも西海岸らしい動き。コラプトやトレイ・ディー、CMWのチルら一時代を築いたOGの揃った今作でも、コンプトンAVからコケイン、キングTまで新旧世代が気を吐いていた。
長らくアルバムが待たれていたアンダーソン・パークとノレッジのタッグ。まるでラファエル・サディークがラッパーになったような歌唱の振る舞いは、連綿と紡がれてきた西海岸メロウの粋な流れも感じさせるもの。そこにストーンズ・スロウ的なビート・ミュージックの系譜が重なった快作だ。