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★“なんだかやれそう”(2012年のセカンド・アルバム『たからじま』収録)

――“なんだかやれそう”はセカンド・アルバム『たからじま』のリード・トラック。

夏目「とはいえ、最後に出来たんですよ。“渚”と“サマー・ハイ”(2011年)のシングル2作をプロデュースしてもらった古里おさむさんが『たからじま』にも付いたんですけど、おさむさんから〈夏目くんの本音が出ている曲が1曲欲しい〉と言われて、どうしようかなと。でも強い言葉を使うのがちょっと怖くて、本当にこれで良いのかなと思いながら作った曲ではある」

――〈どうしたって落ちていく砂時計を返して あいつは笑ってる〉という歌詞でもう〈おー! カッケー〉と思いますよ。

夏目「ヌハハハ(爆笑)!」

――〈どうしたって沈んでいく船で あいつはまだ宝の地図を描いている〉 という箇所も格好良いし、男の子にアピールする歌詞だなと。女の子にはもしかすると理解されにくいかもしれないけど(笑)。

菅原「〈なんだかやれそう〉って聞いたときは、本当にみんなで〈それだ! それだよね!〉となった」

夏目「自分のなかで恥ずかしいと思っていることを言ってみようとしたんです。比喩に任せないで、ちゃんと表出するということを初めてしたかもしれない。ただ、『たからじま』までの僕が書いてきた男の子像というのはちょっとナヨっとしていて、〈一回負けてるんだけど、やっぱり……!〉という奮起の仕方なんですよね」

――ベックの“Loser”的メンタリティー?

夏目「そうです、そうです(笑)。それを本当は払拭したいという気持ちが(いまの)自分のなかでは強い。“なんだかやれそう”という曲は、その“Loser”感が凄く強く出ているから、自分のなかでやっぱりまだ恥ずかしさが残っていたんですね」

菅原「でも割り切って振り切った1曲ではあるよね、確信的に」

夏目「そうだね。『たからじま』というアルバム全体を通して行った、自分を登場人物にして自分のことを描くというセルフ・ドキュメンタリー的な作詞法は、魂を削る作業だからちょっと辛かったんです。その後、そういう酷なやり方とは違う手法に移ったという意味でも、自分の気持ちをなるべく素直に書くことのできた“なんだかやれそう”はエポックメイキングな1曲であり、スタート地点だったかもしれない」

 

★“手紙の続き”(2012年のセカンド・アルバム『たからじま』収録)

――そして、この頃から菅原くんの書いた曲がアルバムに入るようになってきた。

菅原「そう、『たからじま』からですね。曲は書いてはいたけど、完全に自分の趣味でソロの世界だった。ところが、『たからじま』を作る前に〈もっとカラフルなバンドにしていこう、菅原の曲も入れたほうが良いんじゃない?〉となった」

――夏目くんは、菅原くんが曲を書いているのは知っていました?

夏目「いや、〈曲を作ってる、持ってくる〉とは言うんですけど持ってこない、みたいな状態が1年ぐらいあった」

菅原「あった、あった(笑)。自分の出る幕はないと思っていたし。いまでも〈夏目がいるからそれで十分なんじゃない?〉とたまに思うけど、よくよく考えてみると、バンドというものはそうじゃないところもあるのかなと。ビートルズとかがまさにそうですし」

――また、2人の声質の違いが良いんです。夏目くんはスウィートで繊細な声だし、菅原くんは男っぽくて渋い声で、とても良い感じのコントラストが付いている。

菅原「でも、歌うことに関しては、『たからじま』のときは何もわからなかった。“手紙の続き”も“本当の人”(『たからじま』に収録)も、バンドの想いを僕の身体を通して言っているだけ。自分が歌っているという感覚じゃない」

――“手紙の続き”の歌詞は2ヴァースしかないけれど印象的です。〈靴の紐を二重に結ぶ少年の 書きかけの歌が部屋に響いてる〉というフレーズの次には、どんな言葉が飛び出してくるんだろう?と思わせられる。

菅原「メッセージがあるとしたら、〈凹んでても大丈夫だよ〉ということ。靴の紐を二重に結んじゃうほど慎重でも大丈夫だし、手紙を書けなくても言葉は宙に浮かんでいるし、誰だってそういうものだよ、という曲なんです、実は(笑)。あと(当時のシャムキャッツには)わかりやすくスタジアムっぽい曲がなかったから、それを4人でやりたいなというのがあって。大きい会場でやったら楽しそうだなと思いながら作りました」

――菅原くんは、そういうふうにちょっと引いて全体を見渡したうえで、足りないところを埋めようというスタンスですか?

菅原「完全にそうですね」

――自己主張の強いメンバーが2人いると、バンドが割れちゃうことが多いし。

菅原ブラーとかもそうですもんね」

夏目「でも、僕もそんなに〈俺が俺が〉というタイプではないよね」

菅原「まあね。それはそうだよ」

夏目「僕はねえ、いつも迷ってる(笑)」

 

★“MODELS”(2014年のシングル)

――“MODELS”はサード・アルバム『AFTER HOURS』からのリード・シングル。この曲を初めて聴いたとき、歌詞で登場人物のキャラクターをきちんと描こうという強い意思が伝わってきて感動しました。

夏目「この時期より前は、オケを全部録り終わってから歌詞を書いていたんです」

菅原「書かれるであろう詞を想像しながらギターのリフを考えていた。でも実際は〈違った~!〉みたいな(笑)」

夏目「この頃から楽曲の構造を考えるモードになったので、歌詞のスタイルも以前とは視点が変わりました。『AFTER HOURS』では、アルバム全曲の歌詞を書く前に主人公が誰で、時間は何時で、季節はいつで、と設定を全部決めて、物語のプロットを組み立ててから歌詞を書くという作業に変えたんです。それが上手くいったのかもしれない」

――“MODELS”は同棲しているドライバーとOLの若いカップルが主人公ですが、『AFTER HOURS』の収録曲にはいろいろな職業の人が登場します。

夏目「そうですね。このアルバムの成り立ちから話すと、僕たちが暮らしていた千葉県の浦安という町は、震災後の液状化で大変だったんですよ。前作の『たからじま』は震災後のリリースだったけど、へこたれていたくなくて、〈いやいや! この国はいろいろあるけど、良いじゃん〉というモードだった。〈俺たち、バンドをやっていこうと思ってたのに……こんなことになっちゃったけど、やるしかないし!〉という気持ちを込めたのが“なんだかやれそう”だった。でも、もう一回地震があったら、この町はマジでなくなるだろうと簡単に想像できたし、僕たちのバンドとしての強みは地元がほとんど同じというところだから、自分たちの町を音楽として残そうというテーマが出てきた。町を描くとなると、そこには当然いろんな職業の人が住んでいることに思い至るわけです」

――それこそ“FOO”には裁判官まで登場するし。『AFTER HOURS』の歌詞では人称を使い分けて、登場人物たちの内面に入り込みながら彼らの日常や想いを描き分けていますよね。

夏目「そうです。あと、そのときによく考えていたのは、どうして俺はまったく知らない場所から出てきた音楽に感動できるんだろう?ということ。アズテック・カメラオレンジ・ジュースなどイギリスの地方色の強い音楽を聴いても感動できるということは、シャムキャッツも場所の名前や固有名詞をどんどん入れていくほうが強くなれるんじゃないか、と思ったのが大きかったですね」

菅原「そのことについては、僕もすごく考えています。僕自身はそんなに詞を読まなくて、鳴っている音に感動するタイプだから、ネオアコを聴いたときにも、コードの和音の組み立て方などに凄く心が動かされた。“MODELS”ではボサノヴァを参考にしたコードを僕が持っていって、ちょっといままでのシャムキャッツとは違う和音の響き方をさせているんです」

アズテック・カメラの83年作『High Land, Hard Rain』収録曲“Oblivious”

 

★“AFTER HOURS”(2014年のサード・アルバム『AFTER HOURS』収録)

――“AFTER HOURS”はアルバムのタイトル曲ですが、これはどういうきっかけで生まれたのでしょうか。

夏目「何曲か仕上がった段階でアルバムの肝になる曲が欲しかったとき、(アートワークを担当した)サヌキナオヤくんとミーティングをしていたら、彼が〈AFTERHOURS〉というオルタナティヴ雑誌を持ってきて、こんな感じかな?と見せてくれた。そのときドラムの藤村(頼正)も隣にいたんですけど、〈アフターアワーズ……何かこの言葉は引っ掛かるね〉と、サヌキくんの狙いとはまったく違うところに僕らは反応しちゃって、家に帰ってからパッと詞が出来たんです。後から考えると、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの“After Hours”の雰囲気にもかなり近い。アルバムでは、〈何かが終わった後〉を描こうとしていたし、いろんなアフターアワーズ※と繋がっていったんですよね」

※仕事が終わった後、学校の授業や部活が終わった後、閉店後などの意味がある

――〈騒音が重なって寝息みたい 高速道路の横で息を吐く 君の名前を思い出したり 忘れたりする アフターアワーズ〉というヴァースは、町の詩として素晴らしいですね。

夏目「自動筆記じゃないですけど、この歌詞はさらっと書けましたね」

――ライヴで聴くと、これがまた最高にグッとくるんです。『AFTER HOURS』は〈シャムキャッツの10曲〉を自分が選ぶとすれば、入れたい曲がたくさんあって困る。1曲目の“FENCE”からして、ポスト・パンクはっぴいえんどを合体させてみた、という感じで、こんなふうにはっぴいえんどを採り入れた例はかつてなかったんじゃないかと。

夏目「(会心の笑みを浮かべ)そうですね」

――〈俺はタバコをくわえ一服すると〉や〈君を濡らしてしまうかもしれません〉なんてフレーズは、はっぴいえんどの“抱きしめたい”を少しだけもじって踏まえている(笑)。

夏目「踏まえていますね(笑)。しかも、(『風街ろまん』での“抱きしめたい”と同じく)1曲目に持ってきているという。町を描くとしたら、やっぱり日本では『風街ろまん』が先駆けだから、それに対する尊敬の念もちゃんと入れないとなと」

はっぴいえんどの71年作『風街ろまん』収録曲“抱きしめたい”
 

菅原「日本の音楽というものの歴史に自分たちも乗っかっていることに自覚的になった。日本の昔の音楽を参照して、それ採り入れていこうという意識をちゃんと持ったのはこのときからで、それも震災がきっかけになっているように思います」